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JFA セーフガーディング・ワークショップトライアル報告 ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.104~
2021年09月08日
日本サッカー協会(JFA)は、子どもたちが楽しく、安全に、安心してサッカーに打ち込めるよう、リスペクト・フェアプレー委員会を中心に様々な取り組みを行い、暴力や暴言、ハラスメントのない健全なサッカー環境の実現を目指しています。9月11日(土)に開催されるリスペクトシンポジウムでは、その一つの取り組みであるセーフガーディング/チャイルドプロテクションポリシーについて皆さまと共有し、子どもたちの将来の可能性をいかに育んでいったらよいかを考えていただく機会としたいと考えます。
そこで今回は、テクニカルニュースVol.104 7月号より、5月に開催された「JFAセーフガーディング・ワークショップのトライアル」をご紹介します。
はじめに
2021年5月16日、千葉県・JFA夢フィールドにて、JFAセーフガーディング・ワークショップのトライアルを開催しました。テーマは、「子どもたちの安心・安全が守られる環境づくり」でした。日曜日の夕方にもかかわらず、千葉県サッカー協会(FA)の4種の方々など17名が参加してくださいました。
参加者の皆さんは、「これから一体、何が始まるのだろう」と不安そうな表情を浮かべていましたが、ワークショップが進むにつれて、少しずつ打ち解けて積極的に参加され、活発なディスカッションに発展していきました。次から次へと投げかけられる課題に真剣に取り組み、他者の意見を否定せず、笑顔でうなずきながら聞き入れていく中で、新たな気付きや発見があったように思います。皆さんの快活な活動を見て、私自身も大変うれしくなりました。
JFAセーフガーディング・ワークショップトライアルより
ワークショップの流れ
今回のワークショップの大まかな流れは以下の通りです。
まずは、積極的な参加を促す「場づくり」を行いました。そして、このワークショップに期待することや現場で感じている不安を、付箋に書いてもらいました。ここで解決できることを探っていくのが狙いです。
次に、笑顔で活動している子どもたちのサッカーフェスティバルの映像を見て、グループディスカッションでその理由を考えていきました。同時に、望ましい指導者のあり方にも触れることができたと思います。
その後、現場で起こり得る事象の書かれたカードを、望ましい行動はグリーン、望ましくない行動はイエロー、虐待につながるものはレッドに振り分ける作業を行いました。グループごとに、カードゲームのような遊び感覚で実施しました。中には、どちらにするのか迷うものもあり、グループでの振り分けで自信のないものは、参加者全員で共有しながら確認していきました。状況によってはグリーンからイエローになったり、レッドからイエローになったりするものもありましたが、明確な区別が難しいこと、むしろ連続性があるものとして理解していただきました。
そして、「日常の子どもの変化に気付きましょう」というテーマで、虐待の典型的な6種類のサインを紹介しました。気付きがあれば、行動を起こし、報告することの大切さを伝えました。
また、ネガティブなコーチングの映像を視聴し、ネガティブな中でも何か良いところはないかを考えていきました。私から「そのコーチを雇いますか」という質問を投げかけると、皆さんの答えは「NO」でした。そうであれば、そのコーチを雇うにはどのような手立てがあるのかについて、グループで考えました。
皆さんからは、「研修を受けさせて資格を取らせる」や、「ロールモデルコーチがメンタリングする」といった、さまざまなアイデアが出てきました。望ましくないコーチの言動があったときに、排除することは簡単ですが、そうではなく、指導者仲間としてどのような方法で巻き込んでいくかをここで考えてほしかったのです。
最後に、子どもたちの豊かな未来を見守るためにも、指導者仲間で支え合い、助け合うような、温かい共存関係をつくっていくことを願っていると伝えました。また、今回の学びを持ち帰り、自身のチームや身近な指導者仲間と共有していただければうれしいといったことを伝え、平和や人類愛を歌った「Imagine」(ジョン・レノン)をBGMにした映像を見ながら、ワークショップを締めくくりました。
