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4年前、最も美しかったとき ~いつも心にリスペクト Vol.25~

2015年06月04日

4年前、最も美しかったとき ~いつも心にリスペクト Vol.25~

あれからもう4年間という歳月が流れてしまったかと思うと、少し驚いてしまいます。

2011年7月17日、ドイツのフランクフルト。なでしこジャパン(日本女子代表)がPK戦にもつれ込む激戦の末アメリカを下し、国際サッカー連盟(FIFA)主催の大会で初めて日本に「チャンピオン」の座をもたらしました。

第6回FIFA女子ワールドカップ決勝戦、圧倒的な体格差を持つアメリカはそのスピードと体力を生かして攻撃を仕掛けてきましたが、序盤の猛攻をしのいだなでしこジャパンは得意のパス攻撃で徐々に盛り返し、互角の展開に持ち込みます。後半24分にアメリカに先制を許してもあわてず、36分にMF宮間あやが決めて同点。延長戦でも一度は突き放されますが、終了3分前に宮間の左CKにMF澤穂希がニアポストに走って合わせ、アメリカのゴールを破りました。

そしてPK戦ではGK海堀あゆみが相手のキックを2本止め、最後はピッチに立つ日本人選手で最年少だったDF熊谷紗希が思いきりよく左上に決めて3-1で勝ったのです。

この年の3月に日本を襲った東日本大震災で苦しんでいる人びとを思い、チーム全員が心をひとつにして戦ったなでしこジャパン。その姿は、日本だけでなく世界中の人びとの胸を打つものでした。その日本の挑戦を真っ向から受けたアメリカの戦いぶり、12年ぶりのワールドカップ優勝にかける気持ちの強さも素晴らしく、試合は非常に美しいものになりました。

スピードを生かしたモーガンの先制点、ゴール前の粘りと驚異的な反射神経で決めた宮間の同点ゴール、最大の武器であるヘディングのパワーを見せつけたワンバックの勝ち越し点、そして練習で百回やっても1本決めることができるかどうかというジャンプしながら右足アウトサイドを使って背後のゴールに送り込んだ澤の同点ゴール…。生まれた4ゴールも、すべて美しいものでした。

しかしその中でも最も美しいものは、試合後のピッチ上にありました。

PK戦で4番手だった熊谷のキックが決まったとき、なでしこジャパンの選手たちは、ベンチの選手たちも飛び出し、全員が熊谷に向かって駆け出しました。そしてたちまち歓喜の輪が生まれました。

しかしただひとり、この輪に加わらない小柄な選手がいました。宮間でした。宮間は2009年から2010年にかけてアメリカの3クラブでプレー、代表戦でもたびたび対戦してきたアメリカ代表チームには、GKソロ、FWワンバックなど多くの友人がいました。PK戦で優勝が決まった瞬間、宮間の胸を何がよぎったかは想像することもできませんが、友人たちのことが消えていなかったのは間違いありません。彼女は落胆するアメリカ・チームのところに歩み寄り、旧友たちと健闘をたたえ合ったのです。

「アメリカの選手たちにリスペクトの気持ちを示したかった」

後に、宮間はこんなことを話しています。それは、自然で、素直な気持ちだったのでしょう。

この宮間の行動は、アメリカの選手たちの表情までを変えました。ソロがなでしこジャパンの選手たちに「おめでとう」と声をかけ、やがてピッチ上には素晴らしく美しい雰囲気が広がっていったのです。きっとそれは、テレビ中継を通じて世界中に広がったに違いありません。

4年間を経て、宮間はなでしこジャパンのキャプテンとなってカナダでの第7回女子ワールドカップに挑みます。その胸には、金色に輝く「チャンピオン」のエンブレムがついていますが、宮間だけでなく、なでしこジャパンの全員が、それが勝利を約束してくれるとは思っていないでしょう。前回までの16チームから24チームになった大会は、決勝戦までの試合数がひとつ増え、ロシアに次いで世界で2番目に広大な(中国より広い!)カナダでの移動時間もドイツとは比較になりません。

しかしなでしこジャパンはなでしこらしく、すべての面で美しく戦ってくれるに違いありません。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

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