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VARへの理解がリスペクトを生む ~いつも心にリスペクト Vol.80~
2020年01月22日
ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の使用が競技規則で正式に認められたのは昨年、2018年のことでした。ロシアで行われたワールドカップで使用され、以後、多くの国のトップリーグでも使用が始まっています。2019年には世界の20カ国のリーグで継続的に使われました。
日本でも、2019年にはJリーグYBCルヴァンカップの準々決勝以後とJ1昇格プレーオフ決勝、そして20年元日に新国立競技場で開催される天皇杯全日本選手権決勝で使われ、20年にはJ1の全試合での使用が発表されています。
勝敗に影響を及ぼす重大な判定ミスをできるだけなくしたい――。VAR導入の目的はそこに尽きます。「大きな誤審」をなくすこと。それは「正しい判定」を求めることとは本質的に違います。
どんなプレーが反則になり、どんな行為がイエローカードやレッドカードになるのか、競技規則に明確に書かれています。しかし実際に起こるプレーは、反則かフェアなプレーか、誰の目にも明らかなものばかりではありません。反則と解釈することもできるが、そうと言い切れないプレーもたくさんあります。しかしレフェリーは、その瞬間瞬間で反則なのかそうでないのか判定を下し、試合を進めていかなければなりません。
VARの役割は、レフェリーが判定を下したときにレフェリーが見ることができなかった重大な事実があった場合、注意を喚起することに尽きます。レフェリーが何をどう見て判定を下したのか、VARにも共有できるよう、審判員たちは無線のコミュニケーションシステムで結ばれ、重大な場面ではレフェリーは自分の判定理由を即座に伝えています。
一例を挙げましょう。ルヴァンカップ決勝の札幌対川崎の試合で、前半29分に川崎の登里亨平選手がペナルティーエリアで倒れたシーンがありました。このとき、レフェリーは登里選手が当たった札幌の選手に不自然な動きはなく、登里選手が自ら当たっていったと判断し、そう伝えました。
映像を繰り返し見たVARは、レフェリーが重大な事実を見逃してはいないことを確認し、レフェリーの判定を支持したのです。ここで大事なのは、VARが「自分ならこういう判定をする」という意見を言っていないことです。VARも加わって「正しい判定」を探すのではなく、あくまで「重大な判定ミス」を回避することだけを目指しているのです。
日本サッカー協会の審判委員会は、私たち報道関係者を対象に何回もVARに関する説明会を開催し、実際にVARのチェックの様子やVARとレフェリーの会話まで公開してくれました。
そうしたいわば「勉強会」を重ねて私たち報道関係者が感銘を受けたのは、正しい判定を下すためにレフェリーたちがいかにより良いポジションを取ろうと走っているか、そして速いテンポで流れていくプレーのなかでいかに事実を整理しながら判定を下しているのか、その努力と能力の高さでした。
たしかに、瞬時の跳ね返りの中で起こったハンドの反則を見きれないこともあるかもしれません。ボールから離れたところで、誰も予想だにしない重大な出来事が起こる場合もあります。そう、2006年ワールドカップ決勝戦でのジダン(フランス)の「頭突き事件」のように…。
VARはそうした場合に大きな助けになるでしょう。しかし最終的に責任をもって判定を下すのは、常に主審、レフェリーなのです。VARは、その名のとおり「アシスタント」にすぎません。
VARの導入でもっともっといろいろな判定が話題になり、議論されるようになるでしょう。私はVARによってレフェリーが軽視されるようになるのではと懸念していたのですが、VARというものの理解が深まれば、逆にピッチ上のレフェリーへのリスペクトが高まることにつながるのではないかと考えるようになりました。VAR導入がVARのいない試合でもレフェリーの判定に対するリスペクトにつながるように、大いに議論を展開したいと思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年12月号より転載しています。
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