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リスペクトのある試合 ~いつも心にリスペクト Vol.139~

2024年12月24日

リスペクトのある試合 ~いつも心にリスペクト Vol.139~

アジアのクラブ王者を決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)は、9月にスタートした2024/25シーズンから大きく大会方式が変わり、トップの「ACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)」では強豪12チームがそれぞれ8試合戦うという形になりました。どの試合も熱戦で、ハイレベルのプレーが続いています。しかしその激しい戦いの中にも、スタジアム全体にリスペクト精神があふれた気持ちの良い試合がありました。

10月1日に川崎市の等々力競技場で行われた川崎フロンターレ対光州FC(韓国)は、試合のクリーンさとともに、試合後の両チーム、両チーム・サポーターの振る舞いで、サッカーが与える幸福感を久々に感じさせるものでした。

試合は前半に光州がPKで1点を決め、後半、川崎Fが反撃して猛攻をかけ、光州も押されながら効果的な攻撃を繰り出して2点目を狙うという激しいものでしたが、同点ゴールは生まれず、光州が1点リードのまま逃げ切りました。これで光州は2連勝、川崎Fは1勝1敗となりましたが、ACLEのグループステージは全8試合なので、試合終了後も両チームはとても落ち着いていました。

終了後、レフェリーたちと共にピッチの中央に並び、握手をかわす両チーム。そこに双方のサポーターから大きな拍手が送られます。しかしめったに見ない光景が生まれたのはその直後でした。

光州の選手たちが、キャプテンのイ・ミンギ選手に促されて、全員で川崎Fのサポーターに向かって手を振ったのです。すると、川崎Fのサポーターから前にも増して盛大な拍手が送られました。

「前日練習から、すばらしい環境を整えてくれた川崎Fに感謝したいと思います。この町のホスピタリティは最高のものでした。(国内試合もあり)スケジュールは厳しかったけれど、おかげで、いい準備ができて、自分たちのパフォーマンスに満足しています」

「プレーヤーオブザマッチ」に選ばれ、試合後の記者会見に出てきたイ・ミンギ選手は、こんな話をしました。そして川崎Fのサポーターに向かって手を振った気持ちをこう説明しました。

「試合後だけでなく、試合中にも驚いていました。アウェイの私たちにも、川崎Fのファンはとてもポジティブな反応をしてくれたからです。韓国でも皆無というわけではありませんが、決して当たり前ではありません。これだけ多くのファンの前でプレーができ、とても楽しめましたし、選手として幸せを感じていました。だからすごくリスペクトと感謝の気持ちを感じ、それを表現するために手を振ったのです。全ての人に感謝したいと思います」

火曜日午後7時キックオフの試合でしたが、等々力競技場は1万2527人の入場者を記録しました。Jリーグでの川崎Fの平均入場者数は2万1000人ほどなので、数字の面では「6割の入り」のように感じるかもしれませんが、ACLEでは立ち見席を使うことができないので両ゴール裏の1階席は「観戦禁止区域」。それを考えると、立派な数字だったのです。

ホームでの敗戦は厳しい結果でしたが、試合後の川崎Fの選手たちの態度も立派でした。全員でまず光州のサポーター席の前に行き、そこで手を振ってからホームのサポーター席に向かったのです。

これには光州のイ・ジョンヒョ監督も感激し、「素晴らしい文化だ」と、試合後の会見のなかでわざわざ語りました。

「リスペクトのある試合」は「片道通行」では成り立たないということを、あらためて感じた日でした。自分の行動でリスペクトを示す人とともに、「それを感じる人」が必要なのです。そして感じるだけでなく、そのリスペクトへの感謝の気持ちを、行動や言葉で表現することが不可欠です。そうして「相互通行」になったとき、互いへのリスペクトが定着し、永く心に残るものになるのです。

両チームの選手もサポーターも熱くなり、ともすれば「敵意ばかりの試合」になりがちなACLE。そうした中で、「川崎F×光州2024」は、忘れられない試合になりました。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年11月号より転載しています。

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