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【レポート】能登半島の復興に向けて~巻誠一郎さん(元サッカー日本代表)インタビュー

2024年05月30日

【レポート】能登半島の復興に向けて~巻誠一郎さん(元サッカー日本代表)インタビュー

今年1月1日に発生した令和6年能登半島地震。日本サッカー協会(JFA)は復興支援活動の一環として、サッカーをはじめとするさまざまな競技のアスリートや元アスリートと共に被災地の小・中学校や高校、幼稚園・保育園などを訪問し、体を動かす機会を提供し続けています。JFA防災・復興支援委員会の前委員長であり、元サッカー日本代表の巻誠一郎さんに、サッカーやスポーツを通じた復興応援について聞きました。

※このインタビューは2024年5月14日に実施しました。

被災地を取り残さない、そのために継続した支援を

まだまだ時間がかかる復旧・復興 子どもたちは目に見えないストレスや葛藤を抱えている

――能登半島地震が発生後、2月1日に被災地を初めて訪問されました。当時の印象や現在の復旧・復興状況についてどう感じられていますか。

 当初は現地にたどり着くまでが非常に大変だったことを覚えています。地震の影響で道路が陥没して通れるところが少なく、車1台がぎりぎり通れるような道がほとんどでした。到着してからも生活に欠かせない水道や電気がまだ復旧していない地域は多く、1カ月経ってもこんな状況なのかとその過酷さを痛感しました。現在、少しずつですが復旧・復興はしていると思います。ただ、そのスピードがこれまで見てきた被災地の中でも非常に遅いんですね。5カ月近くたった今も水道が復旧せずにトイレが使えないとか、ある程度は解体されていてもいい頃なのに倒壊した家屋がそのまま残っている地域があるとか、あとはボランティアの方をほとんど見かけることがなく人的な支援も少ないと感じます。そうした状況を見ていると、復旧・復興への道のりはまだまだだなと感じているところです。

2月当時の被災地の道路状況。5カ月が経過した今もなかなか復旧・復興が進んでいないのが現状だ

――そうした状況下、サッカーを通じた子どもたちとの交流にいち早く取り組まれました。

 現地の状況を見てすぐにでも学校や子どもたちのところに行けたらと思いました。やはりいろいろな被災地を回ってきて、特に限界集落といわれる地域や子どもの数が少ない地域における子どもの大切さは、強く感じてきました。子どもの元気や活力は地域にすごい影響力があるんです。地域を元気にすること、そして、5年後、10年後、20年後、その地域の未来を担っていくのは子どもたちですから、一緒にボールを蹴ったり、話を聞いたりする中で何かしら彼らに感じてもらえることや伝えられることがあるのであれば、活動する意義があると。

さらには、子どもたちも日々不安な中で生活していますので、少しでも笑顔や元気を届けられたらいいなと思い、でき得る限り現地に訪問しようと決めました。

――被災地の子どもたちと触れ合う上で、巻さんが大切にされていることは何でしょうか。

 子どもたちは感受性が非常に豊かで、大人の感情や心の内を見抜く力があります。上辺の言葉や行動はすぐに見抜かれてしまう。ですから、(一緒に体を動かす際は)自分自身も本気で楽しむことを心掛けています。子どもたちと本音で話す、本気で向き合う。これが被災地に行く上で、一番大事なことだと思っています。

――子どもたちの心のケアの重要性についてはいかがでしょうか。

 そうですね。被災地では家が倒壊してしまったり、親族が亡くなられてしまったり、さまざまな状況があります。その中で、自分は家も倒壊せず被害はなかったけど、友だちは家が倒壊してしまってどう声を掛けていいか分からないとか、それによって少し距離ができてしまったとか、そういった話は聞きますし、「どうしたらいいですか?」と聞いてくれる子もいます。被災地でも被害の格差があって、そのいろいろな格差に子どもたちは悩み苦しんで、葛藤しているんですよね。

――身近な大人ではないからこそ、打ち明けられることかもしれません。

 おそらくそうだと思います。被災した後、心を閉ざしてしまう、少し暴力的になってしまうなど、普段とは違う行動を子どもたちがとってしまうのは、そうした精神的な不安定さから来るものなんだと思います。

復興支援に積極的に携わっている巻さん。「サッカー選手だった時もいろいろな人に支えられ、応援していただいた。
応援してくださっていた全国の皆さんが困っている、苦しんでいるとき、今度は僕が応援したいんです」と話す

