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最も大事なこと ~いつも心にリスペクト Vol.111~
2022年08月30日
日本サッカー協会(JFA)は9月の1カ月間を「JFA リスペクト・フェアプレー月間2022」に設定し、従来の「リスペクト・フェアプレーデイズ(10日間程度)」からさらに活動期間を拡大させて、啓発活動を推し進めていきます。
今年も、地域・都道府県サッカー協会、Jリーグや各種連盟と協力し、それぞれの主催大会で「リスペクト・フェアプレー宣言」や旗の掲出等を行い、24日(土)にはリスペクトシンポジウムをオンラインで開催します。
リスペクト、フェアプレーについて考えるこの期間を前に、いつも心にリスペクトの連載をお届けします。
「今ここで神様に祈っているのは、僕らの勝利のためにではない。今日この試合で、僕らも、相手選手たちも、誰もけがをしないために祈ろう」
この連載に限らず、私はこの言葉をさまざまな記事で引用してきました。このコラムでも、ちょうど4年前、2018年の6月号で紹介したと思います。
取材という立場でサッカーに関わるようになってからほぼ半世紀になりましたが、これほど美しく、サッカーにとって大事な言葉に出合ったことはありません。だから、忘れられないように何回でも紹介します。
この言葉を聞いたのは1983年9月のことでした。その年のトヨタカップ(欧州と南米のチャンピオンクラブ同士の「事実上世界一決定戦」。当時、毎年12月に東京で開催されていました)で来日するブラジルのグレミオの取材で、ポルトアレグレに行ったときです。
当時のブラジルでは、プロのトップチーム同士の試合の「前座」として、「ジュニオール」と呼ばれる20歳以下のチーム同士の試合が行われていました。プロ一歩手前の選手たちの試合です。
ブラジルの育成システムには「非情」と言っていいほどの厳しさがあります。グレミオにも、15~16歳の選手が50人、17歳の選手が30人、18~20歳の選手が30人もいて、全員が合宿生活をしており、毎週の試合で見込みがないと判断されるとすぐに合宿所を追い出されて家に帰されてしまいます。当然、プロに負けないほど、あるいはプロ以上に必死です。
冒頭の言葉はそうした「ジュニオール」の試合前、ロッカールームから出る直前にキャプテンから発せられた言葉でした。プロが使うピカピカのロッカールームではありません。同じスタジアムながら、「物置」のような薄暗いサブのロッカールーム。試合に関する監督の指示が終わると、キャプテンは全員に円陣を組ませ、目をつむらせて静かな口調で最後の「お祈り」の言葉を聞かせるのです。
「神様、私たちに力を与えてください」というような言葉を予想していた私は、キャプテンの口から出た意外な言葉に驚きました。それが冒頭に紹介したものです。
「自分たちだけでなく、相手チームの選手もけがをしないように……」。確かに、試合前の神様へのお願いとして、これほどふさわしいものはありません。
さて、ここ数年の日本のサッカーの最も顕著な変化は、「インテンシティー」でしょう。プレーの強度を意味する言葉で、試合中の一対一の争い、ボールをめぐる戦いは、以前とは比較できないほど厳しくなっています。さらに、「たくましい選手を育てたい」という指導上の観点から、レフェリーも多少のファウルでは笛を吹くことをせず、プレー続行を促します。
もちろん全て正しい方向性です。おかげで、Jリーグでは多くの選手がファウル気味のタックルを受けても倒れずに踏ん張り、プレーを続けようとするようになりました。すぐに倒れてレフェリーにアピールする選手ばかりが目立った5年ほど前の映像と比較すると、試合がよりスピーディーになり、迫力あるシーンが増えたように思います。
しかしその一方で、残念ながら、相手に大けがを負わせかねない過激なファウルも増えています。勢いをつけたタックルがボールをとらえられず、相手の足や体を直撃するファウルです。特に相手の足を踏みつけたり、シューズの裏が相手の足などに入るファウル、相手に大けがを負わせる危険な反則が増えているように思えます。
意図的に相手を傷つけようとしているわけではないはずです。必死にプレーする中で、誤ってファウルになってしまうケースがほとんどでしょう。しかし激しくプレーし合うからこそ、危ないと感じたときには最後に力を抜くなどの配慮が必要です。
試合前の選手たちにグレミオの若者たちのような「祈り」をほんの少しでも思い出させることができたら、激しくても安心してプレーできるサッカーになっていくのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年7月号より転載しています。
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