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女性リーダーシップシンポジウムを開催 前編
2021年03月29日
日本サッカー協会(JFA)は2月28日、「JFA女性リーダーシップシンポジウム」を開催した。このシンポジウムは2月27、28日に最終モジュールを迎えたJFA女性リーダーシッププログラムの一環として行われたもので、受講生12人もオンラインで参加した。シンポジウムは、日本オリンピック委員会(JOC)理事でJFA理事の山口香さんがファシリテーターを務め、競技の垣根を超えた4人のゲストを迎えて女性活躍やリーダーシップ論について語り合った。
【登壇者】
田嶋 幸三 公益財団法人日本サッカー協会 会長
岡島 喜久子 一般社団法人日本女子プロサッカーリーグチェア/公益財団法人日本サッカー協会 副会長
三屋 裕子 公益財団法人日本バスケットボール協会 会長/元バレーボール日本女子代表
岩渕 健輔 公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 専務理事/元ラグビー日本代表
【ファシリテーター】
山口 香 公益財団法人日本オリンピック委員会 理事/公益財団法人日本サッカー協会 理事/元柔道日本代表
はじめに~それぞれの経歴
山口 私は筑波大学で教鞭を取る傍ら、JOCとJFAの理事も務め、スポーツ界における女性活躍を推進してきました。このシンポジウムでは今後に向けた話ができればいいなと思っています。
三屋 今は日本バスケットボール協会にお世話になっていますが、競技はバレーボールをしていました。ロサンゼルスオリンピック後に現役を引退した後、教員やメディアの仕事などに携わり、いくつかの企業の社外役員も務めています。1998年に川淵三郎さんに声をかけていただいてJリーグの理事を務め、その川淵さんがバスケットボール界の混乱を収めてくださった後を引き継ぐ形で今のポジションに就きました。私はできる、できないで物事を決めることはしません。アスリートは常にできないことにチャレンジします。そのスピリットはどんな場面でも生かせると思いますので、皆さんにも、できる、できないではなく、やってみたいかどうかで判断してほしいと思います。
岩渕 私はラグビー日本代表でプレーをしていたとき、代表合宿で田嶋会長にキックを教えていただいたことがあります。ラグビー界の人間がサッカーの仕事をするとか、バレーボールをされていた方がバスケットボール界に転身するというのは今も珍しいことですが、今後それが増えていけばスポーツ界全体が活性化していくと思います。私自身、イギリスとフランスでプレーしたことがあり、イギリスでは女性指導者にコーチングを受けていろいろな視点があることを学びました。ラグビー日本女子代表 「サクラセブンズ」 は女性ヘッドコーチの下でリオデジャネイロオリンピックに出場し、私もその強化を担いました。そうした経験を踏まえつつお話しできればと思います。
岡島 私はアメリカに在住しています。外資系の銀行に就職し、その後、アメリカに移住して30年間以上にわたって金融機関で仕事をしました。WEリーグチェア就任に際しては、今井純子JFA女子委員長からお話をいただき、即決しました。女性が積極的に活躍するアメリカで30年以上生活していますので、その視点からもWEリーグに貢献できると思っています。
田嶋 JFAは女性リーダーシッププログラム、WEリーグの創設など、女性活躍社会を推進するために取り組んできました。川淵さんはJリーグチェアマンだった頃から「女性が活躍する社会にしなければならない」とおっしゃっていて、それが少しずつ具現化されてきたと思っています。さまざまな分野で活躍できる女性を育てていくのが女性リーダーシッププログラムで、今回のプログラムに参加してくださった受講生の皆さんには感謝を伝えたいです。WEリーグは今年9月にスタートします。新型コロナウイルス流行の影響はありますが、困難なときこそ改革のチャンスだと思い、岡島チェアを中心にさまざまな問題を解決しながら進めていきたいと思っています。
女性活躍社会/WEリーグ創設に向けて
岡島 WEリーグは女性活躍社会をけん引するということを最大の目標としています。スポーツだけではなく、社会全般における女性の地位を高めていくこと、組織において女性の意思決定者を増やすことを目指しています。「WE」には「私たち」という意味もあるので、女性だけでなく、男性も含めてみんなでつくるリーグにしていきたいと思いますし、女子サッカー選手の地位向上、環境の改善にも取り組んでいきたいと考えています。
山口 スポーツの組織に「女性理事を増やしてください」と言うと「登用したい気持ちはあるが、なかなか人材がいないんだよね」とか、「女性に話をしても断られてしまう」と言われることが多いですよね。その中でラグビー協会は戦略的に女性理事を増やしてきたそうですね。
