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激論とリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.49~
2017年06月20日
二宮寛さん(80)は、1976年から78年にかけて日本代表監督を務めました。単独チームでは、三菱重工(現在の浦和レッズ)を率いて日本サッカーリーグ(JSL)と天皇杯で2回ずつ優勝、JSLでは60・1%という歴代最高の勝率を残した名監督です。日本サッカー協会の「殿堂」入りもしています。その二宮さんから、非常に印象深い話を聞きました。
1969年、前年に三菱の監督になった二宮さんは単身西ドイツに渡りました。そして何のつてもなくボルシア・メンヘングラッドバッハというクラブを訪れ、名将ヘネス・バイスバイラーに見込まれて師弟関係となります。二宮さんを息子のようにかわいがったバイスバイラーは、翌年、1970年にメキシコで開催されたワールドカップに同行するように求めました。二宮さんにとってこれ以上ない勉強になると考えたからです。
メキシコに行くと、二宮さんはレオンという標高1815メートルの快適な場所に設けられた西ドイツ・チームのキャンプのゲストとなります。そして毎晩、西ドイツ代表のヘルムート・シェーン監督、バイスバイラー、そしてデットマール・クラマーの三者の会合に同席することを許されます。
第二次大戦後の西ドイツのサッカーは、ゼップ・ヘルベルガーという「巨人」が代表監督としてリードし、1954年のワールドカップ優勝に導いただけでなく、指導者養成にも力を注いできました。優秀な指導者が次々と出たことが、現在のドイツに至るまでのこの国のサッカーの礎になりました。
彼は66歳で引退するのですが、3人の優秀な後継候補がいました。それがシェーン、バイスバイラー、クラマーでした。誰を選ぶか、注目される中、彼は3人の個性を見極め、シェーンに代表チームを任せることにしました。バイスバイラーは指導者養成の仕事を受け継ぎ、後にブンデスリーガの監督になりました。そしてクラマーは、日本など後進地域の指導や国際サッカー連盟(FIFA)での活動を主舞台とするようになります。
1970年、レオンで、二宮さんは3人が毎晩、口角泡を飛ばすような議論をするのを目撃したそうです。ときには大声を上げ、両手で机を叩いて、自らの説を曲げず、相手の意見に反対しました。
シェーンはすでに就任から6年目を迎えた代表監督で、66年ワールドカップでは準優勝の実績も持っていました。しかしバイスバイラーもこのころにはボルシア・メンヘングラッドバッハを率いて超攻撃的なサッカーをつくりだし、ブンデスリーガだけでなくヨーロッパでも旋風を巻き起こしていました。そしてクラマーは、FIFAのコーチとして世界を飛び回っていました。3人とも確固たる自信を持ち、自説を曲げません。
議論は激しく、殴り合いになるのではないかと、二宮さんも最初は心配したといいます。しかし議論が一段落すると、ワインを出してきて乾杯になり、互いに肩を抱くように笑顔で語り合うのでした。その落差に二宮さんは驚きました。しかしそれ以上に強く感じたのは、3人の間にある強い仲間意識、単に「ヘルベルガーの弟子」というだけでなく、互いの能力を心からリスペクトし合い、ひとつの目標(この場合はワールドカップ優勝)に向かって協力しようという強い思いだったといいます。
ドイツ国内でも、3人はライバル関係と見る人が多いといいます。しかし実際には、3人は固い絆で結ばれていたのです。そしてその基礎にあるのが、互いへのリスペクトの気持ちでした。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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