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クラブ内で学び合う、リスペクト ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.85~
2019年08月01日
今年2月に開催された平昌オリンピックで銅メダルを獲得した日本女子カーリングチーム。“そだね~”や“もぐもぐタイム”などさまざま報道されていた。ロコ・ソラーレ(LS北見)により構成された代表チームで、各試合で“ほんわかさ”が醸し出されていた中にも、勝負の思いが込められた1投1投。見入ってしまった。
平均2.5時間もかかるという長丁場の試合で、“もぐもぐタイム”は栄養補給であり、作戦タイム、また選手間やコーチとのコミュニケーションの場であるが、サッカーのハーフタイムよりもどこか和やかに見えた。“そだね~”も、戦術や1投1投の確認が円滑なコミュニケーションやメンタルの安定というより、心の和やかさの確保と意思疎通のように感じられた。
2月19日のスウェーデン戦。日本はこの試合に勝利し、初の準決勝進出に大きく前進した。スウェーデンの最終投が失敗となり、勝利した。日本の選手は、スウェーデンの選手と握手を交わした後、輪になって歓喜していた。試合後のインタビューでの吉田知那美選手のコメントが印象的だった。「やることはやった(最善を尽くした)。相手がナイスショットなら仕方ないという思いで待っていた。本当は人の失敗で喜んではいけないが、諦めなくて良かった。これがカーリングだなと思った」
こうしたことはなかなか言えない。すがすがしいインタビュー。ベースには相手へのリスペクトがあり、自らの気持ちやカーリングというスポーツを大切に思っていると感じた。また、それらが選手それぞれを、またチームを強くしているのだと思った。このインタビューは吉田選手のものだったが、どの選手も言葉の端々からリスペクトやポジティブさが感じられた。そして、こうした選手やチームをどのように作り上げたのかが気になった。ぜひとも学びたいところである。
ところで、日本サッカー協会(JFA)の暴力等根絶相談窓口。これまでも紹介しているが、この窓口は2016年6月に設置され、今年3月15日までの相談件数が424件となった。4種年代に関するものが187件(44%)、次いで3種年代に関するものが71件(17%)と、低年齢のサッカーに関する相談がその大半である傾向に変わりはない。
別の見方ではあるが、相談件数のうち、有資格指導者にまつわるものが404件(95%)と大半を占めた。404件の指導者の内訳は、S級コーチが1件、A級コーチが2件、B級コーチが5件、C級コーチが341件、D級コーチが55件。これを3種と4種の件数で見ると、相談があった事案のうち、97.3%がJFAの有資格指導者に関わるものとなっている。相談の対象が指導者の暴言や暴力だとしても、すべて指導者に非があるということではない。思い違いもあるし、些細なことに過剰に反応した結果の場合もある。とはいえ、直接大人(指導者)にものを言えない子どもたちに対して、納得できない言葉使いや対応、そして暴力を振るうケースも見て取れるため、それを看過することはできない。
指導者資格の取得に際して、C級コーチの場合であれば40時間程度の研修を受ける必要がある。そのカリキュラムは、コーチング技術に関わることはもちろん、発育発達や審判など多岐にわたっており、さまざまな知識を身に付けることができる。しかし、知識は知識。研修などでは多くの知識を引き出しに入れることができるが、いかにそれを的確に引き出し、現場で適切に活用するかはなかなか難しい。
人格が十分に形成されている人が指導者になっている。一方、これから高いレベルに向上する人もいると思われる。しかし、基本的に人間というものは100%完璧ではない。すばらしい指導や目を見張る、参考にすべき行動がある一方、未熟さによる失敗もあるし、ケアレスの失敗もある。
現場で指導者が最大限効果的な指導をし、その結果、選手がすばらしいパフォーマンスを披露できることが望まれる。そのためには、いかに指導を“有機的に”うまくできるか、正しくできるかが鍵ではないかと感じている。自ら研さんできる人もいる。しかし、自身の行動を100%外の目で振り返るのは難しいもの。自らの研修に加え、クラブで先輩の指導者がいればOJT(On the Job Training)も良い。ウェルフェアオフィサーによる気付きを伝えることで学ぶこともできる。
良い指導者がサッカーの技術を正しく、また選手たちが自ら持つ力以上のものを引き出せるように伝えること。そこには、単なる技術だけでなく、さまざまに「人」として周りから受け入れられる、リスペクトされる行動が備わっている必要がある。
メンタルにも強く、相手やサッカーそのものを大切に思って行動する。全てのチームや選手がカーリングのLS北見のようなポジティブでリスペクト溢れる行動をできるようになればと思う。クラブ内で相互に学び合い、知恵を出し合い、教え合うなどして、リスペクトやポジティブさが、選手のみならず、指導者やクラブ運営者のDNAとなり、それを当たり前のように行い、発言できるようになることを目指したい。
【報告者】松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2018年5月号より転載しています。
※日本サッカー協会は現在「リスペクトのある風景~リスペクトアウォーズ2019~」と題し、エピソードを募集しています。
(詳細はこちら http://www.jfa.jp/respect/news/00021436/)ぜひご参加ください。
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