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サポーター「同志」 ~いつも心にリスペクト Vol.87~
2020年09月08日
4カ月もの中断を経て、Jリーグが再開されました。
といっても、最初2節の「リモートマッチ(無観客試合)」に続いては厳しい人数制限のある有観客試合。8月には緩和される予定になっていますが、今後の新型コロナウイルスの感染状況次第であり、入場者数の限度が緩和されても制限つきであることに変わりはありません。サポーターがスタジアムで思い切り旗を振り、仲間と声を合わせて応援し、だれかれかまわず抱き合って得点や勝利を喜び合う日は、まだまだ先のことです。
日本の「サポーター元年」は、1992年、Jリーグの最初の公式戦となった「Jリーグヤマザキナビスコカップ(現在のYBCルヴァンカップ)」がスタートを切ったときでした。Jリーグが成功した背景にはさまざまな要素があると思いますが、どのスタジアムにもサポーターがいて、カラフルでにぎやかで、楽しさそのものの応援を繰り広げたことは、その中でも上位にランクされる重要な出来事でした。
当時、サッカー場の内外で暴力行為を繰り返す「フーリガン」という大きな問題が世界各地にありました。その時代に誕生した日本のサポーターたちは、こうした現象を「反面教師」とし、自らを律して暴力的になることを防ぎ、現在につながる素晴らしい伝統を築き上げました。試合後、どんな結果であっても両チームのサポーターが同じ電車に乗って穏やかに帰っていく姿には、いまでも世界の人々が驚嘆します。
「○○(ビジタークラブ名)のサポーターの皆さま、本日はようこそお越しくださいました」
いくつかのスタジアムでは、試合前にこんなアナウンスが流れます。すると、スタンドを埋めたホームのサポーターたちから大きな拍手が起こります。
サポーターたちが自分たちで考え、スタンドいっぱいに広げている応援歌も、すべて自クラブを応援するものばかりで、相手クラブをなじったり、攻撃するようなことを言ったりすることもありません。せいぜい「ブーイング」をする程度です。
FC東京がJ1に昇格した2000年に、柏の葉競技場に柏レイソルとのアウェイゲームを取材しに行きました。試合前、FC東京のサポーターからこんな歌が起こりました。
「カシワ、カシワ、トーキョーから電車で1時間!」
自らを「都会」と誇り、相手を「田舎」と揶揄する歌でしたが、いちばん喜んだのは、柏レイソルのファンたちでした。スタンドからは、笑い声とともに拍手まで送られたのです。柏のサポーターたちとしては、中心メンバーが白いブリーフ姿になり、ひしゃくで水をかけ合うぐらいしか対抗できなかったのは口惜しかったかもしれません。しかし2-2で延長戦に入った後、延長後半にDF洪明甫が見事な決勝ゴールを決めて柏に勝利をもたらしたことで留飲を下げたでしょう。
日本のサポーターたちは、東日本大震災をはじめ大きな災害が起こるたびに率先して物資を集めて他のクラブのホームタウンの被災地に送るなど、互いに素晴らしい連帯感を見せます。スタジアムでは自クラブの勝利だけを目指しますが、根本では、それぞれの地元のクラブを応援するサポーターの「同志」であるという意識を持っています。何年かに一度はサポーター同士が激しく衝突する事件も起きますが、基本的には、互いへのリスペクトを忘れてはいないのです。
Jリーグは再スタートしましたが、少しずつ観客を入れられるようになっても、サポーターにとってはまだまだ「がまんのとき」が続きます。試合が始まっていることで、さらに苦しさが募っているかもしれません。
こうしたときにこそ、「同志」の存在がものを言います。クラブもサポーターの気持ちや声援が選手に届くよう、いろいろな企画をしているでしょう。しかしいまは対戦するサポーター同士が試合を見ながらつながって応援合戦をするなども可能です。「同志」の連帯を、いまこそ見たいものです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年7月号より転載しています。
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