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誰もがサッカーにアクセスできる多様な「機会」と「選択肢」の創出 ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.124~

2025年01月15日

誰もがサッカーにアクセスできる多様な「機会」と「選択肢」の創出 ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.124~

はじめに

日本サッカー協会(JFA)では、毎年9月の1カ月間は「JFAリスペクト・フェアプレーデイズ」として、リスペクト・フェアプレーをあらためて考え、行動し、言葉にする月間としています。

2024年もその一環として、9月14日にリスペクトシンポジウムを開催しました。第2部は、2024年4月にJFA、各リーグ、加盟団体とサッカー界初の共同宣言となった「アクセス・フォー・オール」をテーマとしました(第1部https://www.jfa.jp/respect/tnews/news/00034465/)。

リスペクトシンポジウム第2部

第2部の冒頭、基調講演として「アクセス・フォー・オール宣言」に至った背景や趣旨について説明しました。アクセスとは、「①~へ行くことができる」「②~の情報を得ることができる」「③~のメンバーになることができる(メンバーとして活動することができる)」「④~する機会を得ることができる」といった大きく4つの意味があり、すなわち「活動に参加することの権利である」(Little, 1992)とされています。このことから、アクセス・フォー・オール宣言は「グラスルーツからエリートまで、誰もがサッカーの『する』『見る』『関わる』にアクセスできる多様な『機会』と『選択肢』を届ける」という、サッカー界の人権に特化した「行動指針」であることを伝えました。例えば、LGBTQを含めたジェンダー、障がい、外国人、貧困などを理由に、サッカーにアクセスすることが難しい人がアクセスする機会を増やしていく、機会を確実に届けていく(デリバリー)という行動指針であるとも言えます。

続いて、パネルディスカッションでは、影山雅永JFA技術委員長、今井純子JFAリスペクト委員長、茨城県サッカー協会(FA)の原田精一郎FAコーチに加え、JFA職員で、ロービジョンフットサル選手として日本代表でも活動している岩田朋之選手をお迎えし、それぞれの立場から「アクセス・フォー・オール」を推進することで経験してきた思いなど話し合いました。

まず岩田選手から、「代表活動を通じて、海外の環境とのずれを感じるようになった」という話がありました。具体的には、知人であるイングランド代表のキャプテンが、指導者などさまざまな活動を積極的に行っていることを知り、日本でも障がいのある人が指導者として活動できる環境を整備していきたいとの思いに至り、起こしてきた行動について説明されました。指導者として活動するようになった今、もっと多くの人に指導者としての挑戦をしてほしいとの思いがあるそうです。それを受けて、影山委員長からも「障がいの有無を超えて、多くの人が活躍できるサッカー界を構築していきたい」とのコメントがありました。

続いて、茨城県FAの原田FAコーチからは、C級コーチ養成講習会にアルゼンチン人の方が参加された経緯についての報告がありました。その方の参加は、茨城県FAからの呼び掛けではなく、本人の問い合わせから始まったそうです。日本語の読み書きが難しい方でも参加しやすいよう工夫することについて議論はあったものの、外国人の方が参加されたことによって得られた日本人参加者への刺激、また外国人コミュニティーとつながることができる可能性が見えたことは、大きな成果だったそうです。


2024年度リスペクトシンポジウムより

影山委員長と今井委員長からは、「そもそも外国人が指導者養成講習会に来ないのではないか」という先入観は、女性指導者の課題にも類似していることが指摘されました。JFAでも、「女性が指導者になることは指導者全体の質を下げるのでは」といった議論や、「女性は指導者養成講習会に参加しないのではないか」との懸念があったそうです。しかしながら、女性限定の指導者養成講習会を開催することにより、初めて参加する方がいるなど、実際に高い評価を得たことが報告されました。こうした動きは、アジアサッカー連盟(AFC)やヨーロッパサッカー連盟(UEFA)、国際サッカー連盟(FIFA)でもポジティブなアクションとして、積極的に取り組まれていることが共有されました。

これらの指摘から、「サッカー界には『無理だろう』『ニーズがないだろう』などといった先入観がそもそもあるのでは」との指摘がありました。パネリスト間のディスカッションを通じて、「こちらが決めることではなく、本人の選択肢として捉えること、つまり選択肢を届けることが重要である」との結論に至りました。

何よりも、このことは「ナショナル・フットボール・フィロソフィーとしてのJapan's Way」(https://www.jfa.jp/japansway/)にも示されています。顕在化したニーズだけでなく、潜在的なニーズも含め、サッカー界が多様な選択肢を届けることを当たり前にしていった未来には、別のニーズが出てくるかもしれないとの意見も出されました。原田FAコーチからは、潜在化したニーズを解決していくために、情報を届けていくことの重要性、そして情報発信の在り方についても指摘がありました。今後、JFAパスポートなどの活用も含めて議論していくことが必要であるとの意見で一致しました。加えて、茨城県FAのパンディスアビリティフットボールの取り組みなど、外国人や障がいのある方も参加する機会について、イベントなどを単発で実施するのではなく、いかに日常に落とし込めていけるかが重要だという意見も挙がりました。


JFA×TOYO TIRES マルチスポーツチャレンジ2024より

今回のパネルディスカッションでは、「アクセス・フォー・オール宣言」を通じて、まずは取り組みや事例から気付くことの重要性、何よりも「どうせ興味がないだろう、来ないだろう」といったサッカーに関わるさまざまな機会や選択肢について、こちら側が決めつけないことが、現在のサッカー界ができる第一歩ではないかとの結論を導き出しました。

「アクセス・フォー・オール」は、サッカーを通じた「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)」の推進でもあります。ダイバーシティは「さまざまな」という意味で、まさにアクセス・フォー・オール宣言の「誰もが」という意味として捉えていただければと思います。そして、エクイティは「公平性」と訳されます。英語で言う「イクオリティ(平等)」とは何が違うのかと、疑問に思われる方もいることでしょう。平等は、例えば「リフティングを10分」という機会を与えられたとします。エリートレベルの方は問題なくこなすでしょう。一方で、体力的に厳しい方、ボールを触った経験が少ない方は、10分は長く感じられるかもしれません。ある方は、障がいにより補助が必要かもしれません。公平性は、同じ機会の中で、その方に合ったオーダーメードの選択肢により、その方が何かに取り組める機会を実現することに意味があります。最後に、インクルージョンは「包括性」、つまり個人の事情によりサッカー界から排除しないという意味になります。


JFA×KIRIN キリンフレンドチャレンジカップ2024より

おわりに

「アクセス・フォー・オール」は毎年4月が強化月間ですが、強化月間であるからといって年に1回考えて終わるのではなく、日常的なサッカー界としての姿勢となるよう、「アクセス・フォー・オール宣言」は出されています。引き続きサッカー界の行動指針であることを伝えていきたいと思います。

【報告者】日比野暢子(JFAリスペクト委員/アクセス・フォー・オールワーキンググループリーダー)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2024年11月号より転載しています。

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