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国歌へのリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.20~
2015年01月01日
「まだまだだな…」
11月18日に大阪のヤンマースタジアム長居で行われたオーストラリア戦で、2014年のサムライブルー(日本代表)の活動が終了しました。ハビエル・アギーレ監督が就任して9月から毎月2試合ずつ、11月のキリンチャレンジカップではホンジュラスに6-0、オーストラリアに2-1と連勝し、来年1月のAFCアジアカップ(オーストラリア)に向け、「強い日本」が戻ってきたのはうれしい限りです。
「まだまだ」と感じたのは、サムライブルーのチーム力ではありません。試合前の国歌演奏のときのスタジアムの様子です。
サッカーの国際試合では、試合前に両国の国歌を演奏あるいは斉唱するのが慣例となっています。場内のアナウンスで起立がうながされ、全員が起立して静かに聞くか、日本国歌のときには一緒に歌う人もたくさんいます。
その一方で、「動いている」人も驚くほど多いのです。9月からの6試合のうち5試合は日本国内での開催でしたが、国歌の演奏が始まっても、自分の席に向かって移動している人がたくさんいました。ピッチの周囲でも、多くの人が動いていました。
自国の国歌に対する思いは、それぞれの国でさまざまでしょう。中には、「そんな国歌聞きたくない」という人が多い国もあるかもしれません。
しかし世界の多くの国では国旗とともに国歌をとても大事にし、敬意を払うことを小さいころから教育しています。そうした国の人びとは、自国国歌だけでなく、他国の国歌にも敬意を払います。
1978年のFIFAワールドカップが行われたアルゼンチンの観客の国歌に対する態度は、感動的でした。
対戦相手の国歌演奏が始まると、場内は水を打ったように静かになります。動いている人など一人もいません。演奏が終わると、嵐のような拍手が送られます。
そしてアルゼンチン国歌が始まります。この国の国歌は前奏が非常に長いので、試合前のセレモニーでは前奏のみで終わってしまうことも少なくありません。今年ブラジルで開催されたワールドカップでもそうでした。しかし地元開催の78年大会では、当然フル演奏でした。静かに聞いていた観衆は、前奏が終わると、今度は力の限りに歌い始めたのです。
8万人の大合唱には、スタジアムを揺り動かすような力がありました。それはもちろん、選手たちの魂にも届いたはずです。選手たちが勇敢そのものに戦った力の何割かは、観客の歌声から与えられたもののように感じました。
そしてそのすべてが、相手国歌に対するリスペクトから始まっているように思われました。誰一人動かず、もしスタンドで誰か一人が何かを足元に落としたら、その「コツーン!」というような音がスタジアム中に響いてしまいそうな静けさ。堰を切ったように起こる大拍手。それがあるから、アルゼンチン国歌があれほどまでに感動的になったのです。
自分の席に急ぎたいという気持ちは分かります。しかし国歌演奏が始まったら、どんな場所にいても、その場で立ち止まってほしいと思います。ゲートで案内をしている人たちも、国歌演奏中は移動を促さないでください。そして自分たちも、ピッチに向かって直立してください。
ピッチの周辺で仕事をしている人も立ち止まってください。国歌演奏時に動く必要があるのは、テレビカメラをかついで選手たちのアップ画像を撮影しているカメラマンだけのはずです。
国歌だけに限りません。相手が大事にしているものを知り、それをリスペクトすること、さらにそれを形で示すことは、人と人の関係、とくに外国との関係で、とても大事なことだと思うのです。
次の日本代表の活動は1月にオーストラリアで開催されるアジアカップ。日本国内での国際試合は、早くて来年3月まで待たなければなりません。そのときには、相手国歌に対し、スタジアムにいる人全員がきちんとリスペクトの心を示せるようにしましょう。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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