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リスペクトにコミットする ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.92~
2020年03月24日
リスペクトプロジェクトを立ち上げたのは2008年。「サッカーファミリー全員が、大好きなサッカーを楽しむために…」、日本サッカー協会(JFA)とJリーグが一緒になって「リスペクト(大切に思うこと)」を推進していくこととした。
サッカー界では「リスペクト(大切に思うこと)」の言葉が随分浸透し、全日本少年サッカー大会(現JFA 全日本U-12サッカー選手権大会)の選手宣誓でもリスペクトの言葉が何度も使われたり、多くの試合でリスペクト旗が掲揚されたりしている。うれしい限りだ。
もっとも、リスペクトプロジェクトが始まる前も、「Player's First」「グリーンカード」など、既に大きな下地があり、リスペクト・フェアプレーの活動が推進されていた。実際、試合前のシェイクハンドセレモニー、試合中、転倒している相手選手を手で引き上げる、タッチラインから大きく出てしまった相手ボールをとりに行き、その選手が守備に就くまでスローインの再開を待つなど、多くのリスペクトある光景が見られた。
その一方、JFAが設置している「暴力等根絶相談窓口」には多くの相談があり、暴力・暴言事案発生の報告も寄せられているのが現実である。なかなか進まない。悔しい。「ゼロ・トレランス」、暴力・暴言に対して許容はしない。完全になくなるために、不退転の覚悟で臨まなければならない。
「結果にコミットする」は、あるボディメイク会社のキャッチコピー。ダイエットという結果を出すことを約束し、確実にやり遂げるという心持ちで取り組むということ。
サッカーファミリーの多くの方々に「リスペクト」の考え方や活動を理解していただいている。しかし、「リスペクト」溢れるサッカーに至るには、まだまだ足りない。「溢れる」とは、“皿の上に大きく盛った物が水のようにこぼれ出す様子”を表していると思う。本当に暴力・暴言の「ゼロ」を目指すための活動はどのようなものだろう。できるのであれば、ゼロに留まらず、リスペクトあるフェアなプレー、フェアな行動がこぼれ落ちるくらいに溢れ、日本全国の至るところで見られること。それが実現ができれば、何て良いのだろうか。そうしたサッカーはとても美しい。
美しいサッカーの実現のためには、「リスペクト」を単に理解するだけでなく、われわれ一人一人がリスペクトの実現にコミットしてプレー、行動していくことなのだと考える。おこがましいのは承知だが、サッカーに関わる方々に、たった一歩で良い、一つ歩み出ての行動をお願いしたい。
自らの行動に加えて、周囲の人々にリスペクトある行動を促すためにも、リスペクトに“コミット”することが必要だと思う。そうした行動に感謝する。一緒にベンチに入っていた先輩のコーチが、今日はなぜか興奮気味で、頻繁に選手に厳しい言葉、また審判員に対して異議を唱えている。「いつものように冷静に試合を、選手のプレーを分析しませんか?」、そうした声掛けで先輩のコーチが落ち着き、冷静に指示を送り、また審判員の判定を受け入れられるようになればとてもうれしい。
「そんな行動をとるのは当たり前ではないか」と叱られるかもしれない。しかし、先輩・後輩のパワーバランスや「組織の論理」でおざなりになっていないだろうか。先輩は「裸の王様」になっていないだろうか。気付いた先輩は、きっと「リスペクト」のためにコミットしてくれるに違いない。これにより、リスペクトが広がる。
ところで、リスペクトという言葉が正しく伝わっていないと反省している。「相手をリスペクトし過ぎて」といった言葉を聞くことがある。
しかし実際のところ、「相手をリスペクトし過ぎること」は「相手をリスペクトしていないこと」である。相手は見くびってはならない。どんなに強い相手でも、どんなに弱い相手でも、自分(たち)の能力を最大限に発揮し、守備をして、ゴールを目指す。それが相手を、また勝利を目指す自分の心をリスペクトすることである。
サッカーには「敵(enemy)」はいない。「相手(opponent)」は一緒になって力を尽くしてサッカーをする仲間であり、自分に危害を加えようとする人ではない。敵はいなくても生活は成り立つが、相手がいなければサッカーはできない。われわれもだが、マスコミも含めて、サッカー(スポーツ)界から「敵」という言葉を排除できないだろうか。「敵」は「相手」、「敵地」は「アウェイ(の地)」である。
ラグビーの「ノーサイドの精神」はよく聞く言葉だ。試合は熱い。選手の感情が高まり、さまざまな対立も発生する。それもサッカー(ラグビー)だ。しかし、一旦試合終了の笛が鳴れば、味方や相手の違いはなく、ピッチに立つ誰もがサッカー(ラグビー)を愛し、一緒に試合を楽しんだ仲間である。
ラグビーでは試合後にシャワーを浴び、その後に「アフターマッチファンクション」とし、みんなで集まって試合中の出来事などを互いに打ち解けて話す習慣があるそうだ。熱い議論も良い。うらやましくも感じる。
報告者:松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2019年7月号より転載しています。
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