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【短期連載】JFAメディカルセンター整形外科クリニック 福島県の皆さんと日本サッカーのために貢献していく 加藤晴康ドクター(JFA医学委員会)インタビュー

2023年06月12日

【短期連載】JFAメディカルセンター整形外科クリニック 福島県の皆さんと日本サッカーのために貢献していく 加藤晴康ドクター(JFA医学委員会)インタビュー

2009年8月1日、福島県のJヴィレッジ内にオープンしたJFAメディカルセンター。2011年に発生した東日本大震災によって休院を余儀なくされ、2021年3月20日に再開した。同センターで診療を受け持つ日本サッカー協会(JFA)医学委員会委員の加藤晴康ドクターに話を聞いた。

○オンライン取材日:2023年3月17日
※本記事はJFAnews2023年4月に掲載されたものです

メディカルセンターの意義と地元の皆さんへの恩返し

――2009年8月にJFAメディカルセンターが開設された当初、加藤先生も診療されていました。同センターの意義についてお聞かせください。

加藤 日本のサッカーを強くするためには何が必要かという話になったとき、育成年代から強い選手を育てていくことが不可欠で、そこにメディカルも積極的に関与していくことが重要だという話になりました。それが始まりだったと思います。例えば、フランスのクレールフォンテーヌ国立研究所(INF)、オーストラリアの国立スポーツ研究所(AIS)、ドイツのスポーツシューレなど世界有数のサッカー施設は、近くに必ずクリニックが設置されています。高いレベルでスポーツをするアスリートはけがが多くなりがちですし、成長期の選手は特有の傷害も抱えやすくなります。ですから、けがをしないための予防プログラム、けがに対する迅速で適切な処置、復帰に向けたリハビリなどのメディカルサポートが必要になります。技術部門とメディカル部門が連携して選手を育てていこうというモデルが、まさにJFAメディカルセンターだったように思います。

――2006年に福島県に開校したJFAアカデミー福島はフランスのINFをモデルとしたものでした。

加藤 そうですね。ただ、JFAアカデミーのためだけにメディカルセンターを創設したわけではありません。当時は、中学1年生から高校3年生までの選手がアカデミーに在籍していましたので、育成年代のサッカー選手に対するメディカルやフィジカルの取り組み、またその成果を全国の指導者に発信し、サッカー界に還元していこうという目的もありました。

――開院から1年半後、震災によってメディカルセンターは休院。そして21年3月に再開することになりました。

加藤 メディカルセンターを再開させるにあたり、当初のコンセプトをもう一度しっかりと形にしたいと思っていました。その上で、まずは福島県の地元の皆さんに恩返しをしたいと…。

JFAがJヴィレッジやJFAアカデミーを立ち上げた際、地元の皆さんがいろいろとサポートしてくださいました。JFAアカデミーの選手たちは親元を離れて活動していましたから、週末にはサポートファミリーの皆さんにホームステイという形でお世話になっていましたし、そのほかにも田植えや稲刈りといった労作体験もさせてもらっていました。以前はこの地域に整形外科のクリニックがいくつかあったのですが、震災でほとんど閉院してしまいましたので、地元の皆さんに整形外科のサポートをしていきたいと思っています。この2年でようやくわれわれが目指すメディカルセンターの姿を展開していくための土台を築けたのかな、というのが私の印象です。


MRIも完備。JFAメディカルセンターでは予約なしで診察当日に検査が可能

各機関との連携を深めてサッカー界に還元

――JFAアカデミーやJFAフィジカルフィットネスプロジェクトとの連携など、これから活性化させていきたいことはありますか。

加藤 現在はシニアサッカーや女性の40歳以上のサッカー、そして障がい者サッカーなど幅広くサッカー活動が展開され、Jヴィレッジでもそうした大会が多く開催されています。グラスルーツでサッカーをプレーされる人々がけがなどでドロップアウトすることなく、また、健康を保つという点においてもサッカーというスポーツを活用し、生涯スポーツとして楽しんでいただくために、何をどう取り組んだらいいのかといった情報も発信していけたらと考えています。いろいろな情報をメディカルセンターに集約させ、全国に発信できる形にしていきたいですね。JFAは現在、順天堂大学とスポーツ医・科学研究の推進、地域の健康増進などに取り組んでいますので、そうしたところとも連携して進められたらと考えています。今はまだ取り組めていないのでこれから徐々にですね。

