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サッカーを救う道 ~いつも心にリスペクト Vol.74~
2019年07月30日
私たちはサッカーを愛する「サッカー・ピープル」です。サッカーを愛し、プレーをしたり審判をしたり、そして役員やメディアとしてサッカーに関わることによって、人生を豊かにしていきたいと、誰もが願っています。
リスペクトやフェアプレーを推進しようと思うのは、そのサッカーを、勝敗を超えてより良いもの、みんなが心から楽しめるものにしたいからです。サッカーがより良いものになることで、それにたずさわる私たちみんなの人生もより豊かになると信じるからです。
5月17日のJリーグ、浦和レッズ対湘南ベルマーレで、明らかにゴールに入った湘南の得点が認められないという出来事がありました。重大な「誤審」であることは議論の余地がありません。
レフェリング技術にどんな欠陥があり、今後このような誤審をなくすには何が必要か、検証と対策が急務なのは言うまでもありません。しかしあの状況で主審をはじめとした審判チームの取った態度は立派だったと私は思っています。
正式に「ビデオ副審(VAR)」や「ゴールラインテクノロジー(GLT)」の使用が認められた試合以外、ピッチ上の4人の審判員は、ピッチ外からの情報を得て判定を下すことができないことになっているからです。たとえ試合全体を監督する「マッチコミッショナー」や審判員を評価する「審判アセッサー」という立場でも、判定に関して試合中に審判員にアドバイスすることは許されていません。
両チーム選手や湘南ベンチの様子を見れば、「ゴールだったのではないか…」という思いが頭の中に渦巻いたと思います。しかし4人の審判員の誰もが確認できなかったゴールを推測で認めてはならないというルールの基本的な考え方を、彼らは守り抜いたのです。
実際にゴールに入った得点が認められないのは、誰にとっても不幸なことです。しかし「だからVARやGLTが必要」という話になるのは、あまりにも短絡的で、貧困な発想ではないでしょうか。高額な費用を要するVARやGLTを導入できるのは、ごく限られたプロフェッショナルの試合だけです。その他の試合では、不幸は不幸のままです。
VARやGLTに頼らなくても、こうした状況を救う力が、私たち「サッカー・ピープル」自体の中にないでしょうか。私はあると信じています。それは、当事者たちが勇気をもって話すことです。
浦和×湘南戦の場合では、浦和の選手、あるいはチーム役員が自ら進んで「入っていた」と審判員に伝えることです。
不利になる側が進んで認めるのであれば、審判員も「自分たちは確認できなかったけれど、間違いなく入ったのだろう」と判断できたのではないでしょうか。
Jリーグではこうした事例に記憶がありません。しかしドイツのブンデスリーガではときおり見かけます。1988年にブレーメンのFWフランク・オルデネビッツが自らボールが手に当たったことを主審に告げ、結果としてPKの判定が下されるという出来事がありました。それをきっかけに、同じようにする選手が毎年見られるようになりました。不利になっても正直に言うことが、ドイツでは「文化」となり、少年サッカーにまで広まっているのです。
浦和の選手やベンチのチーム役員を非難するつもりなど、一切ありません。ただ、湘南戦のような「不幸」な状況からサッカーという競技を守り、守るだけでなく価値を高める「ヒーロー」になるチャンスを逃してしまったことを、残念に思うのです。
正直に言いますが、私自身、あるチームの「監督」という立場にあり、重要な場面で同じようなことがあった場合、自ら進んで話す、あるいは選手に話すようアドバイスすることができるか、自信などありません。しかし、もし多くの人が注目するJリーグの試合でそのようなことが起こったら、それは他のチームだけでなく少年少女たちにまで影響を及ぼすでしょう。サッカーがより価値のあるものになることで、「サッカー・ピープル」の人生も豊かになると思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年6月号より転載しています。
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