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[女子チームのつくりかた]岡山県作陽高校サッカー部女子を創設した野村雅之さんに話を聞きました。
2011年04月08日
2008年に全国高等学校体育連盟サッカー専門部に「女子部」が設置され、高校チームは年々増加しています。
2010年度全国高校サッカー選手権大会(男子)に出場した48校のうち10校に女子サッカー部があることがわかりました。そのうちの3校を「高校チームのつくりかた」として掲載していきます。
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
始まりは、女子生徒の入学者と増やしたいという学校側の考えからです。
作陽高校は男子サッカーが盛んですが、そこで女子生徒の目玉としてサッカー部を立ち上げたらどうかという話になった訳です。
また、学校から車で程近い美作になでしこリーグの「岡山湯郷Belle」があり、そこには県の南の方から何時間もかけてトレーニングに通う中学生もいました。指導者同士の交流もある中で、うちには女子寮もあるし、受け入れられるのではないかと・・・。自然な流れでしたね。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
2002年に作陽高校に初めて1人の女子部員が誕生しました。彼女は中学3年生からすでに湯郷でプレーをしていたのですが、サッカーに専念するために作陽を選んで進学してきました。もちろん当時は男子チームしかありませんから、早朝トレーニングは女子部員が1人交じり、放課後は湯郷のトレーニングに参加するという日々と過ごしていました。
その後、湯郷から翌年に1人、翌々年にも1人と女子部員が3人に増えました。この頃から作陽高校に女子サッカー部を作ってほしいという声が上がりはじめ、学校の中でも認知されてきました。
そして2005年の秋、作陽高校サッカー部女子の立ち上げが学校内で正式に決定したんです。また、湯郷からの提案で単なる高校の部活動というだけでなく、湯郷のユース組織として活動することになりました。
この春には新1年生16人を迎える予定になっていて、確実に増加傾向にあります。本格的に始動する前の数年間、少人数でも女子部員を受け入れて活動する助走期間があったことは状況を把握する上でもよかったと思います。
男子チームがあったことでのメリットはありましたか?
トレーニングのノウハウや地域の指導者との関係など、男子がすでに活動していたからこそできたことが多々あります。現在、湯郷の選手だった池田浩子さんに監督をお願いしていますが、サッカー部の指導者も学校内に10人ほどいるのでいつでも相談に乗れますし、私を含め他のコーチも女子のトレーニングに顔を出したりすることも多いんです。
ハード面がすでに揃っていることも大きいでしょう。例えばバス。サッカー部では現在3台のバスを所有しています。これを共有することで、選手たちの活動の幅は確実に広がります。
また、湯郷と提携したことで美作のグラウンドも使用できるので、男子ともにグラウンドを有意義に活用できるようになったのはありがたいです。美作では隣で湯郷のチームがトレーニングをしている訳ですから、これ以上の刺激はありません。
湯郷とうちの男子チームがよくトレーニングマッチをしたりするのですが、先日はそこに女子の選手を2人ほど混ぜてトライしてみました。女子だけでは到底試合になりませんが、こうした工夫をすることで、女子選手も高いレベルでの実践感覚を得ることができる。男子チームがあるからこそだと思います。
独自のアイデアというものはありますか?
湯郷と提携するにあたって私が最も意識していたのは、バランスです。湯郷があって、作陽高校がある。互いの指導者や選手たち、そして学校といろんなところの相互協力があって活動は成り立っています。その全てに少しでもメリットがなければ続きません。
湯郷へは試合や大会の運営にサッカー部から人員を派遣することもあります。また湯郷の選手の労働枠として女子寮の寮監としての席を一つ作ったんです。寮監としての働いてもらう一方で、選手たちのよき相談相手、あるいは目標になってくれるという相乗効果があります。
サッカー部に対しては、頻繁にグラウンドを使用させてもらったり、選手の確保など、大いなるメリットがあります。こうした持ちつ持たれつといった、バランスのいい関係を確立できているところは作陽ならではだと思っています。
チームが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
流れはすでにあったので、とんとん拍子に進んだところはありますが、提携に至るまでの各方面との調整は必要でした。また、美作市や湯郷との提携文などの書類をすべて自分で制作しなければならなかったのも大変でしたね。いろんなところの資料を取り寄せながら、日々書類と格闘していました。
クラブ創設の際の告知などは、知り合いのメディア関係に片っ端から連絡して、誌面に取り上げてもらえるようにお願いしたり・・・。
あとは状況に応じて、いろんな仕掛けをしていくこと。前の段階ではこれでよかったけど、もっとこうした方がみんな幸せなんじゃないかという形を常に模索しているというか。まあこういうのが好きなんですよ(笑)。
女子チームを持つことに不安はありましたか?
