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【ホットピ!~HotTopic~】FIFAワールドカップ2026での「大切に思う」振る舞い
2026年09月17日

日本サッカー協会(JFA)では9月1日(火)から30日(水)の1カ月間をリスペクト・フェアプレー強化月間とし、「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ2026」を開催しています。ここでは、SAMURAI BLUE(日本代表)が出場したFIFAワールドカップ2026にスポットを当て、本大会を取材したライターの佐藤景氏にリスペクトに関する特別コラムを執筆いただきました。
JFAリスペクト・フェアプレーデイズ2026の各地での取り組みについてはこちら
グループステージ初戦のオランダ戦直後、公式会見場で印象的な出来事があった。一通りの質疑応答が終わり、FIFAスタッフから終了を告げられたとき、森保一監督は「ちょっといいですか」と断りを入れると、会見に参加していたオランダメディアに向かって静かに語り始めた。
「私自身が日本代表選手になった当時の監督は、オランダ人のハンス・オフトさんでした。私を含め、日本の指導者は、彼からとても大きな影響を受けました。また、ビム・ヤンセンさんにはサンフレッチェ広島で監督として指導していただきました。ご家族にお話をうかがい、彼が眠るフェイエノールト(オランダ)のクラブハウスで遺影に手を合わせました。これまでオランダの多くの指導者や選手が、日本サッカーのレベルアップに貢献してくださいました。あらためて感謝を申し上げたいと思います」
森保監督自身、現役時代にオフト氏から日本代表として組織的な守備とプロ意識をたたき込まれ、サンフレッチェ広島ではヤンセン氏から戦術的な指導を受けた経緯がある。その教えは、選手としての森保監督を育み、現在の指導者像の根幹を形づくった。日本サッカー史を切り拓いてきた先達への感謝は、指揮官個人の原点への思いとも重なる。会見場にいたオランダメディアはこの突然の謝意について、「モリヤスが見せたサプライズ」「日本人には『オン(恩)』という美しい心がある」と感銘をもって報じ、指揮官の誠実な姿勢を称賛した。
公式会見の場でオランダサッカーへの感謝を口にした森保監督
ノックアウトステージのラウンド32で激突することになったブラジルとの試合前にも、森保監督は日本サッカーに貢献した先達に再び敬意を示している。
「(日本代表監督の)先輩であるジーコさんには、お会いした際にいつも『頑張れ』と温かい声をかけてもらっています。そして自分が現役時代、(日本代表で)ファルカンさんからは戦術面だけでなく、一人一人が高い技術をもった『強い個』でなければいけないということを教わりました。私が今の日本代表選手たちに強い個を磨くように伝えているのは、当時の学びからつながっていることです」
日本サッカーが世界との差に苦しんでいた時代、ブラジルからもたらされた戦術眼や技術的アプローチ、そしてピッチ上で戦う個の尊厳は、脈々と現在の代表チームへ受け継がれている。森保監督の振る舞いは、単なる社交辞令ではない。現在の日本代表がどのような歴史の積み重ねの上に立っているかを深く認識し、感謝の思いを形にしたものだった。
JFAでは、サッカーファミリーが共有すべき規範として「リスペクト」という言葉を掲げている。その意味は「大切に思うこと」だ。自らを導いてくれた歴史や人々に心を寄せ、感謝の言葉を伝える森保監督の振る舞いは、まさにこの理念を体現した姿と言える。
日本サッカーはブラジルをはじめ多くの国から学び、成長を遂げてきた
この「大切に思う」という眼差しは、過去の歴史や恩師に対してだけ向けられたものではない。大会の現場で見せたチームやサポーターの立ち振る舞いにも、共通する敬意と配慮が表れていた。
メキシコ・モンテレイで行われたグループステージ第2戦のチュニジア戦後、日本代表が使用したロッカールームは整然と清掃されていた。使用前と変わらぬ状態に戻された室内には、2羽の白い折り鶴とともに、作戦ボードにスペイン語で「Muchas gracias(本当にありがとう)」という感謝のメッセージが残されていた。そして同じ頃、スタジアムのスタンドでは、青いゴミ袋を手にした日本のサポーターが、自らの座席の周りだけでなく、通路や隣接エリアのゴミまで自発的に拾い集め、清掃を行っていた。
日本代表チームやサポーターの振る舞いは、現場で作業を行う現地の清掃スタッフや大会ボランティア、メディアによって写真や動画がSNS上に投稿され、「使った場所や現地で働く人々への深い配慮がある」と反響を呼んだ。
多くの観客が詰め掛けたチュニジア戦。試合後には日本のサポーターが清掃する姿が見られた
森保監督はチュニジア戦の前日会見の時点で、海外メディアから日本人の行動や国民性に関する質問を受け、次のように答えていた。
「多くの日本の皆さんが『帰る時は来た時よりも美しく』という言葉を知っていると思いますし、われわれチームもロッカーの掃除をして帰り、サポーターの皆さんもスタジアムでゴミを拾って帰る。そこは日本が世界に誇れる文化だと思っています。以前、『ゴミを拾ってきれいにすると、拾う役割の人の仕事を奪うことになるのではないか』と言われたことがありました。道具を片付ける際、ブラジル人の用具係から『私の仕事をなくさないでください』と言われたこともあります。ですが、みんなで助け合ったり、協力し合ったりすることは日本人にとって自然なことです」
かつては驚きや、時には文化的な誤解を持って捉えられていた日本人の行動も、長年にわたって継続されてきたことで、今では「環境や人に対する感謝と敬意の表れ」として、海外メディアや他国のサポーターにも広く理解されている。実際、今大会のスタンドでも、試合後に青いゴミ袋を手渡された対戦国のサポーターが、日本のサポーターと一緒になってスタンドの掃除を手伝う光景がごく自然に見られた。日本が持ち込んだ文化は、着実に世界に共有されていた。
今回のワールドカップは北中米の3カ国にまたがって開催され、出場チームの増加とそれに伴う長距離移動や過酷な気候による負荷、加えて高騰し続けたチケット価格など、肥大化する商業主義の側面が強く印象付けられた大会でもあった。さまざまな課題や混乱が議論されたことは記憶に新しい。
そうした巨大なイベントの喧騒の中にあって、日本代表の指揮官、チーム、サポーターが一貫して示していたのは、関わる人々や歴史、そして環境そのものを「大切に思う」振る舞いだった。ピッチ内外で重ねられた敬意と配慮は、単なる一時的な話題にとどまらず、思いを伝える確かな姿勢として、北中米の地にもしっかりと刻まれた。
脈々と受け継がれるリスペクト・フェアプレーの精神はワールドカップの舞台でも発揮された
ホットピ!~HotTopic~
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