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なぜ1人制審判なのか ~いつも心にリスペクト Vol.114~
2022年11月25日
日本サッカー協会(JFA)は登録されている指導者や審判員に向けてさまざまな情報を発信しています。その中でも、9月にJFA登録審判員および審判インストラクター向けに公開された「1人制審判」に関する動画は興味深いものでした。
田嶋幸三現会長が技術委員長だった時代から、JFAは少年サッカー(小学生年代のサッカー)を8人制にすることを推奨し、2011年には全日本少年サッカー大会(現、JFA全日本U-12サッカー選手権大会)も8人制としました。それに伴って導入されたのが「1人制審判」です。
サッカーの試合は3人の審判員で行うのが基本です。ピッチの中を走る主審1人とタッチライン上を動く副審2人です。副審は「アシスタントレフェリー」の英語名の通り、主審と違う角度から試合を監視して主審の判定を助けたり、ボールがタッチラインを出たかどうかの判定をしますが、オフサイドの判定も重要な役割です。
味方選手がボールをプレーした瞬間に、相手のDFラインの最後尾の選手より前に攻撃側の選手が出ていたかどうか、その選手がプレーに関わったかどうか――。言葉にすれば簡単ですが、正確にオフサイドを見極めるのはどんなレベルのサッカーであっても簡単ではありません。副審の責任は非常に重く、同時に、その仕事もハードルの高いものなのです。
「1人制審判」のサッカーでオフサイドがないわけではありません。副審の助けを借りず、主審が一人でオフサイドの判定もします。私もときどきチームの紅白戦で「1人審判」をしますが、ボールのあるところで反則が起きないか注意しながらオフサイドかどうかを判断するのは至難の業です。
今回、JFAが公開した映像では、オフサイドを見極めるポイントが簡潔に表現されています。まずは「オフサイドラインとなる(守備側の)選手の監視」、同時に「ボールの『受け手』を監視」、さらに「ボールの『出し手』を監視」しますが、それを「可能な限り同一視野で監視」するといいます。
オフサイド以外にも、1人制審判へのアドバイスとして、「プレーを近くで見る」「争点が見える角度をとる」「争点と全体を見る」「攻守の切り替わりに対応する」といったポイントが挙げられています。
いちいちもっともですが、オフサイドの判定を含め、「言うは易く、行うは難し」ですよね。ここまで努力をしても、プレーヤーや観客から「オフサイドだよ!」「なぜファウルなの?」と声が上がることが頻繁にあります。それならいっそ、2人の副審を使って通常の「3人制」にしたらと思うのですが、実は「1人制審判」そのものにJFAは意味を込めているのです。
それはこれから数十年間サッカーをプレーし続けることになる少年少女に、フェアプレーの精神や、審判や相手チーム選手にリスペクトを払うということをしっかりと身につけてほしいということです。
サッカーの審判は、選手同士では決めきれないものを決めてもらうためにお願いしたという経緯から始まっています。つまり本来、サッカーは選手同士がボールが出たかどうか、ファウルだったかどうかを判断する競技だったのです。
8人制サッカーのフィールドは大人が使うピッチの半分の大きさですが、それでも1人の審判員では見尽くすことはできません。たとえば明らかにタッチラインを割ってしまったとき、またボールを取ろうとして相手の足をひっかけて倒してしまったときに、選手自身が判断してプレーを止めるのは、サッカーという競技の本来の姿であるはずです。また、得点に見えたけれど、手に当たって入ってしまうこともあるでしょう。1人制審判は、そうしたときに選手が自らそれを認め、相手も審判員も、そして自分自身もあざむかないという精神を育むきっかけになるのではないでしょうか。
ただ指導者の言うことを聞き、審判員の決定に従うというだけでなく、8人制サッカーと1人制審判には、少年少女が、自分自身の思いや考えを表現しつつ主体的にゲームを楽しんで成長してもらいたいという思いが込められています。周囲の大人は、その思いを忘れないようにしたいものですね。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年10月号より転載しています。
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