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審判の話し合いを邪魔しないで ~いつも心にリスペクト Vol.77~
2019年10月30日
今季のJリーグでは、残念ながら何回も大きな誤審があり、大きな話題になりました。しかし実際には、それに負けないほどの「ナイスジャッジ」もたくさんあります。世の常で、こちらはあまり話題にはなりませんが……。
8月10日に行われたJ1第22節の鹿島アントラーズ×横浜F・マリノスの後半11分のシーンは、本当に見事な判定でした。
鹿島の左CK。鹿島のDFブエノが頭で折り返します。しかしゴール前では、シュートしきれず、クリアもしきれない状況が数プレー続いた後、最後に左に流されたボールを鹿島のFW土居聖真がゴールに蹴り込みました。鹿島が1-0でリードしていた時間帯。誰もが勝負を決する重要な2点目が決まったと思いました。しかし笛を吹いた後、小屋幸栄主審は間島宗一副審のところに走り寄ります。
寄ってくる選手たちを遠ざけて言葉を交わした両審判員。やがて小屋主審は第4審判員の蒲澤淳一氏に状況を説明し、もういちど間島副審に確認すると、オフサイドの旗を上げるように要請しました。得点は認められなかったのです。
スタジアムや放送で見ていた人は、誰も理解できませんでした。リプレーを見ても、土居は完全にオンサイドの位置から動き出してシュートを放っていました。
キーマンは間島副審でした。ブエノがヘディングしたときに鹿島FW伊藤翔がオフサイドのポジションにいたことを、彼は確認していました。左足の白いシューズが出ていただけでしたが、間島副審はしっかりと見ていたのです。その直後、伊藤は横浜FMのDF広瀬陸斗と交錯してそこからボールが上に上がったのですが、間島副審はどちらがボールに触れたのか確認ができず、その時点で旗を上げるのを待ったのです。当然、触れたのが広瀬であれば、伊藤はオフサイドではありません。
土居がボールをゴールに送り込んだ後、間島副審から無線で注意喚起を受けた小屋主審が間島副審のところに走り寄ります。寄ってくる両チームの選手たちを退けて話し合いをした結果、2人は伊藤にオフサイドの反則があったことを確認します。間島副審が見ることができなかったシーン、伊藤と広瀬の競り合いで伊藤がボールに触れていたことを、小屋主審がはっきりと確認していたからです。
この間約2分半。感心したのは、小屋主審も間島副審もずっと冷静で、短い会話の中できちんと状況を整理しながら話していたように見えたことです。実際、この複雑な状況でリプレーも見ることができない中、両者の頭の中が整理されていなければ、正しい判定には至らなかったでしょう。伊藤の足が出ていたことをまるで機械のように見極め、その情報が最終判定にどう影響するのかを整理して記憶していた間島副審の能力には、舌を巻かざるをえません。そして、間島副審の情報を自分が確認した情報と統合して判定を下した小屋主審のマネジメントも、非常に見事でした。
もうひとつ素晴らしいことがありました。最初は両審判員のところに近寄っていった両チームの選手たちが、小屋主審にうながされるとすぐに離れたことです。すばやく冷静な話し合いができたのは、そうした両チームの選手たちの協力があったからです。
こうしたケースでは、審判員の話し合いの場に割り込んでいく選手をよく見ます。しかしそれは話し合いのじゃまになるだけです。
判定はいつも一人で行われるわけではありません。ピッチ上の4人の審判員の情報を集め、協力して一つの判定が下されることもあります。協力のためには、しっかりと互いのコミュニケーションが取られなければなりません。審判員が話し合いをするとき、選手たちは審判員を、そして正しい判定のための彼らの努力をリスペクトし、しっかりと離れて待つ必要があります。
オフサイドの判定は鹿島には大いに不満だったでしょう。しかし両審判員の見事な能力と協力で正しい判定が下されたことは、最終的には、選手としても幸せなことだったのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年9月号より転載しています。
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