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「慣れっこ」はリスペクトの欠如 ~いつも心にリスペクト Vol.144~
2025年05月23日
世界の最高峰であるはずの試合で、日曜日の公園でのサッカーでも滅多には見られないようなシーンが起きたのは、3月23日(日本時間24日未明)にドイツのドルトムントで行われた「UEFAネーションズリーグ」の準々決勝第2戦、ドイツ×イタリア、前半36分のことでした。
3日前にイタリアのミラノで行われた第1戦ではドイツが後半に試合をひっくり返し、2-1で勝った結果を受けての第2戦。ビジターのイタリアはどうしても勝たなければなりません。しかし前半は6万5000人近くのホームのサポーターの大声援を受けたドイツが試合を支配し、30分にはPKで先制して2戦合計は3-1。ドイツが圧倒的に優位に立ちました。
その6分後、勢いに乗って攻めたてるドイツ。DFリュディガーが送った右からのクロスをFWクラインディーンストがヘディングシュート。イタリアGKドンナルンマが見事なジャンプではじき出し、右CKが与えられます。
中継画像では、悔しがって頭をかかえるクラインディーンスト、そして「なぜフリーにしたんだ」と味方に言うドンナルンマのアップ。それに続いてクロスを入れるリュディガーのキックのシーン……。
その瞬間、画面が切り替わると、驚くことに、イタリアゴールのネットにボールが突き刺さり、ドイツの選手たちが右コーナーの方向に走り寄って喜んでいるシーンが映し出されたのです。
私は日本のネット中継で見ていたのですが、東京のスタジオで実況中継を担当していたアナウンサーも何が起きたのかわからなかったのでしょう。数秒間置いてから、選手たちの様子を見て「ムシアラが決めて2点目が入っています」とコメントしました。その後にようやく全シーンのVTRが出ます。
CKが与えられると、ドイツのMFキミッヒがすぐに動きだし、右コーナーに向かいます。そこにボールが投げ入れられます。ゴール前ではキャプテンでもあるGKドンナルンマの周囲にイタリアの選手たちが集まり、互いにジェスチャー豊かに自己主張を繰り返す中、ただひとり、クラインディーンストのヘディングシュートのこぼれ球を狙ってゴール前に入っていたドイツFWムシアラが両手を広げてボールを求めます。ボールをセットして数歩下がったキミッヒでしたが、ムシアラを見てすぐにキック。ワンバウンドして届いたボールをムシアラが無人のゴールに蹴り込んだのです。
クロスを入れたリュディガーにボールを戻したのがキミッヒだったので、彼は右コーナーから13メートルほどのところにいました。そこからコーナーに向かって走り始めるまでわずか1秒、コーナーに到達する間に投げられたボールを受け取りセットするまで5秒、キックするまで2秒、そしてCKが与えられてから得点まで合計わずか10秒という「早業」でした。
この後、ドイツは前半のうちにもう1点追加して3-0、2戦合計5-1とします。しかし後半は試合が一変、4分、24分とイタリアがゴールを決め、アディショナルタイムの5分にはVAR判定でPKを得て、3-3の同点に追いつきます。それでも2戦合計は4-5。イタリアにとっては前半36分の「あの1失点がなければ」という結果になってしまったのです。
素早く動いたキミッヒも、ムシアラの冷静な判断も見事でした。しかしそれ以上に、GKドンナルンマを中心としたイタリアのチームとしての大きなミスでした。
CKが蹴られるまでの時間は、普通20秒から30秒。しかしCKには主審の合図は不要で、いつ蹴ってもかまいません。Jリーグでは、2019年の横浜F・マリノスが「クイックCK」を多用し、その結果、他チームが集中を切らさずに守るようになりました。しかし欧州ではそういうチームがないのでしょう。イタリアは「20~30秒」の「常識」に「慣れっこ」になり、注意を怠ってしまいました。
こうした「慣れっこ」の姿勢は、「サッカー」というゲームに対する真摯な姿勢の欠如、すなわち「リスペクト」の欠如を示していると、私は考えています。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2025年4月号より転載しています。
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