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「子どもたちの心に寄り添おうと歩んできた、スポーツこころのプロジェクトの10年」東日本大震災から10年~リレーコラム 第7回~
2021年03月23日
東日本大震災から、10年の時がたちました。国内外から多くのサポートが寄せられ復旧が進んだ一方で、復興にはまだ長い道のりが残されています。それぞれの立場で、東日本大震災とこの10年間にどう心を寄せ、歩んできたか。ここではサッカー関係者のエッセイやコラムをお届けします。
東日本大震災で被災した子どもたちの心の回復を応援する「スポーツこころのプロジェクト」。この3月で10年間の活動を終えることになりました。
第7回は、同プロジェクトの運営本部長、手嶋秀人さんのエッセイをお送りします。
スポーツこころのプロジェクトが10年間の活動に終止符を打つ。長いようであり、短いようであり…。あの大震災を経験した子どもたちと彼らに寄り添ってきた夢先生らを思うと万感胸に迫る思いがある。
日本サッカー協会(JFA)は2006年、「JFAこころのプロジェクト(詳しくはこちら)」を設置した。その前の年、いじめにより自殺に追いつめられた子どもたちの報道が相次ぎ、社会問題となっていた。
「われわれは子どもたちにサッカーを教える機会が山ほどあるのに、正義感や倫理観、人を思いやる気持ちといった『心』の部分をほとんどと言っていいほど教えていない」。忸怩(じくじ)たる思いを持った川淵三郎キャプテン(当時、JFA会長)の指示でプロジェクトを立ち上げ、検討を開始した。
プロジェクトは1年の準備期間を経て、2007年4月から各地の小学校で「夢の教室」をスタートさせた。川淵キャプテンは当初から、いずれはスポーツ界を挙げてやるべきだと考えていた。私もこの活動をJFAの専売特許にするつもりなど毛頭なかった。だから、教壇に立つ「夢先生」は、サッカー選手に限らず、各競技のアスリートの中から有志を募って授業を行ってきたのだ。
JFAこころのプロジェクト発足から5年、「夢の教室」が軌道に乗ってきたときに起こった東日本大震災。連日にわたって災害のニュースが伝えられていた。ある時、被災した男性が「子どもたちの元気な姿に元気づけられます」と話しているのをテレビで見た川淵キャプテンは、「子どもたちの笑顔が大人たちに生きる活力を与えくれる。その子どもたちに元気や希望を与えられるのがスポーツであり、彼らの憧れであるアスリートの存在だ」と思い立つ。
震災から1週間後、「夢の教室」の映像の編集に着手。1週間後の3月25日、そのDVDを持参し、川淵キャプテンに随行してトヨタ自動車の会長を務められていた張富士夫さんを訪ねた。
張さんはその年の4月1日に日本体育協会(現、日本スポーツ協会)の会長に就任することになっていた。川淵キャプテンの意図は、日体協の主導によってスピード感を持って被災地全域に授業を広げていくことだった。張さんは「JFAのノウハウを横取りするようで申し訳ない」と言いつつも、DVDを見て即決してくれた。
3月31日には日体協、JFA、日本オリンピック委員会(JOC)、日本トップリーグ連携機構(JTL)の関係者による会合が持たれた。最初はプロジェクトの趣旨と乖離(かいり)した意見も出たが、それはプロジェクトの本質を知らないが故のこと。実際に「夢の教室」を視察してもらうと、関係者の心は一つになり、実現に向けて一気に動き出した。
果たして張会長の下、日体協とJOC、JFA、JTL四者による「スポーツこころプロジェクト」が発足した。財政的なサポートは、日本スポーツ振興センター(JSC)が引き受けてくれた。カリキュラムについてはスクールカウンセラーや臨床心理士の指導も仰いだ。
設立会見から半年後、岩手県大船渡市の蛸ノ浦小学校を皮切りに「笑顔の教室」がスタートした。
スポーツこころのプロジェクトの「笑顔の教室」がJFAのそれ(夢の教室)と異なるのは、対象となるのが、震災を体験した子どもたちだということ。大切な家族や友だちを亡くした子どももいれば、津波で家を流された子どももいる。当然、夢先生は、通常の授業とは異なる重圧や責任を伴う。言葉遣いや表情一つにも細心の注意を払わなければならない。何より、子どもたちの心に寄り添い、彼らの未来に目を向けてあげることが大切だ。
難しい挑戦にもかかわらず、500人ものアスリートが自ら名乗り出てくれたのは、被災地の子どもたちの力になりたいという熱い思いだった。
「じえいたいになって、こまっている人を助けたい」
「大工になってみんなの家を建てたい」
「夢先生が行ってくれた授業のおかげで、クラス皆が『心が一つ』になったと思います。私も前を向いてがんばろうと思いました」
「今日は『夢』という字をぼくにあたえてくれてありがとうございます」
「どんなときでもあきらめない、がんばる、くじけないとか言ったことが心に残りました。二人ともとても面白い夢先生でした。くじけたとき、かなしいとき、ぼくたちを思い出してください」
10年前に「笑顔の教室」を受けた子どもたちのメッセージ(原文ママ)だ。彼らは既に成人し、それぞれの道を歩んでいる。人生の岐路に立ったとき、夢先生を思い出してほしいと思う。
被災地への意識は時間の経過とともに薄れていくものだし、支援には限界もある。しかし、プロジェクトは10年間にわたり、被災地全域で、そして、常に100%の熱量で行われた。最後の年となった2020年はコロナ禍によりオンライン授業となったが、夢先生は対面の授業と寸分違わぬ姿勢で行い、子どもたちに珠玉の言葉を送ってくれた。
JSCの財政的支援に助けられたことは言わずもがなだが、なにより、被災地の子どもたちを思う夢先生の“熱き心”がなかったら続けられなかっただろう。
今後は、JFAこころのプロジェクトがこの活動を引き継いでいくことになる。夢先生やスタッフたちの気持ちは決して風化することなく、これからも熱のこもった授業を続けていってくれるだろう。
夢先生の思いを受け、子どもたちが力強く人生を歩んでくれることを願っている。
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