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第7回 サッカーで脳振盪? [ JFAスポーツ医学委員会 谷 諭 ]
2011年04月01日
サッカーではヘディングはするものの、本来、頭を打つようなスポーツではありませんから、ボクシングやラグビーなどと違って、脳振盪は縁がないように思うかもしれません。でも、実はフィールドでは時々起きているのです。しかも、脳振盪って、結構、誤解されているところが多いのです。
脳振盪ってなに?
脳振盪は、みなさん「頭を強く打ったときに意識を失うこと」という風に思っていませんか?確かに「意識を失う」のも脳振盪ですが、それだけではなくて、表1にあるように、頭を打った後に起きるいろいろな症状も脳振盪かもしれないのです。
たとえば、いわゆる「ぼけた」ような状態(頭を打った前のことや後のことを覚えていない、敵と味方を間違えたり、サイドを間違えたり)や眼や耳の症状として「星が見える」「ものが二重に見える」「耳鳴り・めまいがする」、あるいは頭痛や吐き気というのもあります。
そして、そのような症状が多くの場合1日以内で良くなるのですが、時とすると2週間、あるいはそれ以上続くこともあるのです。
脳振盪って、どうしておきるの?
脳振盪は、なんだか頭をひどく打ったときに起きるものだと思いがちですが、じつは、「頭を急に揺すられちゃう」という状況でも起きるのです。つまり、頭はひどく打ってはいないが、ヘディングなどの空中戦で背中から地面に落ちてしまったときなどでも、頭そのものがひどく揺すられて、起きることがあるのです。
脳振盪は、あとで元気になるからいいじゃない?
脳振盪を起こした後に表1にあるようないろいろな症状があるときは、実は、脳の調子(血の巡りなど)が良くないのが判っています。そのようなときに、もう一回頭を打ってしまうと、致命的な事になりかねないのです。サッカーでも死亡したという事例があるのです。
じゃあ、「元気になればいいのか?」というと、そうとも言い切れないのです。脳振盪(意識を失うばかりではなくて、軽いものも含めます)を繰り返していると、アルツハイマー病ではないのですが、認知症になりやすいと言われています。ですから、脳振盪を繰り返すということは、脳にとっては、決して将来的に安全だと言うことはないのです。
脳振盪を起こしたらどうしましょう?
脳振盪を起こしたときには、脳の調子がおかしいわけですから、まずは、心も体も休息を取ります。そして、症状がなくなってから、表2にあるように、徐々に元のスポーツレベルに戻れるように、段階的なプログラムを組んでいくようにしましょう。もしも、復帰のプログラムの最中に再び頭痛や吐き気などが起きるようでしたら、プログラムを一つもどすようにしましょう。
この復帰のプログラムはFIFAのみならず、IOC, IRB, IIHFなど主なスポーツ団体で批准されているものですから、あるいみ世界基準です。これから逸脱した指導などは、もはや前時代的なものですから、サッカー関係者は将来あるプレーヤーのために積極的に励行するようにしましょう。
表1 脳振盪の徴候
早期 | 慢性期 |
---|---|
頭痛 | 記銘力障害 |
めまい | 集中力低下 |
混乱 | 易刺激性 |
耳鳴り | 睡眠障害 |
悪心 | 人格変化 |
嘔吐 | 易疲労性 |
視覚変化 |
表2 推奨される復帰のガイドライン
- 運動中止と休息、症状がなければ次のステップへ
- 歩行やサイクリングなどの軽度の有酸素的運動(抵抗性トレーニングは避ける)
- スポーツに特化した運動。徐々に、抵抗性トレーニングの開始
- 非・コンタクトトレーニング
- メディカルチェック後のフル・コンタクトトレーニング
- 試合参加