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レフェリーを育てる責任 ~いつも心にリスペクト Vol.90~
2020年12月22日
どんな仕事にも始まりがあり、どんなに人にも新人時代があります。もちろん私にもありました。
「駆け出し」の編集者時代、編集部の先輩たちからは仕事のいろはを教わりました。「サッカー記者」の大先輩である賀川浩さんや牛木素吉郎さんといった人たちからは、取材の方法や記者としてあるべき姿勢などの薫陶を受けました。
そして日本サッカー協会(JFA)や日本サッカーリーグ・チームの人たちからは、サッカーのいろいろなことを教わり、また、「がんばれよ」と励ましてもらいました。長沼健さん、平木隆三さん、岡野俊一郎さんといった日本のサッカーの「先導者」たちが何の経験もない若造に声をかけてくれることに非常に感激したのを覚えています。
最近、女性のレフェリーがなかなか増えない理由というのを聞かされ、自分自身の「駆け出し時代」を思い起こしました。
こうした人々がいなかったら、いまサッカーの記事を書いて生活するという人生はなかったかもしれません。自分一人でやってきたわけではなく、たくさんの人に助けられ、叱咤激励されて仕事を続けることができたからです。
レフェリーを志す女性たちがぶつかる大きな壁は、「監督たち」だといいます。資格を取り、研修会にも参加して、いろいろ教わります。そこでは、インストラクターや先輩たちが親切にいろいろ教えてくれます。あとは「実戦」あるのみ。ところがその試合に行って実際に笛を吹いてみると、判定のたびに監督たちから怒鳴られ、ひどい言葉をかけられ、萎縮してしまう女性レフェリーがとても多いというのです。
女子の試合といっても、現在の日本では監督たちの多くが男性です。その男性監督たちが、女性のレフェリーを見下すように「どこ見てるんだ!」「いまのはファウルだろ!」などの言葉を、威嚇するように投げつけます。なでしこリーグやFIFA女子ワールドカップで笛を吹くことを夢みて3級審判員の資格を取った人の多くが、あまりの恐ろしさから、この時点で挫折するのだそうです。
こんなことはあっていいはずがありません。これから経験を積もうという(だからこそ現時点では経験が少ない)レフェリーを言葉で威嚇するような人には、チームの監督をする資格はありません。それは明らかなハラスメントであり、JFAの懲罰対象になる行為でもあります。
考えてみてください。副審という「味方」はいますが、試合に入ると、レフェリーはときに「敵」に囲まれた思いになります。両チーム22人の選手たちが不満の態度を見せ、監督たちが容赦ない言葉を発したら、レフェリーは試合をどれだけ長く感じるでしょうか。「もうやりたくない」と思ってしまうのは、あまりに当然です。
自分の「駆け出し編集者・記者時代」を思い起こすと、赤面せずにいられないことばかりです。それでも助け、励ましてくれた人がいたから、キャリアを積み重ねることができました。レフェリーがそれとどう違うのでしょうか。
確かに、試合に勝つために一生懸命練習してきたことが、一つの誤審でフイになることもあります。しかし、選手やチームが日々の練習だけでなく試合中の好プレーやミスを通じて成長していくように、レフェリーも試合担当し、ミスを含む一つ一つのジャッジを積み重ねることで力をつけ、自信を深め、成長するのです。
監督たちには、自分の選手やチームを成長させることだけでなく、自分のチームの試合を担当するレフェリーたちをも成長させる責務があります。レフェリーたちが成長できなければ、最終的にはチームやサッカーが害を被るからです。
レフェリーを志す人の多くは、一生懸命サッカーに取り組む選手たちを見て、その役に立ちたいと思って始めるといいます。しかし監督たちの心ない暴言や威嚇に遭ったらその志はしぼみ、意欲も消え失せます。監督たちは、彼女たちの志をリスペクトして励ます必要があります。レフェリーたちの成長には、あふれるほどの励ましが必要だと、私は思います。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年10月号より転載しています。
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