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「受けた思いをお返ししたい」東日本大震災から10年~リレーコラム 第16回~
2021年04月12日
東日本大震災から、10年の時が経ちました。国内外から多くのサポートが寄せられ復旧が進んだ一方で、復興にはまだ長い道のりが残されています。それぞれの立場で、東日本大震災とこの10年間にどう心を寄せ、歩んできたか。ここではサッカー関係者のエッセイやコラムをお届けします。
第16回は、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県山田町のスポーツ少年団「FC山田ヴェルエーニ」の梶山正敏監督のインタビューをもとに、サッカーが紡いだ縁と復興への歩みを振り返ります。
山田町は宮古市と大槌町に隣接し、太平洋に面する沿岸部にある。震災時は津波で大きな被害を受け、大規模な火災にも見舞われた。だから、「おかげさまで今は震災前と変わらないような活動ができています」という梶山さんの言葉には驚かされる。復興へは並々ならぬ苦労があったはずだ。穏やかな口ぶりはそれを感じさせない。まじめで控えめな県民性だけが理由ではないだろう。「私たちよりも、もっと大変な状況の方もいる。被災地のクラブの代表のようには語れない」との思いがある。痛みを知る人間は他人の傷にも思いが至る。悲しみが多いほど、人にも優しくできるという名文句もあった。
10年前の3月11日。翌日に気仙沼への遠征を予定していたFC山田ヴェルエーニは試合に使う道具を1カ所に集め、配送を依頼していた。激震後の津波で、それが全て流された。「ユニホームから、ベンチから、必要なものが全てなくなった。物資から言えば、ゼロからのスタートだったですね」。高台にあった山田町民総合運動公園サッカー場は無傷だったが、支援に訪れた自衛隊の拠点に。「とてもサッカーどころではないというのが実際のところでした」と述懐する。
子どもたちがボールと戯れることができたのは4月末だった。盛岡市で復興支援を兼ねた交流大会に参加した。盛岡まではバスで揺られて2時間。道中の子どもたちの顔には疲れが浮かんだが、ピッチに立ってボールを蹴ると一変した。「わーわー、キャーキャーとはしゃいで、目を輝かせていました。ああ、やっぱりサッカーができるというのは、こんなにありがたいことなのか。それを痛感しましたね」。それまでクラブでの活動はなかった。一瞬でも現実から離れて目を輝かせている子どもたちを見て、サッカーの良さを再認識した。
その後もJFAやJリーグのクラブなどによるサッカー教室や招待試合でボールを触れる機会があった。本格的に活動を再開できたのは震災から半年が過ぎた頃から。金銭的な補助や物資に大いに助けられた。遠征費、ユニホーム、ボール、テント、ベンチ、マーカー、ビブス、照明器具―。今でもクラブを支えている物がたくさんある。サッカーが紡いだ支援の輪への感謝を忘れたことはない。
岩手県沿岸部の指導者同士も助け合い、結びつきをさらに強くした。自分のクラブだけでなく、地域ぐるみで選手を見守り、育てる。そんな雰囲気が醸成された。本人のたゆまぬ努力があって、釜石市出身の菊池流帆選手(神戸)がJリーガーになった。梶山さんは「震災以前から沿岸地域のトレセンはやっていたんですけど、消防団の活動でトレセンのリーダーの方が震災で亡くなって…。そういった方々の思いも引き継いで、子どもたちにはうまくなってほしいんです」としみじみ語る。
サッカーを教えていなければなかった出会いがあり、励ましがあった。だから「地元の子どもに、サッカーを通じて恩返しができたらいい」と感じている。もちろんボールの蹴り方も教える。同じように大事にしていることがある。「今の子たちは震災を直には知らない。当たり前のように支援を受けて、疑問もなく物をもらい、招待をしてもらうというのは普通のことではないですよね。なぜサッカーができているか。感謝をしなければならない。本質的な部分はきちんと伝え、語り継がないといけない」と肝に銘じている。東日本大震災後も日本各地で自然災害が絶えない。「いろんなところで困っている方々がたくさんいる。私たちが受けた思いを、そういう人たちにもお返ししたい。支援してもらった分を、今度はこちらが何かをしていきたい。日々の生活をしていく中で、そういう思いが常にあればいいのかなと思います」。
足でボールを扱うという理不尽を面白がり、ミスがあっても助け合いながら乗り越えていく。サッカーというスポーツの本質は、困難に立ち向かう人の営みそのものに思える。梶山さんはそんなスポーツに魅せられ、生かされてきた。「本当はね、子どもたちをもっと勝たせて喜ばせてやりたい。だけど、世の中は思い通りになることばかりではない。そういうことも分かってもらえればいいと思っています。『負けたときにどうするか、ボールがなくなったときにどうするか』。そういうことをうまく伝えて、人の気持ちが分かる立派な社会人になってくれればいいかな」。地域に生きる指導者は、最後まで穏やかに語っていた。
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