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日本代表新スローガン「夢への勇気を。」について~専務理事 宮本恒靖~
2023年03月22日
日本サッカー協会(JFA)は3月9日に「夢への勇気を。COURAGE for DREAM」というスローガンを発表しました。すべてのカテゴリーの日本代表を貫く、この新しいスローガンに託した我々の思いについて、少しお話ししたいと思います。
昨年カタールで行われたFIFAワールドカップカタール大会で、SAMURAI BLUEは「新しい景色を2022」という言葉を掲げて戦いました。残念ながら、ベスト8以上という未到の領域=新しい景色にはあと一歩のところで届きませんでしたが、それでもSAMURAI BLUEの戦いぶりには国の内外から大きな称賛の声が寄せられました。その流れを絶やすことなく、さらに大きなうねりに変えていきたいと思っています。
今年は世界大会が各カテゴリーで目白押しです。最たるものは女子のなでしこジャパンが挑むFIFA女子ワールドカップ(7~8月、オーストラリア、ニュージーランド共催)でしょう。男子もFIFA U-20ワールドカップは5月から6月にかけてインドネシアで、FIFA U-17ワールドカップは11月から12月にかけてペルーでワールドカップが開催されます。U-20日本代表は3月のAFC U-20アジアカップ(ウズベキスタン)で無事、本大会の出場権を獲得してくれました。また、ビーチサッカーのワールドカップも11月にアラブ首長国連邦(UAE)で行われる予定です。
3月のキリンチャレンジカップでSAMURAI BLUEもいよいよ活動を再開します。相手は南米の強豪、ウルグアイ(24日、国立競技場)とコロンビア(28日、ヨドコウ桜スタジアム)で、15日には招集メンバーも発表されました。カタール大会の余韻に浸る間もなく、サッカーの世界ではあらゆるカテゴリーの代表選手がそれぞれの目標に向かって、もう船をこぎ出しているわけです。このタイミングが、これらすべての日本代表の合言葉になるものとして「夢への勇気を。」というスローガンの発表には適切だと考えました。
ご存じかもしれませんが、JFAは2005年元日の天皇杯決勝の際に「2050年までにサッカーファミリーが1000万人になる」「2050年のワールドカップで日本が優勝する」と宣言しました。この2005年宣言と同時に「DREAM~夢があるから強くなる~」というスローガンも発表しました。これがJFAという組織全体をシンボライズしたものだとしたら、今回発表したスローガンは、すべてのカテゴリーの代表チームの「決意」や「覚悟」を表すものと考えています。
カタール大会で躍動したSAMURAI BLUEを見て、日本サッカーは今、非常にいい状態にあるというのが一般の受け止めなのでしょう。私も大勢の人から「良かったね」という言葉をかけていただきました。大変ありがたいことですが、サッカーの専門家としては今回もベスト16にとどまったという事実も真摯に受け止めています。現状維持はスポーツの世界では停滞、後退を意味します。今よりも一歩でも二歩でもさらに前に進むには、どういうアクションが必要なのか。今、JFAでもいろいろな議論を戦わせているところです。ただ、どんな道を進むにしても、褒められてもおごらず、緩まず、たたかれてもへこたれず、下を向かない姿勢は常に土台として必要だと認識しています。世界大会に出たら怖気づいている暇はありませんし、どんな相手でも、どんな場所で戦おうとも日本らしく、勇気を振り絞って堂々と戦い、最高の結果を残すことが求められる。そういうチームの決意や覚悟を後押しするのが今回のスローガンだと思っています。
スローガンの策定は去年の秋くらいから考え始めました。すべての代表チームを横串にできるようなものが必要だねと。その際、自問自答しました。夢とは何か。我が身を振り返ると、夢は「目標×クリアした回数」というイメージです。「日本代表になりたい」という夢は子どもの頃からありました。でも、そこに一足飛びに行けるわけじゃない。サイドチェンジで狙ったところにボールを蹴られるようになるとか、地域の選抜に選ばれるとか、小さな目標を立てて、それを一つ一つクリアしながら階段を上るように夢に近づいていく。それにはメンタルの強さも必要になります。立てた目標によっては簡単にクリアできないこともあり、気持ちの方がくじけそうになる。夢に向かう自分に「なかなか簡単じゃないな」「難しいかもしれない」とささやく声もありました。それが自分自身の内なる声だったことも。そのささやきに抗い、頑張り続けるのは、それこそ勇気がいることです。その勇気は個人的には「覚悟」と言い換えることができる気もします。「どこまで行く覚悟がおまえにあるのか」。そんな問いかけを私もこれまで数え切れないほど自分にしてきました。素晴らしいと思うのは、カタール大会のSAMURAI BLUEからはその「覚悟」がひしひしと伝わってきたことです。高みを目指す代表の覚悟と矜持を存分に見せてもらった気がしました。
日本代表の試合を見た後で「夢や勇気をもらった」というお褒めの言葉をいただくことがあります。すべてのカテゴリーの日本代表には、そうやって見る者をインスパイアする力があります。その力は「ワールドカップだから出せた」ではなく、日本代表のユニホームに袖を通す以上は、すべてのコンペティションで示されるべきものだと思っています。もちろん選手はロボットではなく人間ですから、心身の状態に波はあるでしょう。チームとして拙い試合をすることもあるかもしれません。言葉にすれば簡単だけれど、実際にやるとなったら難しいことは百も承知です。それでも代表の選手は「昔のチームには魂を感じたけれど、今のチームには感じないよね」などと言わせては絶対にいけない。日本代表の試合は、いついかなるときも「選手は常に高いところを目指している、全身全霊で戦っているな」と感じてもらえるようでなければならないと思っています。
JFAの仕事は日本代表を強くすることだけではありません。選手育成、指導者養成、草の根からシニアまでサッカーを広く普及させていくことも大事な仕事です。年齢や性別や人種や宗教の垣根も超えて、この地に暮らす、あらゆる人々がスポーツに親しめる環境を整える。サッカーを通じて社会に貢献していく。それが我々の願いです。その実現のためにファン、サポーター、応援してくださるパートナー企業と共創関係を築きたいと思っています。その出発点、原点にあるのは共感だと思っています。勝っても負けたとしても胸に響くものがある。心の琴線に触れるものがある。それが人と人を結びつける。そのつなげる力がサッカーにはある。時にそれはサッカー以上の何かになり、人々を前に進ませるパワーになりうる。日本代表はそのシンボルだと思っています。そういう意味で「夢への勇気を。」は自らへの叱咤(しった)であると同時に、サッカーを愛する仲間への呼びかけでもあります。今より一歩前に踏み出して、われわれと一緒に新しい何かをつくっていきましょう!
公益財団法人日本サッカー協会 専務理事 宮本恒靖
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