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互いにリスペクトしたから好試合が生まれた ~いつも心にリスペクト Vol.70~
2019年04月04日
1月中旬に高知市で開催された「第11回JFAフットボールカンファレンス」はすばらしい成功でした。日本の指導者たちが積み重ねてきた世界に追いつく努力が無駄でなかったことは、昨年のワールドカップで証明されています。
3日間のカンファレンスで圧巻だったのは、昨年のワールドカップのベルギー戦に絞って検証した初日のプログラムでした。当時の日本代表コーチだった森保一・現日本代表監督とベルギー代表のロベルト・マルティネス監督のインタビュー映像を見ながら日本サッカー協会の関塚隆技術委員長が振り返るという形でしたが、非常に聞き応えのある話でした。
「日本の選手たちはそれまでの3試合で自信を持ってプレーしていました。ベルギーが強豪であり、スーパースターがいることは理解していましたが、『同じ目線』で試合に臨むことができたと思います。日本人らしさを出せれば戦えると西野朗監督は話し、その働きかけでベルギー戦もアグレッシブにプレーできました」(森保監督)
「日本はグループステージの3試合で手の内をすべて見せなかったという印象でした。正確なレベルを把握できず、日本のことよりも自分のチームの分析と準備に集中しなければならないと考えました。周囲には、次の準々決勝で当たる可能性のあるブラジルを云々する人もいましたが、私は日本戦に集中するようにと選手たちに強く言いました」(マルティネス監督)
両者に共通するのは、試合に臨む非常に的確な態度です。日本は世界でもトップクラスの相手の力を認めつつも恐れることなく、ベルギーも日本を侮ることなくリスペクトしていたことが分かります。今回のワールドカップでも屈指の好試合になったのは、互いに対するしっかりしたリスペクトがあった結果だったのです。
そして後半、日本が電光石火の攻撃で2点を先制。そこでマルティネス監督は考えます。
「日本は本当にすばらしいプレーをしている。何人か、とくに両サイドバックが非常に質の高いプレーを見せ、ベルギーのアウトサイドを下がらせて5バックのようにしてしまっている。このまま続けていては追いつけない」
そこで65分に2人の長身選手を投入します。それまではサイドを崩す丁寧なプレーをしていたのですが、手間をかけずに一対一で仕掛け、中央に入れるプレーに切り替えたのです。日本の力を認めた結果です。ここにも「リスペクト」の態度が認められます。
そして同点となり、2-2のまま後半アディショナルタイム。終了間際の日本の直接FK、そして左CK。試合をスタンドで見ていた関塚委員長は「ここで終わらせたいという強い意欲を選手たちから感じた」と言います。
一方のマルティネス監督も、「なんとしても90分間で終わらせたいと思っていました」と、まったく同じ心境でした。そして、「相手CKからのカウンターはいつも狙っています。しかしあの切り替えは、クルトワ以外にできない」と、自チームのGKをほめました。
あの決勝点については、NHKのドキュメンタリーで取り上げられるなど、大きな話題を呼びました。しかしベルギー戦でより重要なのは、両チームが互いをリスペクトしつつ自分たちの持っているものを最大限出し尽くしたことにより、最高の試合が生まれたということではないでしょうか。
「何が足りないのかな…」。試合後のフラッシュインタビューで、日本の西野監督はこうつぶやきました。ファウルで止めるべきだったというようなシニカルな姿勢では永遠に世界に追いつくことはできません。65分からの試合やプレーを謙虚に分析し、教訓とし、努力を続けるしか、世界に追いつく手段はありません。マルティネス監督は最後にこう話しました。
「負けは失敗ではない。失敗とは、次を目指さないことです」
ベルギー自体も、圧倒的に攻めた準決勝でCKからの1点に泣きましたが、3位決定戦では再びチーム一丸の好プレーを見せて見事な勝利を飾っています。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年2月号より転載しています。
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