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いっしょに『試合』をする ~いつも心にリスペクト Vol.35~
2016年03月30日

子どものころ、大相撲の中継を見るのが好きでした。その中でとても興味深かったのが、「仕切り」と「立会い」でした。
解説によると、両力士の呼吸さえ合えば、制限時間にならなくても立ち会っていいということでした。子ども心には、何回も仕切り直しをする動作がまどろっこしく感じられていたのですが、最初の仕切りから相手がいつ立っても大丈夫なように準備をしていること、仕切りごとに気合いを高めていることを知って、観戦の面白さが増したことを思い出します。
さて、サッカーで「仕切り」にあたるものと言えば、試合前の両チームキャプテンによるコイントスでしょうか。4人の審判員がハーフウェーラインのところで待ち、そこに両チームのキャプテンが歩み寄ってコイントスを行います。
「コインをトスし、勝ったチームが試合の前半に攻めるゴールを決める。他方のチームが試合開始のキックオフを行う」
競技規則に書いてあるのはこれだけです。普通は、主審がビジターチームのキャプテンにコインのどちら側かを選ばせます。ホームチームはその裏側ということになります。そしてコインを空中に投げ(あるいは親指ではじいて)、手の甲あるいはピッチ上に落ちたコインの裏表で勝者を決めます。
さて、この一連のセレモニーに欠くことのできない要素があります。両チームキャプテンの握手です。場合によっては、握手しながらペナントの交換が行われます。
この握手は、サッカーの試合においてとても重要な意味を持ったものだと、私は考えています。互いにリスペクトし、フェアに(正々堂々と)戦おうと誓い合っていることを象徴するものだからです。
1954年にスイスで開催されたFIFAワールドカップで西ドイツ(当時)を初優勝に導いたキャプテンが、フリッツ・ワルターというミッドフィルダーでした。そのワルターの著書が、岡野俊一郎さんの翻訳により、1970年代前半に約3年間『サッカー・マガジン』で連載されました。その中にとても印象的な記述がありました。試合前のコイントスについて書かれたものです。ちなみに、ワルターは西ドイツ代表でも所属クラブでも不動のキャプテンでした。
「トスのときに相手の主将と長く話す必要はない。しかし、健康をたずね、幸運を祈る言葉をかけることはある。(中略)私は次のような言葉を多分聞くに違いない。『さて、彼らを一ちょう片付けるか』」
「彼ら」というのは、試合の相手チーム、すなわちワルターのチームのことです。相手チームのキャプテンは、まるで大相撲の仕切りでぐっと体を沈めた力士のように、闘志満々、「やっつけてやるぞ」という姿勢を見せたのです。しかしワルターは軽く受け流します。
「こんな時、私は次のように答える。『結局はいっしょに試合するんじゃないか』」
なんと見事な言葉でしょうか!
岡野さんは分かりやすく「試合」と訳しました。原文を当たったわけではありませんが、ドイツ語では「Spiel」となっていたはずです。独語辞典で引けば最初に出てくるのは「遊び」という訳です。さらに見ていくと「試合」という訳も出てきます。英語の「プレー」は「遊ぶ」ということ。ドイツ語でも、サッカーの試合をするのは「遊ぶ」ことなのです。
つまり、ワルターは相手チームのキャプテンに向かって「いっしょに遊ぶんだろう」と言ったのです。だから相手をリスペクトし、フェアに戦おうと…。
相手をリスペクトする―。
「相手をみくびらない」という意味でそう言われます。しかしもっと根源に、「いっしょにサッカーを楽しむ(遊ぶ)仲間」という意味があることを意識する必要があります。仲間だから、ケガさせるような無謀なタックルは思いとどまります。仲間だから、相手チームの選手でも重大なケガをしたと思ったら、何にも優先して気づかい、助けようという気持ちが生まれます。そして仲間だから、試合が終わったら、勝敗を超えて相手の健闘をたたえ合うことができるのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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