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ワールドカップ予選は環境との戦いでもある ~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.04~
2019年10月10日
勝利して当たり前の雰囲気の中で勝つことの難しさ
いよいよ、2022FIFAワールドカップに向けたアジア予選がはじまりました。
個人的には、6月のコパ・アメリカからA代表の活動期間が空いていたこともあり、初戦となったミャンマー戦を前に行ったキリンチャレンジカップ2019のパラグアイ戦から、久々の緊張感がありました。
ワールドカップ予選に臨むということで、もしかしたら自分がそうした雰囲気を醸し出してしまっていたのかもしれませんが、今回の活動では選手たちにいつもとは異なる空気を感じました。パラグアイ戦の前から、チームにはピリッとしたよい緊張感が漂っていました。
アウェイで戦ったミャンマー戦は2-0で勝利することができましたが、改めてアジア予選の難しさを実感しました。
それは、アジアにおいて日本は、勝って当たり前という状況の中で戦わなければならないからです。勝って当然という状況で、勝利を収めるのは、選手たちにとって決して容易なことではありません。そうした状況の中でも、相手に左右されることなく、常に自分たちの力を発揮しなければならないからです。そのためミャンマー戦の前には、選手たちにも同じことを話しました。
直前で対戦したパラグアイは、FIFAランキングで言えば40位、予選の初戦で対戦したミャンマーは145位。でも、たとえFIFAランキングが1位の相手だろうが、100位の相手であろうが、自分たちが目を向けるところは変わらない。相手によって戦い方が変わるところはありますが、注視しなければならないのは、常に自分たちに目を向けることだからです。
フレンドリーマッチなどを行うとき、よく仮想○○という表現を聞きますが、日本代表監督として、現段階でそこを意識することはありません。常に自分たちの成長を第一に考え、フレンドリーマッチでは、そのとき対戦できる相手の中から最も強いチーム、自分たちの成長につながるチームと対戦できるようにと、日本サッカー協会にはお願いしています。
アジア予選を勝ち切ることはもちろんですが、世界で勝つことを目標にしている今、自分たちが目を向けるべきは、常に個の成長とチームの成長。それが、ひいては、世界で勝つ確率を少しでも上げることにつながっていくと考えているからです。
環境に適応することもまた判断力、柔軟性のひとつ
それは、決してアジアを甘く見ているということではありません。アウェイとなるミャンマーに赴いた際には、ワールドカップのアジア予選は、対戦相手だけでなく、環境との戦いでもあるということを実感しました。ひとつは行く先々の気候の違い。また、ヨーロッパでプレーする選手が多くなった今、時差であり、長距離移動による疲労という問題もあります。また、ミャンマー戦を戦ったスタジアムのピッチコンディションが、決して良好とは言えなかったように、ヨーロッパや日本とはかけ離れた劣悪な環境で、試合をしなければならないという事情もあります。
選手たちは、そうした気候、時差、環境の違いを克服し、乗り越え、モチベーションを、コンディションを維持して、戦わなければならない。口で言うのは、言葉にするのは簡単ですが、それはやはり容易なことではありません。
ただ、そうした状況の中、選手たちが環境に適応し、落ち着いて準備を行い、集中して戦ってくれたことには、チームを率いて1年が経ちましたが、頼もしさとうれしさを感じました。
ミャンマー戦では、ウォーミングアップをしているときから、選手たちが自発的に、「ピッチのここに水溜まりができる」「ここはボールが走るけど、ここだと止まってしまう」といった確認を行ってくれました。エンドが変わるハーフタイムにも、自然と、その情報交換は行われ、ピッチコンディションを理解したうえで、戦い方であり、ボールの運び方を選択してくれました。ピッチコンディションと相手が引いて戦ってくるという展開では、シンプルにパワーゲームを仕掛け、力でねじ伏せるという選択肢も考えられました。でも、劣悪な環境の中でも、ボールを動かし、勇気を持って相手を崩していくというサッカーに、トライしようとしてくれていた努力を、選手たちからは感じました。
これもチームコンセプトとして求めている判断力のひとつだと感じています。対戦相手はもちろんのこと、気候や環境といった自然も考慮して、それぞれが戦い方を考え、工夫し、対応していく。
そうした選手たちの柔軟性や適応性を垣間見て、それほど大きなことを要求してきたわけではないですが、これまで伝えてきたこと、求めてきたことが、少しずつ浸透してきているのではないかと感じることができました。
ただ、ミャンマーとの第1戦を終えて、自分自身も、選手たちも、満足している人はひとりもいません。試合を決める3点目を奪えなかったこと、より質を高めていくところ、個の能力を高めていくことは、世界を見据えて戦っている以上、今までも、これからも突き詰めていかなければならないと考えています。
個人的には、選手時代に経験した1994FIFAワールドカップ以来となる、アジア予選の舞台でした。当時は、予選の方式も異なり、一次予選はUAEラウンドと日本ラウンド、最終予選もカタール・ドーハでの集中開催でした。でも、手記を綴るに当たって振り返ってみて、ようやくそのことを思い出したくらい。それだけ目の前の試合に集中している自分がいました。
次は、ホームにモンゴル代表を迎えてのアジア二次予選第2戦になります。モンゴル戦もこれまでと変わらず、目の前の試合に集中する。かつ、個と組織の力を高める。ワールドカップ予選は、結果にこだわり、目標を持って戦わなければならないですが、内容にも、プロセスにもこだわって戦っていければと考えています。
また、日本代表は、それができる選手の集まりであると思っています。