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心を開いて共に楽しむ ~いつも心にリスペクト Vol.126~

2023年11月24日

心を開いて共に楽しむ ~いつも心にリスペクト Vol.126~

そこに広がっていたのは、まさにフェアプレーの体現、満開のリスペクトの光景でした―。

9月24日日曜日、東京都の国立競技場で、Jリーグ30周年記念試合の一環としてJ1リーグ第28節の湘南ベルマーレ対川崎フロンターレが行われました。

通常は1万5360人収容の「レモンガススタジアム平塚」でホームゲームを開催しているベルマーレ。しかしこの日は特別に6万7750席という巨大スタジアムが使用され、平塚市だけでなく、フロンターレのホームである川崎市からもたくさんのファン・サポーターがかけつけて5万4243人という、ベルマーレのクラブ記録となる大観衆となりました。

緑(湘南)と水色(川崎)に塗り分けられた国立競技場の巨大な観客席。それが突然、思いがけなくひとつになりました。キックオフ前に行われた人気レゲエバンド「湘南乃風」のミニライブです。

このバンドはベルマーレのファンとして知られ、ホームゲームの選手入場時には、「戦闘開始!!」で始まる『SHOWTIME』という曲がかかり盛り上がります。

その「湘南乃風」の4人組の登場に、ベルマーレファンだけでなく、フロンターレファンからも大歓声が起こりました。彼らがヒット曲を歌い始めると、多くの人が立ち上がり、それぞれのクラブカラーのマフラーを掲げながらリズムに合わせて体を動かし、スタジアム一体となって楽しみ始めたのです。

通常は、対戦チームのサポーター同士は「不俱戴天」と言っていいライバル関係にあります。どちらも自分が応援するクラブを勝たせようと声援を送るのですから、当然と言っていいでしょう。時には、相手チームサポーターの歌声をかき消そうと大声を上げることさえあります。サポーター同士も、「声で」戦っているのです。

「湘南乃風」は、誰もが知るベルマーレのファンです。この日も、全員がベルマーレのユニフォームを着て演奏を始めました。フロンターレのサポーターがブーイングをしても不思議はありませんでした。しかし実際には、フロンターレのサポーターもマフラーを振りながら楽しみ始めたのです。

それはとても素晴らしく、そして美しい光景でした。フロンターレのファンは、ベルマーレファンのバンドだと分かっていても、自分たちも純粋に音楽を楽しんだのです。それは、「湘南乃風」へのリスペクトと同時に、この日の対戦相手である湘南ベルマーレ、そしてそのサポーターたちへのリスペクトの表現でした。

この節のJリーグは、日本サッカー協会が開催している「JFAリスペクトフェアプレーデイズ」への参加試合で、どのスタジアムでも、キックオフ前には両チームの主将による「リスペクトフェアプレー宣言」が行われました。

国立競技場では、フロンターレの橘田健人選 手が「いかなる差別も認めないことを宣言します」と語り、ベルマーレの杉岡大輝選手は「サッカー、スポーツに、暴力も暴言もいりません」と宣言しました。

どちらのチームもなんとしても勝ちたい試合。当然、プレーは過熱しましたが、宣言通り、互いにリスペクトを払った気持ちのいいものとなりました。

しかし私には、二人が宣言する前に両チームのサポーター、中でもフロンターレのサポーターのとった態度が深く心に残りました。相手をただライバル視するのではなく、心を開いて、共に楽しむ仲間でもあることを、フロンターレのサポーターたちは楽しそうな踊りでこの上なく表現してくれたのです。

もちろんそればかりではありません。両チームの選手が入場する直前に「湘南乃風」が最後の演奏曲『SHOW TIME』を歌い始めると、明らかにベルマーレの応援ソングであるこの歌に対しては、盛大な「ブーイング」や口笛で攻撃し始めたのです。「打て、打て、打て!打て!打て!」といった歌詞に喜んでいるわけにはいかないのは当然です。そのあたりの「呼吸の妙」にも、私はとても感心させられました。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2023年10月号より転載しています。

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