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[特集]トップ審判員の強化 ~カタール大会に見る傾向とJFA審判委員会の取り組み 世界のトップレベルを目指して大きなチャレンジをする一年に 扇谷健司JFA審判委員長インタビュー 後編
2023年03月30日
FIFAワールドカップカタール2022は、半自動オフサイドシステムの導入など、審判員とテクノロジーの融合が図られた大会となった。日進月歩で進化する世界の審判界に日本サッカー協会(JFA)はどのように追随し、トップに迫ろうとしているのか。JFA審判委員会の扇谷健司委員長にワールドカップでの審判のトレンド、そして、世界トップレベルの審判員の強化に向けた取り組みを聞いた。
○インタビュー日:2023年1月17日
※本記事はJFAnews2023年2月号に掲載されたものです
国内外で求められる審判員のダブルスタンダード
――佐藤隆治さん、山内宏志さんが昨年限りでトップリーグ担当から退任されました。今後、トップレフェリーをどのように決めていくのでしょうか。
扇谷 国内では担当試合のアセスメント(評価)によって順位を決め、JリーグYBCルヴァンカップや天皇杯決勝などでは上位の審判員が試合を担当する形を取っています。ただ、国外の場合は国際審判員として試合を担当する中でAFC(アジアサッカー連盟)がどのような評価をするのかによります。つまり、国内で高く評価される審判員が海外でも同じように評価されるとは限らないんです。今は、リーグ戦を裁くためのレフェリングと、国外で結果を出すためのレフェリングの2種類を使い分ける必要があると考えています。選手の場合も、Jリーグで求められるプレーと海外や代表チームで求められるプレーが異なることは当然あると思います。審判員の場合は使用する機器なども国内と国外で異なる場合がありますし、英語でコミュニケーションを取らなければなりません。その中で国内外どちらにも対応できる優れた審判員が、ワールドカップに選ばれる審判員だと思ます。
FIFAワールドカップカタール2022の決勝で主審を務めたマルチニアク氏は、2013年にJ1で笛を吹いた経験も
――2023年度の審判ディベロップメント体制について、従来からの変更はありますか。
扇谷 一つには、テクニカルハウスを創設したことです。競技規則を電子化し、映像などいろいろなものを載せられるようになっていきます。もう一つ、審判指導者の仕組みを変えていきます。これも大きなことですね。また、佐藤隆治が審判委員会に加わることも非常に大きいと思っています。彼にはVARを担当してもらう予定ですが、同時にAFCのインストラクターとしても活躍してもらい、国内リーグの強化、ワールドカップに日本の審判員を送るという部分に貢献してほしいと期待しています。
――地域担当(RDO=レフェリーディベロップメントオフィサー)の役割や期待することを教えてください。
扇谷 女子やフットサルも含め、地域や都道府県の審判員育成や普及面で活躍している人々とのつながりを持つRDOは、地域とJFAの橋渡しを担う非常に重要な存在です。ただ、設置から5年が経過し、地域や都道府県が少しずつ自立し、いろいろなことができるようになってきた中で、今後は審判指導者養成の改革なども地域や都道府県単位で進めていくことになります。これまでは地域や都道府県の相談役という側面が大きかったのですが、これからは審判指導者養成や審判員育成などのテクニカルな部分や、地域で埋もれている逸材の発掘なども担っていただきたいと考えています。
女性審判員として初めてアサインされた山下良美審判員は6試合で第4の審判員を務めた
世界レベルを基準に若い世代の強化を
――新たな事業や内容を変更する事業はありますか。
扇谷 今、われわれがお願いしているのは、ワールドカップに送り出せそうな、若くて有能な審判員を発掘し、強化してほしいということです。世界の舞台で活躍することを考えると、どうしても年齢の問題が出てきてしまいます。クロアチアのルカ・モドリッチ選手は37歳でも素晴らしい活躍を見せましたが、審判員の場合は年齢が一つのハードルになりますから、それをどう解決するか。われわれは地域レフェリーアカデミーやアンダーカテゴリーの審判員研修会などを実施していますが、その質を高めたい。たとえば、そこにプロフェッショナルレフェリーが赴いて話をするだけでも、若い審判員にとっては大きな刺激になると思っています。
――今年のフットボールカンファレンスでは「その国のサッカーが強くなるには、トップリーグが世界レベルにならなくてはならない」というアンジェ・ポステコグルー監督(セルティック)のコメントがありました。審判員に求められる役割について教えてください。
扇谷 リーグのレベルを高めるというのは、選手だけでなく審判員のレベルアップも意味しています。ワールドカップ後に森保一監督と話をした際、森保監督は「選手にはすぐにファウルを要求するのではなく、フェアにボールの奪い合いをしてほしい」と言っていました。それはつまり、審判員には競り合いの部分をしっかり見てほしいということなんです。J1では少ないと思いますが、カテゴリーが下がり、年代が低くなるにつれてレフェリーの経験値も下がるため、安全策を取ったり、見極める力がなかったり、どうしてもホイッスルを鳴らして試合を止めることが多くなります。それを改善してほしいということでした。森保監督は育成年代のところからの改善を求めています。選手も審判員も若い頃からそういう感覚を身に付けることで、トップカテゴリーに行ってもしっかり試合をコントロールできると思います。われわれとしては、特に若い審判員に対してそのメッセージをどう伝えていくか。テクニカルハウスで映像を編集するなどして審判員全員に伝わるようにしていきたいと思っています。
――2023シーズン、日本サッカー審判界にとってどのようなシーズンにしたいとお考えですか。
扇谷 新たなチャレンジの年だと思っています。ワールドカップにおけるレフェリングを見ながらテクノロジーとどう連携していくかという新しい発想を得ることができました。だからこそ、われわれも新しいチャレンジをしていかなければなりません。今シーズン、J1のオフサイド判定には3Dラインが導入されます。審判員は研修会を重ねて対応していかなければなりませんが、これも大きなチャレンジになるでしょう。また、あらゆるカテゴリーで審判員の数をどのように増やし、レベルを高めていくかが毎年の課題です。大きなチャレンジとして楽しみながら取り組みたいと思っています。
2022年11月に国際審判員国際交流プログラムが再開。イングランドで試合を担当するなど経験を積んだ
(写真左が長峯滉希審判員、左から3人目が荒木友輔審判員)
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