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リスペクトについて ~サッカーの活動における暴力根絶に向けて Vol.74~
2019年03月19日
6月3日に愛知県の豊田スタジアム、7日に大阪府の市立吹田サッカースタジアムでキリンカップサッカー2016が行われました。5年ぶりの開催となった今大会は4カ国が出場し、ボスニア・ヘルツェゴビナが優勝。良い試合を展開したにもかかわらず日本は準優勝でしたが、日本戦を含む4試合ともにレベルが高く、見どころが多かったと思います。また、サッカーそのものの面白さに加え、リスペクト・フェアプレーの観点からもすばらしいと感じました。1試合目のボスニア・ヘルツェゴビナ対デンマークはイエローカード6枚、レッドカード1枚が出る試合でしたが、残りの3試合は非常にフェアで、選手間のリスペクトも感じられる試合でした。
日本では、どの試合でも審判団がリスペクトワッペンを付けています。リスペクトとはいえ、選手のユニフォムに“メッセージ”を描くのはそう簡単ではありませんが、今回のキリンカップでは審判団だけでなく、選手にもリスペクトワッペンを付けてもらいたいと考えました。試合を見てくれている人たちに“リスペクト”をより知ってもらうと同時に、選手や審判員自身がリスペクトの心をこれまで以上に感じてプレーしてほしかったからです。
国際サッカー連盟(FIFA)に特別の許可をもらい、日本を含む4チームにも着用をお願いしました。各チームとも二つ返事でOKしてくれ、ユニフォームにリスペクトワッペンを付けてくれました。2014年に北海道の札幌ドームで開催したキリンチャレンジカップ2014の際も日本とウルグアイの選手が着用してくれました。リスペクトの大切さの理解は、世界のどこでも同じです。
キリンカップ終了後、SAMURAIBLUE(日本代表)を代表して香川真司選手、岡崎慎司選手、清武弘嗣選手の3選手、またオーストラリアから来日して審判を務めたベンジャミン・ウィリアムズ主審とジャレッド・ジレット主審がリスペクトワッペン着用のメッセージを寄せてくれました。「普段からリスペクトを意識しているが、ワッペンをつけることによってより意識できた。フェアプレー、人種差別のないサッカーをつくりたい」という心構えを語ってくれました。オーストラリアの審判員は、「この体験をオーストラリアに持って帰りたい」とも語ってくれ、われわれとしてはうれしい限りです。きっとこれからも、ワッペンがなくとも“リスペクトを着用して”プレーや審判をしてくれると思います。
キリンカップでリスペクト・フェアプレーにポジティブな気持ちになっていたときに、SNSで鹿島アントラーズのカイオ選手への差別投稿があったことを知りました。続いてV・ファーレン長崎の李栄直選手に対する書き込み。もしかすると、これだけではないのかもしれません。
サッカーファミリーの多くの方が「心が痛い」「憤慨する」と思ったに違いありません。それにしても、なぜそうした気持ちになるのでしょうか。もし自分がそんなことを言われたらどう思うのでしょうか。人には、対人のみならず、さまざまな好き嫌いがあります。自分の環境に異なったものが入ってきたり、自分の感性と違うものがあると、違和感を覚えます。しかし、自分たちの仲間の中で心地良い気持ちでいたところに、異なったものが入ってくることは嫌うべきことなのでしょうか。異なったものがあることの大切さはさまざまです。異なったところの良さ、悪さを見ることができますし、異なったものと比べて自らも見直せます。異なったもの同士でそれぞれの良さを取り入れて伸ばせば、より良いものができるでしょう。
差別解消は、簡単ではありません。個人的な感覚の問題もあり、社会構造の問題でもあります。わわわれが訴え続けても一朝一夕に好転するものではありません。JFAは、基本規程に「人種、性、言語、宗教、政治、その他の事由を理由とする国家、個人又は集団に対する差別は、いかなるものであれ厳格に禁止」とうたっています。しかし、これはお飾りではありません。国際化、さまざまな価値観、生活様式の多様化が進み、日本の社会のみならずサッカーを取り巻く環境においても、差別や暴力への認識などに対して脆弱な意識、思考、行動が見受けられます。SNSでの差別的発言の書き込みは氷山の一角です。何はともあれ、それに対して心が痛いと思えば、小さな力であると知りつつ、サッカーファミリーのひとりとして“差別は悪いこと”と認識します。リスペクトの力を信じ、差別や暴力が続かないよう、またなくなるように行動、生活していきたいと思います。
【報告者】松崎康弘(JFA常務理事/JFAリスペクト・フェアプレー委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2016年7月号より転載しています。
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