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安全は最優先事項 ~いつも心にリスペクト Vol.137~
2024年10月30日
「飲水を前後半2回ずつにしてくれるよう、ホームチームに連絡しておいてほしい」
試合の1週間ほど前、私はチームのマネジャーにこう頼みました。監督をしている女子チームの公式戦が7月下旬に予定されていたためです。40分ハーフの試合。2回飲水タイムをとると、およそ13分ごとに試合が細切れになることになりますが、プレーヤーの安全には代えられません。
近年の日本の夏の猛暑はすでに「異常」ではなく「日常」になりつつあります。本来なら7月と8月の2カ月間の日中にはサッカーの試合などできない状況なのですが、相手チームにもさまざまな事情がある上に、グラウンドが確保できるのはここだけという決定的な要因もあり、この時期での開催が決まりました。
ホームである相手チームからは、すぐに「当日の主審の方に連絡し、了承してもらいました」という返事がきました。
東京の梅雨空けが発表されたのは7月18日のことでした。試合の3日前です。私は飲水の回数を増やすことを提案しておいてよかったと思いましたが、それでも梅雨明け後の猛暑が気になりました。
キックオフは午前10時。8時過ぎにグラウンドに着くと、すでに強い日差しが降り注いでいます。「強烈な」というより「凶悪な」と表現したほうが適切と思うほどの日差しでした。
残念ながらこのグラウンドの更衣室は徒歩で5分以上も離れており、3分間の休憩をとって体温を下げる「クーリングブレイク」に適した場所はありません。そこで相手チームのマネジャーに歩み寄り、こう話しました。
「試合中の飲水では、プレーヤーはピッチ内にいなければならないことになっていますが、このグラウンドには、幸い、屋根のあるベンチがあります。風通しも良さそうなので、ピッチから出て、ベンチに座っての飲水を審判に許可してもらったらどうでしょうか」
相手チームは「それはいいですね」と、即座に賛成してくれました。主審が到着すると、2人でその話をしました。「ちょっと検討させてください」という返事でしたが、2人の副審と話をすると、すぐに戻ってきて、「了解しました。ご提案の通りにしましょう」と快く言ってくれました。
相手は強豪で、私たちのチームは押し込まれて苦しい試合になりましたが、後半半ばまで無失点のままよく粘りました。しかしちょっとしたスキから1点を失い、終了直前にもう1失点喫して0-2の敗戦。アディショナルタイムが5分間もあったのには驚きましたが、飲水が2回、得点が2回、選手交代もそれぞれ数回あったので、妥当だったのでしょう。
「あのようなスキは、今後なくすよう、忘れないようにしよう」
試合後、私は選手たちにそう話しましたが、同時に、この過酷な状況でよく力を合わせて最後まで戦ったと、みんなをほめました。
しかし何よりもほっとしたのは、自分たちのチームだけでなく、相手チームも、そして3人の審判員たちも、具合が悪くなることはなく、試合を終えられたことでした。
日本サッカー協会(JFA)が今年5月21日に改訂して配布した「熱中症対策ガイドライン」には、「状況に応じて、飲水タイムを前後半それぞれ2回以上取ることは妨げない」とされています。最初の提案に問題はありません。ただ、ピッチを離れ、ベンチの日陰で飲水することは、このガイドラインでは認められていません。
しかし相手チームも、そして審判員たちも、「安全な試合」のためにと、「良識」を発揮してくれました。与えられた条件の下で考えられる限り安全な試合にしようとする努力は、この競技に関わる人すべての責任です。誰もがその責任を自覚し、果たそうとしたことに、私は深い満足を感じました。
「プレーヤーの安全」は、「リスペクト」の最優先事項です。さらに暑さが厳しくなったグラウンドを後にしながら、「来年は、7月の公式戦はなんとしても避けよう」と、私は考えていました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年9月号より転載しています。
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