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「裏切り者」へのブーイング ~いつも心にリスペクト Vol.38~
2016年07月04日
熊本地震で活動休止を余儀なくされていたJ2のロアッソ熊本が5月中旬にようやく公式戦に復帰しました。
初戦は5月15日、ジェフ千葉とのアウェーゲーム。熊本から来たサポーターを含め、数多くのロアッソ・サポーターがかけつけ、声援を送りました。トレーニング不足でコンディションが万全でない中、選手たちは持てる力を絞り尽くしました。0-2で敗れて選手たちは涙を流しましたが、ロアッソのサポーターはもちろん、ジェフのサポーターたちも健闘を称え、盛大な拍手を送りました。
日本のサポーターはJリーグ誕生とともに生まれました。日本サッカーリーグ時代には、読売サッカークラブ(現在の東京ヴェルディ)に「サンバ隊」と呼ばれるリズム楽器の演奏集団がいましたが、声を合わせて歌って応援するサポーターは存在しませんでした。
しかし「プロリーグならサポーターが必要だろう」と、1992年、Jリーグ最初の公式戦である「ヤマザキナビスコカップ」のスタートと同時に、当時Jリーグに所属していた10のクラブのスタンドに、同時発生的に、そして自然発生的に生まれたのです。
当時、世界のサッカー界では、暴力的な行為や相手チームを敵視して攻撃的な行為を行う「フーリガン」の嵐が吹き荒れていました。しかし日本のサポーターたちはそうした状況をきちんと理解し、「他山の石」として賢明にも自分のチームへの声援だけに集中する、世界に誇ることのできる存在となったのです。
今年5月13日、FC東京とサガン鳥栖の対戦がF東京のホーム、味の素スタジアムで行われました。鳥栖の監督は昨年まで2年間F東京を率いたマッシモ・フィッカデンティ。昨季いっぱいで契約満了となり、今季は鳥栖と契約して、初めて「古巣」に乗り込みました。
試合前のメンバー発表。鳥栖の選手の最後にフィッカデンティ監督の名前が呼ばれます。すると、スタジアムの北側のスタンドを埋めたF東京のサポーターから盛大な拍手が起こったのです。
F東京にしっかりとした守備の基礎を築き、2003年に並ぶクラブ史上最高成績のJ1第4位に導いてAFCチャンピオンズリーグ出場をもたらしたフィッカデンティ監督に、サポーターたちは最大限のリスペクトを示したのです。
「サッカーには別れはつきものです。しかし今日はFC東京との強い絆を感じました」
フィッカデンティ監督も、F東京のサポーターたちへの感謝の気持ちを語りました。
もちろん、F東京のサポーターたちも「攻撃的」になります。試合中に悪質なファウルをした相手選手を声を合わせて非難し、試合前の選手紹介のときにも、相手のエースには盛大な「ブーイング」(裏返しのリスペクト?)を浴びせます。しかしその一方で、対戦相手の監督であっても、感謝の拍手を送るのです。
こうした光景は、他のクラブでもよく見かけます。しかし中には、以前自クラブでプレーしていた選手がビジターとしてやってくると、無条件に「ブーイング」をするサポーターたちもいます。
たとえば、より良い条件を求めて他クラブに移籍していった選手へなら、「ブーイング」が歓迎の意味になるかもしれません。しかしそのクラブでは出番に恵まれずに移籍していった選手にまで「裏切り者」に対するように「ブーイング」をする必要があるのでしょうか。そうした選手には、「よくがんばっているな」と拍手を送るのが本当のサポーターだと思います。まして長年クラブのために奮闘した後に移籍を余儀なくされ、他クラブで再び輝いているベテラン選手に対しては、最大限のリスペクトを示すべきではないでしょうか。
フィッカデンティ監督が言うように、「サッカーに別れはつきもの」です。いまは違うユニホームを着ていても、プロサッカー選手として堂々と生き、プレーしている選手たちに対し、「あのころはありがとう。これからもがんばって!」と声援を送るのは、人間として当然だと思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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