チーム紹介
鹿島アントラーズユース
2日後に公式戦を控えるなかでの大事なセットプレーの練習が終わった後だった。選手たちが発する空気を感じた熊谷浩二監督はすぐに選手全員を集め、身振り手振りを交えながら熱く訴えかけた。「なんとなくつまらない? やらされているだけ? そんなの当たり前だろ! やりたいことだけ、好きなことだけやれるわけじゃない。向こうに行ったら散々『ああやれ』『こうやれ』とやらされる。それができる選手が向こうに行けるんだ!」。
“向こう”とは通路を挟んだグラウンドで練習する鹿島アントラーズのトップチームのこと。今季から熊谷監督が就任したことでトップの存在は一気に身近なものへと変じた。現在、トップチームを率いるトニーニョ・セレーゾ監督は熊谷監督が現役時代のときに抜擢した恩師。トップとユースを師弟関係にある二人が率いることで、トップチームとの交流は見違えるほど活発になったのである。
昨季までトップとの練習試合は、年間で1試合程度しか行われてこなかったが、今季に入ってからはすでにその数は二桁に達しようとしている。さらに、普段の練習にも何人かが呼ばれるようになった。熊谷監督はそれを“理想の形”と考え、トップチームの協力と姿勢に敬意を示す。「セレーゾも、選手の顔と名前とポジションを覚えてくれるようになった。最初のうちはこちらから送り込んでいたけれど、回数を重ねることで最近は誰々と選手を指名してくれるようになった。下部組織との関係性と一貫性が、あるべき形に少しずつなりつつある」。
当然、選手たちに与える刺激も大きい。「プロの選手とやることはすごく刺激になります。動き出しが早いので対応の仕方も考えています」と、DFの寺門宥斗選手はレベルの高いプロ選手とのマッチアップについてたずねると目を輝かせていた。
昨季まで3年間チームを率いたキッカ監督のサッカーから大きな路線変更はない。[4-2-3-1]を基本とするシステムは変わらず、やっているサッカーも変わらない。しかし、プロと接する機会が増えたことで、選手の多くは自分と“向こう”を比較しながら日々の練習に取り組むようになった。熊谷監督が求める厳しい規律もプロの世界で生き抜くためのもの。選手たちも「やるべきことがハッキリして分かりやすい」と歓迎していた。
昨季はジュニアが全日本少年サッカー大会で初優勝を飾り、今季はジュニアユースが日本クラブユース選手権(U-15)大会で初優勝。トップチームに比べておとなしかった下部組織が成果をあげ出した。選手にはそのことも良い刺激となっている。
「アントラーズはトップが強い。下部組織も勝ってるからといって自分たちが偉そうにできる立場じゃない。でも、今度はユースの番。プレッシャーはあるけど負けられないと思います」(MF千葉健太選手)
取材直後に行われた、流通経済大学付属柏高校との一戦を4-1で快勝した鹿島アントラーズユース。理想的な戦いができた自信を胸に残った試合でも全力を尽くす。
選手寮からクラブハウスまでは自転車で移動。雨の日も風の日も足となる相棒の面々
2組に別れてサイドチェンジの練習を実施。ファーストタッチでボールの置きどころに注意することと、正確なパスを出すことがコーチ陣から繰り返し要求されていた
選手の位置を確認しながら入念にチェックされたセットプレー。トップチーム同様に、セットプレーには強いこだわりを持って臨んでいた
守備にまわっても選手たちの表情は真剣そのもの
プロではトニーニョ・セレーゾに徹底的に指導された経験を持つ熊谷浩二監督。 厳しい言葉にも選手に対する愛情が溢れていた
監督の言葉に耳を真摯に傾ける選手たち。監督のゲキが飛んだ後、練習は再び締まった内容に
紅白戦で激しくボールを奪い合う選手たち。球際の激しさは公式戦さながら
持ち味のドリブル突破で何度もチャンスをつくっていた色摩雄貴選手。次の流経大柏高戦ではダメ押しとなるゴールも決めた
練習が終わると全員でグランドを歩きめくれた芝をチェック。深く穴が空いてしまったところには砂を入れてケアをしていた
監督・選手コメント
熊谷浩二 監督
春先に比べると良くなりましたが、練習の目的を考えることがまだ習慣化できてないと思います。あとは、5つの引き分けが物語るように、負けずに追いついたこともあるし、勝ち切れずに追いつかれたところもあります。それをどうやって勝ちに持っていくのか。チーム全体で、試合の流れを感じてプレーできるようになることが今後の課題です。
DF 3 寺門宥斗 選手
勝ち切れていない試合も多いですが手応えは感じています。チームでまとまったときに2つ勝てているし、そうでないときは、レイソルに負けたときのように集中力が切れてチームでやるべきことがバラバラになってしまう。残り試合数は少ないですけど、最後までチームでまとまるところを強化していきたいです。
MF 5 千葉健太 選手
練習するにつれて疲労は溜まるものだとは思うけど、一つひとつの練習に100%で打ち込むことが、このすばらしい環境への恩返しになると思っています。そうでないと夢は達成できないし、それを分かっていて熊谷監督は敢えて厳しく言ってくれている。自分たちはそれを謙虚に受け止めて、その日に出せる100%を出すことが自分たちの力になっていくと思います。
MF 8 平戸大貴 選手
トップチームへの練習参加は良い経験になっています。プロになったらトップの選手からポジションを奪って追い越していかないといけないので、練習からそれを意識して一つひ一つやろうと思うようになりました。チームとしては、立ち上がりなどやられちゃいけない時間でやられているので、後期は先制点を取ったらそこから畳みかけられるようにしたいです。