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ホーム > 日本代表 > 森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO - 」 > 最新ニュース一覧 > 2020年最初の活動で感じた 日本人の「調整力」と「対応力」~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.11~

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2020年最初の活動で感じた 日本人の「調整力」と「対応力」~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.11~

2020年11月04日

2020年最初の活動で感じた 日本人の「調整力」と「対応力」~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.11~

オランダに向かうため、久しぶりに空港の国際線ターミナルに足を踏み入れると、自分が知っていたものとは、全く異なる景色が広がっていました。
いつもは世界中の人たちで賑わっていた空港が、見たこともないほど閑散としていたからです。多くの店舗はシャッターが下り、出発を知らせる掲示板を見ても欠航、欠航の文字……。果たして自分が搭乗する飛行機は飛ぶのだろうか。そんな思いすら過りました。
日本では、本当に少しずつ、少しずつですが、日常が取り戻されつつあります。コロナ禍における生活に慣れてきたところもありますが、未だに予断を許さない状況にあります。特に世界は、まだまだ大禍にあります。
それだけにオランダへと旅立つときは、約10カ月ぶりに日本代表の活動ができることに身が引き締まるとともに、尽力してくれた多く皆様への感謝の気持ちで胸が熱くなりました。
ご存じのように、日本代表は10月5日からオランダにて9日間活動し、カメルーン代表とコートジボワール代表との試合を行いました。
これが2020年、最初の活動でした。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、3月、6月、9月……さらに言えば東京五輪と、日本代表の活動が次々に延期になる中、僕が感じていたのは、準備を進めていたスタッフたちの苦労でした。
何とか活動を行う方法はないだろうか。関係者やスタッフは、コロナ禍においても、ありとあらゆる方法を模索し、想定して動いてくれていました。例えばプランAが難しければ、プランBはできないか。プランBもダメならば、プランCで実施できないか。さまざまな状況をシミュレーションし、いろいろな選択肢を考えてくれていました。
それらの可能性が次々に消えていきましたが、準備を進めていたことによる事後処理は多岐にわたります。そのたびに、心身ともに大きな気苦労があることを感じ取ってもいました。
オランダ遠征にしても、自分の肌感覚としては、決定から1カ月程度で、すべての準備を整えていただいたのではないかと感じています。

まず、実現に際しては、政府の許可を得なければならなかったことでしょう。それは日本の外務省だけでなく、オランダ政府であり、オランダサッカー協会の理解もなければ進められなかったはずです。そこは監督である自分が関わる範疇ではないとはいえ、大変な調整を行いオランダ遠征が実現に至ったことは想像に難くありません。
自分としては、日本代表を応援してくれる多くのファン・サポーター、そしてコロナ禍で闘ってくれている医療従事者、ソーシャルワーカーをはじめとした様々な職種の方々に、そして日常生活に制約を強いられている全ての方々に少しでも勇気や希望を届けることができたらと思っていました。一方で、急遽、遠征が決まっただけに、テレビを通じて多くの人たちに、リアルタイムで選手たちが戦う姿を見せることは難しいだろうとも考えていました。
ですが、実際はカメルーン戦も、コートジボワール戦も、ともに地上波にて生中継してもらうことができました。
そこで感じたのは、日本人の「調整力」、「対応力」の素晴らしさでした。
監督である自分には、想像することしかできませんが、テレビ中継を実現させた背景には、表立った交渉はもちろんのこと、水面下での調整もたくさんあったことでしょう。
そこで僕が感じたのは、時間がないからと言って最初から諦めてしまうのではなく、できる可能性が1%でも残されているならば、それにチャレンジする姿勢でした。
しかも、日本人同士であればスムーズに話が進むことも多いでしょうが、今回は文化も習慣も異なる欧州の人たちを相手に交渉しなければならなかったはず。ましてや世界はコロナ禍にある。そうした困難な状況のなかで、多くの方が尽力し、試合をする環境を用意してくれたからこそ実現した活動だということを、遠征中も常々感じていました。
この「調整力」、「対応力」の高さは、日本代表が目指す指針に通ずるところがあるとともに、「日本の力」だとも実感しています。
国内に目を向けると、コロナ禍によりインターハイや甲子園など、さまざまな大会が中止や延期となり、子どもたちや学生たちが競技をする機会や学びの場を失いました。そうした現状においても、多くの方々が工夫し、新たな環境作りをすることで、平時とは違った形ではありますが子どもたちがプレーできる環境を作られていました。
これからも子どもたちの成長のために多くの方々が関わり、知恵を出し合い、工夫し、プレーできる環境や学びの場を作り続けてくれることを願っています。
大会や競技を行うのは簡単ではないことは十分に分かっています。それでも、今回、日本サッカー協会が先頭に立って、オランダ遠征を具現化したことで、他のスポーツ団体やイベントを開催する方々に、希望を与えるきっかけであり、活動の幅を広げる契機になったのではとも感じています。

同じ思いは、オランダの地にて久しぶりに再会した選手たちからも強く感じました。
自分たちが試合に勝利するという目標があったことは大前提ですが、それ以上に試合を心待ちにし、楽しみにしてくれている人たちに、笑顔を届けたい、笑顔になってもらいたいという思いを強く感じたからです。また、その思いがプレーにも表れていた2試合だったのではないかとも思っています。
オランダでは、感染予防を強く意識しながら活動を行いました。本来ならば、選手たちがコミュニケーションを取る貴重な場、リラックスルームを用意することができなければ、食事会場もまるで学校のように黒板に向かって食事をするような状況でした。それでも選手たちは、食事中以外はマスクをしながらコミュニケーションを取る工夫をし、お互いのサッカー感を共有してくれていました。そこでも日本人の「調整力」と「対応力」の高さを実感しました。

自分にとっては久々の現場ということもあり、喜びを感じるとともに、間隔が空いていたがゆえに、選手たちにうまく指示を伝えることができるだろうか、的確なコーチングができるだろうかと、憂慮していた部分もありました。
普段どおり言葉を噛むところは噛みましたが、体が覚えている、体に染みついている部分が多く、ピッチに立てば自然とスイッチが入るのが自分でも分かりました。
コートジボワール戦の試合終了間際に、植田直通がゴールを決め、勝利することができたのも、選手たちが応援してくれている、支えてくれている人たちに、メッセージを届けたいとの思いが結果となって表れた一面もあると感じています。

オランダ遠征は、日本代表の活動意義であり、存在価値、さらには今後の日本サッカー界のためにとっても、非常に大きな意味があったと思っています。
世界における新型コロナウイルス感染症状況は、日に日に変化しています。今後も何が起こるか、どういった状況になるかは分かりませんが、自分の姿勢が変わることはありません。
そのときできる最善を尽くす。
オランダ遠征で垣間見た日本人の特長である「調整力」、「対応力」を活かして、自分もチーム作りを進めていきたいと考えています。

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