ワークショップの目指すところ
皆さんは、暴言・暴力や虐待などの記事、ニュースを見るたびに、心を痛め、またやってはいけないと誰もが分かっているのに、なぜ事件は起きるのだろうと思っているのではないでしょうか。しかし、そう思っているだけでは何も解決しません。解決していくためには、私たち一人一人の心の底からの変化が求められているのではないでしょうか。
このワークショップは、そこへのチャレンジが目的です。子どもたちの安心・安全が守られる環境づくりとして、指導者が仲間同士で助け合い、現場で指導しづらくならないような取り組みになればと考えました。事実を見ようとするあまり、人間が見えなくなるのではなく、なぜそのようになったのか、その人の背景には何があったのか、そして未然に防ぐにはどのようにすればいいのかを、他人事で済ませるのではなく、我が事として捉え、具体的な考えや行動に移せるようにしたいのです。
「暴言・暴力はダメ、子どもたちが楽しいと思えるサッカー環境にしたい」といった、模範解答で終わらせるのではなく、あるいはやらなければならないといった使命感だけにとどまるのではなく、みんなで考えながら、かつ気軽に真剣に物事を捉え、今後何ができるのかのアイデアが浮かんでくるような取り組みになることを願っています。
暗い、痛い、つらいが100%で、物事を遠ざけるのではなく、1%でも心緩むことがあり、自身に何ができるのかを考えられるような温かさや、余裕があるワークショップの雰囲気の中で、新たな気付きや発見があるようにすることが大きな狙いです。もちろん、この1回で何かが解決するわけではありません。機会があるごとに、例えば大会やリーグ戦のシーズンが始まる前に、今回のようなワークショップを継続して行っていければと考えています。そうすれば、また異なる環境やメンバーとのディスカッションで、新たな気付きや発見があるかもしれません。
おわりに
このワークショップにより、一人一人の考えや行動がゆっくりでも確立していくことを願っています。回を重ねながら、少しずつではありますが、指導者が他者の意見を聞き入れたり、話し合いをしたりする中から絆を深め、それが仲間の輪を広げることにつながり、「子どもたちの安心・安全が守られる環境」が整っていくのではないかと考えます。そして、参加された皆さんの活動や現場での取り組みを通じて、子どもたちにも仲間を大切に思う心が育ち、見て見ぬふりをしないような「気は優しくて力持ち」になってほしいと願っています。
日本サッカー協会(JFA)は、「子どもたちの安心・安全が守られる環境づくり」について、参加者の皆さんの意見を参考にしながら改善を重ね、少しずつ前進し、継続して全国に広げていく取り組みにしたいと考えています。
最後に、今回のJFAセーフガーディング・ワークショップに参加された千葉県FAの4種の皆さま、そして取りまとめをしていただいた千葉県FAの島田洋コーチには心からお礼申し上げます。ありがとうございました。
JFAセーフガーディング・ワークショップトライアルより
参加コーチより
【報告者】島田洋(千葉県FAコーチ)
今回のワークショップを通じて、多くのことを考えさせられました。
現場の安心・安全を確保するため、選手や指導者が思い切ってサッカーできる環境をつくるため、方法論ではなく、理念や考え方をいかに共有していくかという部分の大切さを、あらためて学びました。それぞれの立場を考えて共感でき、行動できる力の醸成が一番大切なのだと思います。
地域でこのようなワークショップがたくさん実施されることは、サッカー現場の質を向上させるだけなく、地域活動の活性化や円滑な人間関係の構築につながっていくと思います。多くの方々が、サッカーの楽しみを享受できるようになるすばらしい試みです。千葉県でも、どんどん実施していきたいと思っています。
【報告者】眞藤邦彦(JFAコーチ/JFAインストラクター)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2021年7月号より転載しています。
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