私の家族の女性陣がみんなサッカーをしてるんですよ、かなり本格的に(笑)。そういう環境が当たり前だったので私自身は女子チームを作ることに戸惑いはありませんでした。
ただ、サッカー部男子はそれなりの実力のある選手たちですから、最初はそこへ女子が入ることでちょっと空気感がおかしくなってしまわないかという懸念は確かにありました。しかしそこは湯郷でプレーしている選手でしたから、しっかりとした目標もあり、意識も高かったので違和感はなかったですね。本当によく頑張ってました。その姿を見て大丈夫だと確信しましたね。
初めて女子部員が入ってからの数年は人数も揃わない中、男子と一緒にトレーニングに励んでいた初期の頃の女子部員たちの頑張りで、今のチームの姿があると言ってもいい。
ですからデメリットはあまり感じなかったんです。私は、本当の指導者というのは、レベルや目的、年齢の異なるすべてのカテゴリーで指導できなければダメだと思うんです。私にとって、女子選手を指導することは新たな発見にもなりました。
だから名前も、「作陽高校女子サッカー部」ではなく、「作陽高校サッカー部女子」なんです。別物ではなく、作陽高校サッカー部の一員だということ。これは私のこだわりなんですよ(笑)。
チームトレーニングレポート
まだまだ寒さが厳しい中、授業を終えた選手たちがグラウンドに姿を現したのは午後4時半過ぎのことでした。ここから約2時間強のトレーニングの始まりです。この日は18人が参加していました。
作陽高校サッカー部女子の1週間は、月曜の基礎トレーニングから始まり、火曜はミーティング、水・金曜は美作のグラウンドを使用してのトレーニング、木曜は河川敷を利用した走り込みを行います。そして週末にはテストマッチ、フェスティバルやカップ戦などの実戦を積極的にこなします。
女子チームの対戦相手が少ないという現状はここ作陽高校でも同じです。それでも「中学の男子チームや湯郷の下部組織など、対戦相手を工夫して探しながらできるだけゲームは組めるようにしています」と池田浩子監督は語ります。
池田監督は昨年まではコーチとしてチームに帯同していましたが、今年1月から監督に就任。手探りの状況の中でも、自分が良い環境にあることは実感できるといいます。
「指導者としての素晴らしいお手本がすぐそばにいてくれるのは心強いです。だから今は自分のできることを必死でやってます。指導者として私が大切にしているのは選手とのコミュニケーション。バスの移動時は絶好の機会なので、毎回違う選手を隣に呼んでいろんな話をしますね。他愛のないことでいいんです。何をどう考えているのか、まずは選手を知ることが重要ですから」(池田監督)。
そんな池田監督からの「先週末のゲームで出た課題にしっかりと取り組もう!」という言葉からトレーニングはスタートしました。ウォーミングアップにはさまざまな要素を取り入れた鬼ごっこが活用されます。
始めは歩くスピードから、スキップ、ジョグといったスピードに加え、時間を追うごとに内容もどんどん複雑になっていきます。身体が温まったところで、2人1組でのパス交換。足元で―胸で―頭で―トラップを加えて・・・と、どんどん動きの種類が変わっていきます。
次に行われたのは8人ずつに分かれての三角スペースでのパス回し。2タッチからダイレクト、相手の名前を呼ぶ、スペースを広げるなど、ここでも指示には常に変化があります。その後はメンバーを入れ替えながら、4対2(グループにより3対1)を行い、さらにスペースを広げて3対3、4対4のミニゲームへと展開していきました。ここまでのトレーニングですでに午後6時20分。
これで終了かと思いきや、最後に一番キツそうな体幹トレーニングを組みこんだフィジカルメニューをこなす選手たち。ここでは、また異なる鬼ごっこメニューが登場。
2つのコーンを15メートルほど離して並べ、それを倒さないように7人+鬼が全力でグルグル回ります。鬼と向かい合わせでスタートし、鬼が最後尾に追いついたら鬼が交代。これだけでもかなりのハードワークですが、これに組み合わされているのが腕立て、腹筋、しりとり体幹などパターンの異なる3セットのメニューが用意されていました。
1セット終わる度に猛ダッシュの鬼ごっこに戻ります。選手たちは励まし合いながら、最後は悲鳴を挙げながらも難関を突破していました。
そして、すべてが終わったあとは一列に並んで「ありがとうございました!」とグランドに一礼。合間の動きにも、緊張感を欠く瞬間はなく、楽しさも伴っているメニュー構成に選手たちも充実している様子でした。
Belle Kids Football Club(湯郷の下部組織)から入部した下山愛代さんは、「湯郷では隣のピッチで作陽がトレーニングをしていました。それを見たときにすごく声が出てるし、自分もここでやれたら力がつくと思いました。みんなから頼られる大きい存在のGKになりたい!」と目標を話してくれました。
向谷綾香さんは自分の成長をこう振り返ります。「私は寮生なんですが、ここに来るまでは甘えん坊だったんです。最初はホームシックにかかったりしてたんですけど、寮には常に誰かいて声をかけてくれたり、大人数でゴハンを食べたりすることで寂しさは消えていきました。ここへ来て、両親のありがたさがわかったような気がします」。
「いろんな個性があるのに、ピッチの中ではパスがつながる・・・。“パズル”みたい」(向谷さん)な作陽高校サッカー部女子のみなさんが掲げる目標は全国大会ベスト4。その気持ちを組んだ池田監督から出される高い要求にも真剣に取り組みます。
そんな選手たちに「悔いのないようにプレーできる選手になってほしいんです」と、厳しく、そして温かい眼差しを向ける池田監督。厳しさと楽しさ。一見相反するこの2つの要素がたっぷり詰まった作陽高校のトレーニングでした。
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