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[特集]指導者の聞く力 ~いつの時代も追求すべきものがある 古沼貞雄さん(矢板中央高校サッカー部アドバイザー)インタビュー
2022年10月28日
高校サッカー界屈指の名伯楽だ。1970年代以降、帝京高校を強豪に仕立て上げ、全国高校サッカー選手権大会で史上最多タイとなる6度の優勝に導いた。80歳を過ぎた今もなお、指導者として育成の現場に立つ古沼貞雄さんに話を聞いた。
○オンライン取材日:2022年7月14日
※本記事はJFAnews2022年8月に掲載されたものです
サッカーに走力は必須 動き回って汗をかけ
――サッカーの指導者として、大切にしていることを教えてください。
古沼 帝京高校の指導者時代から大事にしてきたのは、「技術」「戦術」「走り」の基本です。技術の話をすると、キック、トラップ、ヘディングの基礎を徹底して教えました。どこまでこだわるかがポイントです。インサイドのパスを一つ取ってもそう。それこそ、同じパスを同じ場所へ100回成功するまで繰り返しやらせることもありました。「止めて・蹴る」の重要性は時代が移り変わっても変わらないものです。
――では、戦術の基本練習はどのようなことをしていたのですか。
古沼 もともと私はサッカーの素人でした。当時、難しい戦術を教えろと言われても、よく分からなくてね。1960年代、帝京高校のサッカー部は狭いグラウンドで練習していました。当然、できるメニューは限られます。その中で重視したのは、シュート練習です。トータルで3時間あれば、そのうち2時間は、グラウンドに四つ、五つのゴールを置いて、シュートを意識した練習に費やしました。ゴール前のプレーを想定した1対1から始まり、6対6まで人数を増やし、シュートに持ち込む形をつくっていました。ハーフコートより少し狭いピッチでの4対4は、私の定番メニューです。帝京を定年退職した後、青森山田高校、流通経済大学附属柏高校、帝京長岡高校、滝川第二高校などに特別コーチとして呼ばれましたが、そのときもこのメニューを実践しました。その昔、岡田武史元日本代表監督にもこの練習方法を書いて渡したことがあったかな。選手たちに意識させたのは、ゴールに向かうこと。練習ではあえて難しい設定にして、選手たちに考えさせました。
――練習中、選手たちの話を聞くことはありましたか。
古沼 選手たちにはよく問いかけました。滝川第二高校でワンタッチの制限を設けて練習しているときでした。決まったルール通りにプレーしない選手がいたので、その理由を聞きました。その選手は「今のボールをダイレクトで返すのは無理です」と答えたのですが、私は「どうしてなのか?」と言いました。はじめから考えずにほかのプレーを選択するのではなく、ワンタッチでパスを返せるように工夫しなければなりません。だから、「自分で考えてほしい」と言いました。できないからといって設定を簡単にすると、それ以上の成長はありません。
練習試合でも、選手には意識を高く持ってプレーさせていました。高校年代のトップレベルであったとしても、より高い水準のプレーを求めました。取り組む姿勢を評価しつつ、厳しくするところは厳しくする。それは、走りの練習も同じです。ただ走らせていたわけではありません。
――「走り」の基本については、どのような指導をしてきたのでしょうか。
古沼 まず走るフォームです。私はサッカーの指導に携わる前は、陸上競技をしていたので、走り方にはこだわっていました。短距離、中距離、長距離では走り方が異なります。サッカーにも通じるものがあり、練習メニューに取り入れていました。とはいえ、マラソン選手を育てるわけではありませんから、工夫しましたよ。スプリント力をつけるダッシュにしても、直線で走るだけではなく、「8の字」を描くように走るとかね。サッカーにおいて走力は必須です。練習でも試合中でも、ピッチで突っ立っている選手が大嫌いなんですよ。とにかく「動き回って汗をかけ」と。ボールを扱いながらも走力は鍛えることができます。「今どこパス」は私の口癖でした。今、どこが空いているのか必ず見るようにしよう、と。ドイツ人のデットマール・クラマーさんもよく言っていましたが、「パス・アンド・ゴー」はサッカーの基本。パスを出したら終わりではなく、次のパスコースをつくるために動かなければなりません。
――古沼さんがかつて指導した帝京高校は、練習で走る量も相当だったと聞きます。
古沼 私が監督をしていたころのサッカーの合宿は、今では考えられないほど過酷でした。練習は朝5時から始まります。100人くらいの部員を5チームに分け、午前7時までは朝食の前に「メシ前リーグ」を行います。試合は30分1本。勝ったチームから宿に戻り、朝食の準備を手伝うのです。朝食が終わったら9時半から11時半まで練習です。昼食後、少し休んで午後2時から夕方6時半までは学年対抗のリーグ戦を実施しました。雨が降り、グラウンドが使用できないときは、走りのメニューが中心になります。帝京高校の合宿地、菅平(長野県)で名物だったのは、マラソンとほぼ同じ距離を走る42km走です。途中で水分をしっかりと取らせ、体調面に気を使いながらでしたが、下り20km→上り5km→下り5km→上り10kmと上り下りが激しかったので、世界一過酷なコースだと思います。浦和レッズ、アルビレックス新潟で活躍した田中達也は、4時間弱で走ったかな。特に3年生のときは「最後なので完走できるように頑張りたい」と気合を入れていました。強豪と呼ばれていたころの帝京は誰もが走力を備えていました。そこには疑いの余地がありません。
技術論や戦術論より人間力を磨くことが大事
――現在、矢板中央高校サッカー部のアドバイザーを務められています。選手たちにはどのように接していますか。
古沼 昔のように叱咤するようなことはほとんどありません。選手がミスをしても何も言いません。ただし、雰囲気が締まっていないと感じるときは、「サッカーの基本は何だ?」と問いかけます。選手たちは「球際です」と答えるんですが、練習だからといって手を抜いたら試合で通用しません。競り合いではボールをしっかりと見て、相手に体を寄せなければならない。試合はもちろん、練習から激しく戦うことが不可欠です。
思い出したことがあります。帝京時代に初めてドイツ遠征したとき、現地のドイツ人指導者に「帝京の選手たちはボール扱いがうまいけれど、それだけでは勝てないよ」と言われたんです。これが真理です。サッカーは球遊びではありません。ボールを奪うか、奪われるか、点を奪うか、奪われるか。いつの時代もそこを追求していくべきだと思っています。
――育成年代の指導者に大事な素養とは何でしょうか。
古沼 いろいろありますが、一つは選手たちのやる気を引き出すこと。そして、その気にさせるには、情熱を持って選手たちと接することです。親交のあったイビチャ・オシム監督(故人)は、まさにそういう指導者でした。あれほどサッカーを愛し、選手たちと向き合う時間を惜しまなかった指導者を私は知りません。
――最後に、育成年代に携わる指導者たちに伝えたいことはありますか。
古沼 人間として信頼され、リスペクトされる存在であってほしいと思います。走りの練習でも「この監督が言うのだから走ろう」と思ってもらえるくらいに。技術論、戦術論を身につけることも重要ですが、人間力を磨くことはもっと大事で、選手からの人望がない監督やコーチは良い結果を出せませんし、優秀な選手を育てることもできません。サッカーは人生そのものです。自分だけが幸せになろうとか、自分さえよければいいという考えではうまくいかないでしょう。「年寄りが何を言っているんだ」と笑われるかもしれませんが、私には「時代遅れの男でありたい」というポリシーがあるので、いつまでも言い続けますよ。
30年以上、日誌を書き続け、気になった記事をスクラップして
いる。「指導者たる者、学ぶ姿勢を忘れてはならない」と語る
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