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愛するクラブのため ~いつも心にリスペクト Vol.91~
2021年01月21日
6月下旬から7月上旬にJリーグが再開されて4カ月、「クラスター」発生による試合延期がJ1で1クラブあったほかには大きなアクシデントもなく(10月31日現在)、過密日程ながら試合が順調に進み、今季のリーグ戦を成立させる条件が満たされました。新型コロナウイルスの感染拡大直前から慎重な対策を講じ、厳格な「プロトコル(約束ごと)」を決めてリーグを再開し、観客数の制限を次第に緩めてきたJリーグと54クラブの「組織力」と「団結力」のたまものです。
10月には、太鼓などの「鳴り物」の使用が許可され、観客数も収容数の半数まで入れることが可能になり、スタジアムでのアルコール販売も再開されました(それぞれのクラブが、スタジアムの状況などによって実施を決定します)。
しかしその「定員」に応じたファン・サポーターがスタジアムに戻ってきたわけではありません。入場券を最多で2万4000枚販売することを決めた10月18日の「浦和レッズ×ベガルタ仙台(埼玉スタジアム)」では、実際の入場者は9831人にとどまりました。浦和の不調(この試合前までホームで4連敗でした)や天候の影響もあったかもしれませんが、それ以上に、「スタジアムに行くのはまだ怖い」と感じたファンが多かったようです。
「5000人制限」だったときにはほぼ「満員」だったFC東京も、なかなか1万人を超えませんでした。10月17日の『朝日新聞』都内版には、「『隣の人との距離が近い』『禁止されているのに、声を出す人がいる』といった不安が少なくない。『今季は観戦しない』というファンもいる」という記事がありました。
目に見えないウイルス。いつどこで感染するか、誰にも分かりません。しかし、しっかりと手洗いすることやマスクをかけることで、感染するリスクも、万が一自分が感染してしまっていたときに他人に感染させるリスクも確実に低くなることが報告されています。
公共交通機関を利用して試合を見に行くことが私たちの「日常生活」の一部であるなら、それぞれが決められたルールをしっかり守り、感染しないよう、感染させないように努力しなければなりません。ひとつ席を空けた隣のファンが安心して試合を楽しめるよう、スタジアム内ではマスクをかけ、大声を出さないようにしなければなりません。
Jリーグの試合観戦が原因となった「クラスター」が現時点では報告されていないのは、観戦に訪れたファン・サポーターがしっかりと責任ある行動を取ってきたからにほかなりません。そこには、「リスペクト」の心があります。周囲のファン・サポーターへのリスペクト、そして何より、勝ったときの幸福感だけでなく、負けたときにも選手たちを励ます拍手など、日常にはない心の動きを体験させてくれる「Jリーグ」というものへのリスペクトです。
Jリーグがいくら厳格な「観戦ルール」を定め、クラブのスタッフが必死に「プロトコル」を守ろうとしても、スタジアムを訪れる一人一人のファン・サポーターにこうしたリスペクトの心がなかったら、ここまで順調にリーグを進めてくることはできなかったでしょう。
社会を見渡せば、電車やバスなど公共交通機関の中で、人が集まる駅で、商店街やお店の中で、ほぼ全員がマスクをつけて行動しています。それは自分と他人を守るための「ガード」だけでなく、周囲の人に不安感を与えないリスペクトの表現でもあります。他人への気づかい、リスペクトの心は、日本社会の大きな長所です。
試合中、好プレーに思わず「うわぁ!」という声が出てしまうのは仕方がないことです。しかしそうした自然な反応ではなく、レフェリーに異議を唱えるなど大声を出す行為は、周囲の人に不安を与えると気がつかなくてはいけません。周囲の人が怖がってスタジアムにこないようになれば、愛するクラブが損失をこうむります。周囲のファン・サポーターに対するリスペクトの心は、何より、愛するクラブのためでもあるのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年11月号より転載しています。
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