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【国立の名シーン】白いポストに残ったボールの跡(1967年10月9日/メキシコ・オリンピック アジア東地区予選 日本vs韓国)
2019年12月09日
天皇杯 JFA 第99回全日本サッカー選手権大会の決勝が2020年1月1日(水・祝)に、新しく生まれ変わった国立競技場で開催されます。ここでは元サッカー選手や記者といったサッカーファミリーの皆さんに「私が思う国立の名シーン」を振り返ってもらいます。
白いポストに残ったボールの跡
1967年10月7日(土)/メキシコ・オリンピック アジア東地区予選 日本vs韓国
大住 良之(サッカージャーナリスト)
「あのゴールポストは、どうなったのだろう…」
その試合から何十年たっても、かつての国立競技場を訪れるたびに、私はあのシュートのことが頭をよぎるのを止めることができなかった。
1967年10月7日(土)。雨の土曜日だった。
翌年のメキシコ・オリンピックの出場権をかけたアジア予選第1組は、日本のほか、韓国、南ベトナム、レバノン、台湾、そしてフィリピンの6カ国で争われ、9月27日(水)から10月10日(火)まで、国立競技場を舞台に総当たり方式で開催された。1位のみに出場権が与えられるという厳しい予選だった。
その4ラウンド目、10月7日(土)に国立競技場のピッチに立ったのが、全勝同士の日本と韓国。この試合の勝者が「メキシコへの切符」をつかむのは確実だった。
日本はエースのFW杉山隆一が4日前のレバノン戦で脱臼した左肩に痛み止めを打って強行出場、1点を決めるなど前半は絶好調で2-0で折り返した。しかし後半、突然雲行きが怪しくなる。韓国が日本ゴール前にロングボールを放り込んで圧力をかけ、51分、69分と得点を重ね、あっという間に追いついたのだ。だが日本もその直後にMF宮本輝紀のスルーパスからFW釜本邦茂が力強く右足を振り抜いて再びリードを奪う。
しかし「これでオリンピック出場決定か」という安堵もつかの間だった。勝ち越しゴールのわずか2分後、韓国は日本のクリアが小さくなったのを拾ったMF金基福が強烈なミドルシュートをたたき込み、試合を再び振り出しに戻したのだ。
こうなると勢いは韓国にある。力とスピードで上回る韓国が猛虎のように日本ゴールに襲いかかる。そして3-3のまま後半の45分を回った直後、また韓国の赤いユニホームが日本のペナルティーエリア正面でボールを拾う。金基福だ。渾身(こんしん)の右足シュート。スタンドのファンの誰もが目をつむった。
シュートは日本ゴールの中央からやや右の上を襲った。GK横山謙三の体が素晴らしい反応で宙に舞ったが、ボールには届かず、体を反らせながら目と顔だけがボールを追った。
その瞬間、「カーン!」という金属音が鳴り響いた。ボールは日本ゴールのバーを直撃し、大きく跳ね返ったのだ。
九死に一生を得た日本は3-3のまま引き分け、3日後の南ベトナム戦をなんとか1-0で勝つと、得失点差で韓国を上回ってかろうじてメキシコ・オリンピックの出場権を獲得した。そのオリンピックで銅メダルを獲得したことが、その後の日本サッカーの歴史にどれほど大きな意味があったのか、誰でも知っているに違いない。
秋雨前線が停滞し、東京は雨の日が続いていた。1週間前の9月30日(土)から、東京はずっと厚い雲の下にあり、断続的に細かな雨が降っていた。国立競技場のアンツーカーのトラックには水たまりができ、照明が反射するなか、無数の水の輪ができた。
当時の国立競技場のピッチは90年代以降のような水はけの良さがなかった。この日は試合前には雨が上がっていたが、ピッチはぬかるみ、試合終盤には、日本代表の白いユニホームは黒土でひどく汚れていた。そして真っ白だったはずのボールも、黒土で汚れていた。
金基福のシュートが跳ね返った直後、日本のゴールを見ると、白いバーにボールの跡が黒々と残っていた。まるでゴールバーが「日本代表を救ったのは僕だ」と主張しているようだった。
オリンピック出場権獲得の余韻を楽しむ間もなく、1週間後に日本サッカーリーグの後期が開幕する。国立競技場でも、10月16日(月)には日立本社(現在の柏レイソル)対三菱重工(現在の浦和レッズ)の試合がナイターで行われた。その2日前にまた雨が降ったにもかかわらず、国立競技場の北側(メインスタンドから見て左側)のゴールを見ると、バーは金基福のシュートの跡がまだ黒々とついたままだった。そしてその跡は、その後もずいぶん長い期間残っていた。
サッカーとは綱渡りのようなゲームだ。あのシュートがもう数センチ低ければ、オリンピック出場も銅メダルもなかった。
「がんばった結果の出場権獲得だったけれど、幸運もあったということを覚えておかなければならないよ。謙虚さを忘れてはいけないね」
バーに黒々と残されたボールの跡は、サッカーの神様からのこんな声だったのかもしれない。そして国立競技場のゴールバーが真っ白になったころ、日本のサッカーは銅メダルに有頂天になり、そのなかで進歩の足を止め、長期間の低迷期に陥ってしまったのかもしれない。
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