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ニュース

FIFAワールドカップカタール大会の「表情」③ ~惹きつける力~

2022年12月21日

FIFAワールドカップカタール大会の「表情」③ ~惹きつける力~

12月18日、約1か月続いたFIFAワールドカップカタール大会の幕が下りた。

この夜、ドーハ近郊のルサイルスタジアムには歓喜に沸くアルゼンチン代表サポーターの歌声が響き渡り、ピッチでは前回王者フランス代表との決勝を延長3-3、PK戦4-2の激闘を制した選手たちが、その歌声に合わせて満面の笑みで飛び跳ねていた。

自身5度目の挑戦でキャプテンとしてチームをけん引したMFリオネル・メッシ選手は大会MVPを獲得。1986年にアルゼンチンの英雄と呼ばれた故ディエゴ・マラドーナ氏を中心に獲得して以来36年ぶりの優勝に、その後継者と長年期待されてきたメッシ選手は表彰式で優勝トロフィーにキス。その表情には万感の思いが滲んでいた。

中東初開催となった今大会は首都ドーハを中心に8会場で64試合が開催され、合計で約340万人、1試合平均で5万3千人がスタジアムに足を運んだ。大会中開催されてきたファンフェスティバルへの入場者はのべ180万人を超え、1日平均では約7万人を記録したが、大きな混乱は最後まで報告されなかった。決勝のある大会最終日の18日はカタールの建国記念日でもあり、大会終盤へ向かうにつれて街にはお祝いの飾りつけも施されて一層の華やかさが加わり、ホテルや商店で働くサッカー好きな人々も、仕事をしながら優勝国の予想を楽しむなど、大会は終始、どこか和やかな雰囲気に包まれていた。

だが、ピッチ上では波乱が多かった。グループステージで順当とみられていた強豪に土がつく事態となり、優勝経験のあるドイツ、スペインを破った日本代表をはじめ、アルゼンチンに初戦で逆転勝利したサウジアラビアや、ベルギーに勝ってクロアチアと引き分けたモロッコなど、序盤から話題満載。その結果、ノックアウトステージ進出はアジア、アフリカ、欧州、南米と各大陸連盟からチームが顔をそろえる形となり、地域間のレベル差が縮まったことを印象付けた。

アフリカ勢として勝ち進んだモロッコはスペイン、ポルトガルを倒して4強入り。準決勝でフランスに敗れたが、やはり準々決勝で優勝候補のブラジルを倒し、準決勝でアルゼンチンに敗れたクロアチアと3位決定戦で対戦。敗れはしたが、最後まで見ごたえのある戦いを披露した。

2位に終わったものの連覇にあと1歩と迫ったフランスと、前回2位で今回3位のクロアチアは、その存在感を十分示したと言えるだろう。

全64試合でのゴール数は172で史上最多を記録。決勝の延長後半でフランス代表FWキリアン・エムバペ選手が決めた2度目の同点ゴールが、前々回ブラジル大会の171を超える1本だった。このゴールでエムバペ選手は1966年大会のイングランド代表ジェフ・ハースト氏以来となる決勝ハットトリックを達成し、自身の大会得点も8ゴールとして大会得点王を獲得。2大会連続での決勝での得点で、23歳FWは自身の可能性を見せつけた。

FIFAテクニカルスタディグループ(TSG)は、クロスボールからの得点が増えてペナルティエリアで決める存在がより不可欠になったとする分析の一部を披露。TSGのユルゲン・クリンスマン氏は「それができる選手のいたアルゼンチンとフランスが決勝に進出した」と指摘した。フランスにエムバペ選手がいたように、アルゼンチンはメッシ選手が決勝での2ゴールを含めて7得点を記録し、若手の相棒FWフリアン・アルバレス選手の存在も小さくなかった。

TSGのアーセン・ベンゲル氏は「クオリティの面で傑出した大会で、全体として非常に興味深く、将来性を感じられるものだった」と総括。FIFAノジャンニ・インファンティーノ会長も「史上最高の大会」と称賛した。

32から48へ

カタール大会の閉幕は32チーム制の終わりでもある。次回2026年大会からは48チームに拡大され、各大陸連盟で出場枠もそれに伴う予選方式も変わる。アジアはこれまでの4.5から8.5に増え、大陸間プレーオフを制すれば最大9枠だ。拡大版最初の大会はカナダ、アメリカ、メキシコで開催される。カナダのある記者は今大会中にある問いを投げかけた。「日本にとって2002年大会のレガシーは何か」。大会が何をもたらすのか、初開催の国にとっては気になるところだ。

今大会中、ある光景を目にした。

ドーハ中心街に隣接する海沿いにカラフルな電飾や大会モニュメントなどで彩られ、イベントスペースも用意された、ファンや観光客に人気のエリアがあった。陽が落ちれば周辺の建物に対戦カードに応じた国旗が浮かび上がり、連日、お祭り気分でそぞろ歩く多くの人で賑わう。そこに隣接する一角に、ちょっとした広場があり、準決勝を前にしたある夜、そこは夢中でボールを追い続ける子どもたちの“舞台”だった。

小学校低学年と就学前ぐらいの兄弟とその友人と思しき一団は一心不乱にサッカーに興じていた。足首まで隠れるカタールの民族衣装に身を包み、しかもボールはテニスボール。だが、動きは機敏で軽やかだ。弟たちも兄たちから弾き飛ばされながらも、ボールを奪おうと必死に何度も食らいつく。広場を照らす街灯の下で熱い攻防は、いつまでも続いていた。

大会のレガシーには競技場や競技参加者など比較的早く手にできるものもあれば、長い時間をかけて形になるものもある。ドーハの海沿いの広場で、華やかな周囲の様子には目もくれずにボールを追っていた子どもたちもその一例かもしれない。大会で目にしたプレーに刺激を受けて、数年後、クラブや代表で活躍する選手になっていないとも限らない。2002年日韓大会を見て育った少年たちが日本代表として活躍するようになったように。

今大会でワールドカップ取材16回目という大ベテラン記者、ドイツのヘルミュート・シェルツァーさんは言った。「4年に一回、大会を取材するたびに若返っているよ。ワールドカップは若さの源だ」

人々を楽しませ、惹きつけ、気持ちを奮い立たせるエネルギーを供給する祭典。2022年大会が結実するのはこれからに違いない。

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