岩渕 ラグビー協会の理事は24人いて、そのうち5人が女性です。13年に女性理事が初めて誕生し、17年に2人、19年に5人になり、理事の構成上では20%超を女性が占めています。女子ラグビー連盟は元々、ラグビー協会の傘下にはなく、正式に加盟したのは02年でした。それ以降、委員会や理事会で女性が活躍する状況が広がっています。
山口 女性の人材を探す際の苦労はありましたか。
岩渕 「人材がいない」という話が先ほどありましたが、いないというより、しっかり探そうとしていないのではないでしょうか。スポーツのヘッドコーチや監督には、競技のスキルや知識以外にも栄養や睡眠、マネジメントなどいろいろな知識が必要になります。それと同じで、スポーツ団体でトップに立つ人間には多角的な知識が必要であり、年齢や性別、学閥にとらわれることのない人材を登用することで、そのスポーツが発展していくという認識を持つことが重要だと思います。
山口 三屋さんがバスケットボール協会の会長になったとき、私は「その手があったか」と思いましたが、協会内の反応はどうだったのでしょうか。
三屋 (会長就任に)ご理解いただいている方もそうでない方もいると思いますが、私自身がバスケットボールをどう成長させるか、いかにバスケットボールの価値を高めていくかに努めることで理解していただけるようになってきています。女性の人材登用については、理事の改選時に声を掛けたとき、スポーツ界には上下関係があるので「この方が上にいるのならお断りします」ということはありました。「やったことがない」とおっしゃる女性も多いのですが、自分たちの競技の中でいかに女性役員をつくっていくか。「やります」と言える方をいかに早くつくれるかが大事だと思います。
山口 「やります」と言えるマインドはどのように育めば良いのでしょうか。
三屋 やってみなければ分かりません。競技をプレーするときも最初からできると思っているわけではなくて、楽しいし好きだからやっていて、だんだんできるようになっていきます。それは企業でも協会やリーグでも同じ。やってみなければ分からない。失敗したら「ごめんなさい」でいいじゃないですか。チャンスがあったらまず挑戦してみる。できるところからやる。あまり難しく考えなくていいと思います。
山口 スポーツ庁のガバナンスコードでは女性理事を40%以上登用することが求められ、クオータ制(割当制)のように最初から割合を決めて女性を登用しようという意見もあります。一方で、すでに活躍している女性の間では「それをやると『女性だから選ばれている』という誤解を受ける。能力主義で進めてほしい」という意見もあります。
岡島 日本のように欧米社会から遅れをとっているところではスピード感が大事だと思います。その場合、引き受けてくれる人が出てくるまで、人材が育つまで待っているとさらに遅れてしまう。クオータ制のように女性にポジションを割り当てる方策は、日本には有効だと思います。「自分にはできない」と思っている方でもポジションに就いて責任を持ち、周囲のサポートも得てリーダーになれば、顔つきや言動も変わってくるものです。
田嶋 現在、JFAの選手登録は男性が約94%、女性はわずか6%という大きな差があります。理事の割合だけにこだわるのではなく、委員会の委員や47都道府県サッカー協会の副会長、審判員、指導者など、男性の比率が圧倒的に高いところを全て変えていかなければならない。クオータ制ももちろん大事ですが、それ以上に全体的な男女比を小さくしていかなければならないと理事会では話しています。
三屋 田嶋会長は以前から「コミュニケーションスキルが大切だ」とおっしゃっていました。役員になると自ら発言したり、組織内で意見を言わなければならない。コミュニケーションスキルのあり方は今後さらに重要になると思います。
田嶋 コミュニケーションスキルがなければスポーツ界は発展しないと思います。スポーツ界にあるヒエラルキーによって物事が決められていくようでは、世界と戦えません。地位や性別で周囲の人間を納得させるのではなく、正しいコミュニケーションスキルを身に付けなければならないし、その技術を学ぶべきだと思います。私はこれまで優秀な女性の方々に支えられてきました。そういう方たちを生かしたいという思いがWEリーグの立ち上げにつながったのですが、そこで活躍するためには、やはり相手を納得させられる能力、いろいろな意見がある中でリーダーシップを執り、論理的に考えて説明できる能力が必要だと考えています。
三屋 資質のある人は大勢いますので、そういう方たちのコミュニケーションスキルが上がれば、必然的に女性役員の数も増えると思います。
※この記事は、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年3月号より転載しています。
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