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入場直前の大型映像装置 ~いつも心にリスペクト Vol.17~
2014年09月30日
Jリーグでは、スタジアムによって、試合前、入場直前の両チーム選手の姿が大型映像装置に映し出されます。
両チームの選手たちがロッカールームからロビーに出てきます。そこには4人の審判団が待ち構えていて用具などのチェックを行い、時間になったら音楽が鳴り、フェアプレーフラッグを先頭に入場していきます。それまで1分間ほどのシーン。私はこの映像を見るのがとても好きです。
普通、こうしたシーンは、観客にも、そして私のように試合の報道をする者にも見ることができません。そこにいることを許されるのは、選手と審判員のほか、試合の役員、両チームのスタッフや役員たちだけだからです。
私が初めてこうした状況の両チームを見たのは、1990年のFIFAワールドカップ・イタリア大会でのことでした。ローマのオリンピックスタジアムの大型映像装置に入場前の両チームの選手たちが映されるのを見て、非常に新鮮な感動を受けたのを覚えています。
日本では、1990年代に現在の東京ヴェルディが川崎市にいたころに試合運営の中で始めたと記憶しています。
新鮮に感じたのは、試合前の選手たちが緊張感を漂わせながらも意外にリラックスしていて(1年間に40回以上もこの時間を経験しているのですから当然です)、同じチームの選手同士だけでなく、相手チームの選手とも握手し、言葉を交わしていたからです。
ワールドカップでは、同じリーグ、あるいは同じクラブ同士の選手が祖国のユニフォームを着て対戦することがあります。その選手たちは、握手するだけでなく肩をたたき合い、「お互いにがんばろうな」などと話しています。
Jリーグなら、学校の先輩後輩、日本代表で一緒に戦った選手、年代別の代表・選抜、さまざまなイベントなどで知り合った選手同士が、友人との再会を喜ぶように握手し、短時間ながら笑顔で言葉を交わしています。
選手同士だけではありません。そこに審判員たちも加わります。ほとんどの選手はまず主審のところに行って笑顔で「よろしくお願いします」とあいさつし、それからチェックを受ける副審とも握手、ひとことふたこと交わします。
そこにあるのは、「敵・味方」ではありません。「これから一緒に良いサッカーの試合をつくろう」という「仲間」の姿そのものなのです。両チームがルールを守って互いに全力を尽くして攻守を行い、審判員がしっかりと試合をコントロールしなければ、良い試合にはなりません。全員が「仲間」と言っていいでしょう。
ピッチに入ると、両チームの選手、そして審判団は、整列した後、もういちど全員が握手します。スタンドからも直接見ることができますが、「セレモニー化」したもので、「仲間」らしい気持ちが伝わってくるものではありません。決まりきった形の握手より、入場前の笑顔のシーンをもっとしっかり見せることのほうが、ずっと観客に伝わるものがあるはずです。
残念なのは、大型映像装置にこうしたシーンを流しながら、Jリーグのいくつかのクラブがホームチームの選手たちの表情ばかり追っていることです。ロッカールームから出てきた選手たちがにこやかに握手しているのは相手チームの選手や審判員のはずなのですが、そちらを映さないため、スタジアム内のファンやサポーターにはまったく理解できないのです。自クラブのスター選手たちのアピールをすることだけが大型映像装置の役割という誤った考え方が、こうした「考え違い」を生んでしまったのでしょうか。
ともかく、選手たちが入場してくる直前の大型映像装置に一度注目してみてください。そこには、チームは違いこれから対戦することになっていても、互いに友情を示し合う選手たちや、選手と審判員が違いに高度な専門的能力を持った者同士としてリスペクトを表現し合う姿を見ることができるはずです。まだ試合は始まっていませんが、それは試合の中で最も美しいシーンかもしれません。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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