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審判とリスペクト ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.81~
2019年04月24日
ボールがタッチラインのほんの少し外を回って、ピッチに戻ってきた。際どい。
ハイボールに両チームの選手が競り合って倒れた。一方の選手は上からのしかかっており、もう一方の選手は下から相手選手をトリップしているように見えた。
サッカーが誕生したのは、1863年10月。ロンドン周辺の15クラブが集まり、共通の競技規則に基づいて“フットボール”をしようと、サッカー協会(The Football Association/イングランドサッカー協会)を設立したときである。当時の“フットボール”は、手を使っても良かった。手でキャッチした(フェアキャッチ)ボールを持って走って良いとしたクラブは、サッカー協会には入らず、1871年にラグビー・ユニオンを設立した。ボールを持って走ってはダメとしたサッカー協会はその後、ペナルティーエリア内のGK以外は意図的に手でボールに触れることを禁止し、今のサッカーへと進化させていく。
1863年の競技規則には、レフェリーに関する規定がない。しかし、サッカーをプレーし、ボールが外に出る/出ない、選手が倒れるような状況になれば、ボールデッドかファウルか、次にどちらのチームがプレーするのか、FKをするのかを決める必要がある。当時、何かを決めなければいけない状況では、両チームのキャプテンが話し合って決着をつけていたという。
サッカーの競技性が増せば、それでは解決できない。問題発生と両チームのキャプテンがアピールをすると、ピッチの近くでアピールを受ける人(アンパイヤ)が杖を上げて、ピッチの外にいる有識者にその判断を任せることとした。任された人が仲裁者で、レフェリー(主審)。アンパイヤの杖は、現在の副審のフラッグへと変化する。
現代サッカーのレフェリーは、ピッチ内で選手と一緒に走り、プレーの近くでファウルかどうかなどさまざまな判断をしている。しかし、基本的な考え方は変わらない。レフェリーは、発生した事象の最終判断を任され、一つ一つの判定を下していく。裁判と異なり、一つの判断に時間をかけることはできない。その場で即断し、次のプレーがすぐにでも進められるようにする。それによってサッカーの面白さも担保される。「即座の判断」は、もろ刃の剣。レフェリーが間違いを犯すことがあるが、修正はきかない。判断を任してはいるが、選手には不満が残る。
リスペクト。フェアプレーの原点であり、激しく、タフでスピーディー、けれどフェアなすがすがしいサッカーのためには必須の考えだ。イングランドでもリスペクトプロジェクトが展開されているが、その大きな理由の一つに、レフェリーを守るため、レフェリーへの異議を少なくするためということがあったという。
日本のリスペクトプロジェクト。レフェリーも対象ではあるが、サッカーができる環境、相手、勝利に向かうことに対するリスペクトの中の一つに過ぎない。実際、(海外に比べると)日本においてレフェリーは随分リスペクトされていると感じる。
ファウルに対する不満をぶちまける選手もいる。自分ではファウルをしていないのに、ファウルだとされれば不満となる。それを表すことは自然であり、自己表現として認められるべきだ。もちろん、レフェリーが脅威を感じるほど過度になってはならず、執拗になってはいけない。次のプレーにすぐさま身を委ねるのが美しい。一方のレフェリーは、判定を任される人として、選手が不満を持ったことを感じる必要がある。最終決定はレフェリーにあるのだから、度量を持って、対応すれば良い。過度で、試合の運営上、混乱をもたらすようならば異議で警告する。
他人からリスペクトされるためには、まず他人をリスペクトすることから始める。選手もそうだが、レフェリーもそうなのだろう。はなから威圧的に接されると、選手だってコミュニケーションも図れない。女子チームの男子の監督が、女子のレフェリーに対して威圧的に対応するという話を聞いたことがある。言語道断。男子のレフェリーが女子の選手に対して威圧的になってはならないし、甘くなってもいけない。選手は男女にかかわらず、選手だ。
同様に、4種の選手を子ども扱いしてはならない。もちろん発育途上だから、何でもかんでも大人のようにできないことがある。それは考慮すべきである。逆に、ユース審判員が大人の試合をレフェリングするとき、選手はレフェリーをレフェリーとしてリスペクトすべき。若過ぎてできないことがあれば、考えてあげる。
レフェリーの判定にかかわらず、相手の攻撃を食い止め、ゴールを目指す。ファウルされても、前に進めるのであればボールに全力で向かう。ファウルは、サッカーにつきもの。どうあれサッカーを楽しみたいものだ。レフェリーも、選手を、サッカーをリスペクトし、全力でレフェリングしてくれている。
【報告者】松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2017年9月号より転載しています。
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