体を動かすことで自然と生まれる会話 子どもにも大人にも心の解放が必要

――5月12日には、石川県鳳珠郡能登町で開催された「JFA・キリン ビッグスマイルフィールド in 能登町」に参加されました。子どもから大人までウォーキングフットボールで一緒になって体を動かし、皆さんの笑顔がとても印象的でした。

 やはりスポーツをしているときはみんな平等。特にウォーキングフットボールは走らないですし、ボールも浮かさないのでサッカー経験にかかわらず、大人も子どもも同じ条件の中でプレーできます。だからこそ、コミュニケーションも非常に取りやすい。自然と励ます言葉が出てきたり、助け合ったりする声がたくさん出てくる。こういうところから前向きな感情が生まれて、被災地の皆さんの悩みやストレスも少しずつ溶かしていけたらいいなと。

――大人も、子どもたちが笑顔だと心がほぐれそうですね。

 もちろん、大人の皆さんもいろいろな悩みや苦しみをたくさん抱えています。そうしたことを一瞬でも忘れて笑顔になれるきっかけを求めてらっしゃったのではないかと思いますし、実際、スポーツにはそういう力があると思うんです。無心でボールを追いかけることによって自然と笑顔になれる。今回のイベントでも皆さんの笑顔をたくさん見ることができて、精神面の重要性を再認識させられました。

――今は仮設住宅が建てられたり、被害状況から復旧の目処が立っていなかったりと多くのサッカー施設が使えない状況にあります。施設面を含めて、環境を整えていくことも今後は求められます。

 サッカーを思いっきり楽しめる環境、自由に体を動かして遊ぶことのできる環境は、とても重要です。それらを我慢する状況が長期化すると、やはり心のゆとりがなくなったり、精神的に不安定になったりしてしまうだろうと僕自身は思っています。ハード面の環境を整えることでその解決にもつながりますし、何より地域のつながりをつくるコミュニティの場としても施設は非常に活用できると思いますので、一日でも早くハード面の整備が進むことを望むばかりです。

競技の垣根なくさまざまなアスリート、元アスリートが復興支援活動に参加している。「アスリートには困難や逆境に
打ち勝つ力や環境に順応する力がある。被災地での交流によって人々を笑顔にするきっかけをつくれるはず」と巻さん

――6月1日(土)には、被災エリアの小学生チームを招待して高円宮記念JFA夢フィールドで「夢キャンプ2024 with SAMURAI BLUE」が開催されます。こうした機会も大切になるでしょうか。

 先行きが不透明な状況から抜け出して少し環境を変えることは、僕はとても良いことだと思います。ずっと被災地で現実を目の当たりにしていると将来も不安になってしまいますから。子どもたちには普段抱えていることを少し開放してあげて、純粋にサッカーを楽しんでもらいたいですね。

夢フィールドといえばSAMURAI BLUE(日本代表)も使っている施設ですし、今回は代表選手との交流もあるとのことですので、子どもたちはきっと少し夢に近づけると思うんです。こういうとき、未来に向かって夢や目標を持つことはとても大切なので、そのきっかけになってくれたらうれしいですよね。大人にとってもリフレッシュする機会になってくれたらと思います。一日限りのイベントかもしれないですけど、子どもの時に経験した特別な時間というのは、僕も小さい頃にそういう経験がありますが、ずっと覚えているものです。震災で失ってしまったものはたくさんあるかもしれない。でも、その中でも、得られるものはあるんだよ、ということを少しでも感じてもらえたらうれしいです。

――最後にサッカーファミリーへメッセージをお願いします。

 復興支援で大切なことは‟忘れない”ことです。サッカー界として、さまざまな支援活動やイベントを展開していますが、復旧・復興には長い年月がかかります。被災地の皆さんを決して取り残さないように、一緒に歩んでいることを示し続けることが大切ですし、継続した支援が必要です。サッカーファミリーの皆さんにもそれぞれの支援の形を見つけていただき、一緒に行動してもらえたらと思います。

現地からは「今までの集まりがなくなって寂しい」「新しい環境でのコミュニティがほしい」「体を動かせる楽しい
時間がほしい」などの声も。5月12日のJFA・キリン ビッグスマイルフィールド in 能登町では多くの笑顔が見られた

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