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成熟への重要なステップ ~いつも心にリスペクト Vol.22~
2015年03月03日
1月にオーストラリアで行われたAFCアジアカップは、サムライブルー(日本代表)のチームとしての成熟を強く感じた大会でした。残念ながら準々決勝でPK戦敗退という結果になってしまいましたが、周囲が騒然とする中、どの試合でも落ち着いた試合運びができたのはとても大きな収穫でした。
チームとしての「成熟」とはいったい何でしょうか。いろいろな段階があると思いますが、今回印象的だったのが「対戦相手へのリスペクト」でした。
グループステージで、日本はパレスチナ、イラク、ヨルダンと対戦しました。FIFAランキングでは日本より下でも、いずれもフィジカルが強く、激しい戦いを挑んでくる中東のチームです。
パレスチナ代表との対戦は初めてのことでした。2014年の第17回アジア競技大会(韓国・仁川)では、手倉森誠監督率いるU-21日本代表が対戦し、4-0の勝利を収めています。AFCアジアカップを含め、メジャートーナメントの決勝大会出場は初めてというチームです。
2試合目で当たるイラクは、これまでどんな試合でも日本と接戦を演じてきた相手です。2007年のAFCアジアカップ王者は才能のある攻撃陣をそろえ、どんな瞬間にでも相手ゴールに痛撃を与える準備ができています。
そして、ヨルダンは過去2回AFCアジアカップで対戦し、いずれも引き分けた相手です。2013年に行われたFIFAワールドカップアジア最終予選(アウェイ)では、1-2で敗れています。堅固な守備と鋭いカウンターというスタイルは、日本にとって最も警戒しなければならない相手でした。
しかし結果は3戦全勝でした。パレスチナに4-0、イラクに1-0、そしてヨルダンに2-0。実際にはもっと点差が開いてもおかしくなかったのですが、相手に得点を許すことなく着実に勝利を積み重ねる姿に日本代表が成熟期を迎えたことが表れていました。
「相手チームをリスペクトする」。歴代の日本代表監督が異口同音に語ってきた言葉です。現在のハビエル・アギーレ監督も試合のことを語るたびに必ずと言っていいほどこう話します。
相手の評価が一般的にいくら低くても、あなどることなく集中して試合に入り、自分たちの持っている力をしっかりと発揮しなければなりません。サッカーは優勢なチームが勝つとは限らない面倒なゲームだからです。
また相手がどんなに有名なチームでも、恐れたり名声に気を取られてはいけません。どんなチームでも、自分たちにできることをすべて出し尽くすしか勝利への道はないからです。
パレスチナ、イラク、ヨルダンと対戦したAFCアジアカップ・グループステージの日本代表からは、こうした「相手へのリスペクト」の姿勢が強く感じられました。だからどんな状況でも慌てずにしっかりと対処して、力を出し切ることが可能になったのです。
口で「リスペクトしている」というのは簡単ですが、実際には相手を見て試合前から安心したり、不安になっているのが選手というものです。現在の日本代表は、2回のワールドカップを経験した選手、欧州のトップリーグで長く活躍している選手が何人もいて、豊富な経験を持っています。「経験」とは成功と失敗を数多く重ねることです。そしてそうした経験から、試合に臨む態度として、自然に「相手をリスペクトする」という姿勢が身についたのでしょう。
その姿勢が大きくプラスになり、日本代表が「成熟」への重要なステップを踏んだと感じられたのが、今回のAFCアジアカップでした。
ただし「リスペクト」は試合に勝つためのメンタリティーというわけではありません。ただただ、自分自身、そして自分たちのチームにできる最高のプレーを試合の場で表現するための心構えなのです。スポーツの究極の目標とは、相手に勝つことより、自分自身の弱さや愚かさに打ち勝ち、天から与えられ、自らの努力で培った能力を、ひとつの試合、限られた時間の中で余すところなく発揮することだと、私は考えています。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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