JFAアカデミーでは震災前、成長期の男子に多いオスグット・シュラッター病(※)について、どうしたらこの障害を予防できるかということを研究していました。今は新たな取り組みはできていませんが、4月からは新入生が、来年からは女子も戻ってきますので、こちらも少しずつ連携していけるようにしたいと思います。

(※)特に成長期の子どもに見られる膝下の炎症。サッカーやバスケットボールなど、跳ねたり、ボールを蹴ったりする競技でよく見られる。


JFAメディカルセンターではJFAアカデミー福島(男子/EAST)の選手のメディカルケアも行う。
来年4月には女子も福島県で活動を再開させる

――先ほど地域への恩返しというお言葉もありました。メディカルセンター再開後、週1回診療を担当されていますが、皆さんの思いをどう受け止められていますか。

加藤 以前、通院されていた方と再会することもあってうれしく思いますし、新たに来られる方もいらっしゃることはありがたいです。しかし、メディカルセンターの知名度はまだ高くないと思っています。JFAのメディカルセンターが一般の整形外科診療をしていること、高齢者の方にも来院してほしいと思っていることはなかなか知られていません。この2年間、福島県内のスポーツクラブなどで講演したり、理学療法士の先生方も介護施設で体操教室をしたりするなどして少しずつ皆さんに認知してもらえるようになり、患者さんも増えてきましたが、もっと発信していかなければならないと感じています。

一方でMRI(磁気共鳴画像診断装置)があることは、震災前はほとんど知られていませんでしたが、今は遠くからでもMRI検査を目的に来院される方が少なくありません。ここのMRIをもっと有効に使ってもらうためにも、メディカルセンターの存在を広めていきたいと思っています。

――日本代表のチームドクターをされている加藤先生が診療を担当されることで、日本代表をより身近に感じられるきっかけにもなるのではないでしょうか。

加藤 そうだとうれしいですね。日本代表の選手、監督、コーチングスタッフはみんなそれぞれ個性的で、責任感や信念が強く、人間的にも素晴らしい。人として尊敬できる方ばかりです。何かを成し遂げようというときにはそうした人間力が不可欠ですし、信念を持って真摯に向き合って戦うことが大事なのだといつも感じさせられます。クリニックでも、まずは目の前の患者さんのために何が大事なのかということを第一に考えて、地域の皆さんのためにも、メディカルセンターを、みんなでさらにより良いものにしていきたいと思っています。

――サッカーファミリーへのメッセージをお願いします。

加藤 けがをしないことが一流選手の証だと言われることが昔はあったと思います。しかし今はそうではありません。けがをしにくい体をいかにつくっていくかがとても大事です。この選手はけがが多いから、この選手は体が小さいから、で済ませるのではなく、目の前の一人一人がサッカー選手として羽ばたけるようにするにはどうすればよいのかということを、みんなが考えていけるようにしなければなりません。これはフィジカルフィットネスプロジェクトでも取り組んでいることです。そして、そのための情報収集と情報発信をメディカルセンターも一緒になって取り組んでいきたいと考えています。

JFAメディカルセンター

●基本理念
JFAメディカルセンターは、周辺地域の人々が健康な心身で生活していけるよう地域社会をスポーツ医学的にサポートしていくとともに、トップアスリートがスポーツにおいてパフォーマンスをいかんなく発揮できるよう、医科学分野から積極的に支え、日本におけるスポーツ文化の醸成に寄与します。
そして、スポーツ医科学の新たな役割を創成し、日本からアジア、そして世界に情報を発信し、国際社会に貢献します。

●事業コンセプト
①スポーツ医療事業:アスリートへの高いレベルのスポーツ医学的サポートを行う。
②地域医療事業:地域住民へのスポーツ医学的サポートによる、予防医学と医療の提供。
③研究・普及事業:全国・世界にスポーツ医学的リサーチ結果の発信を行う。

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