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審判員たちを見える存在に ~いつも心にリスペクト Vol.58~
2018年03月20日
1月に中国で開催されたAFC U-23選手権は、森保一監督が率いて2020年の東京オリンピックを目指すU-21日本代表の最初の公式戦として大きな注目を集めました。
2014年にオマーンで第1回が開催されたこの大会。2016年にカタールで行われた第2回大会では、決勝で韓国に2点のビハインドから3-2の大逆転勝利を収めた日本が初優勝を飾り、リオデジャネイロオリンピックへの出場権を獲得したことで記憶に残っているファンも多いと思います。
さて、中国南部、上海を取り巻く4都市で開催された今年の第3回大会では、初めて「追加副審」が使われました。これまでの主審、副審2人、第4の審判員に加え、両ゴールの脇、ゴールラインの外に位置して主審をサポートするのが「追加副審」です。日本でも、2016年からJリーグYBCルヴァンカップと天皇杯全日本サッカー選手権大会の終盤の試合で使われて、ずいぶんおなじみになってきました。「Additional Assistant Referee」という英語名から、「AAR」と略されることもあります。
この大会のテレビ中継を見ていて「あれ?」と思ったのは、主審、副審、第4の審判員の名前はキックオフ直前に紹介されたのですが、追加副審の名前が紹介されなかったことでした。試合前に配布されるメンバー表には追加副審2人の名前も出ていましたが、アジアサッカー連盟(AFC)の公式サイトを見ると、試合記録にも審判員は4人しか出ていませんでした。
追加副審は、手にした旗で判定を下す副審と異なり、ボールがゴールラインを割ったかどうか、ペナルティーエリアでどんな反則があったのかなどを、主審や副審とつながれた無線のコミュニケーションシステムを使い、言葉で伝えます。スタンドから見ていても、実際にどのように判定に関わっているのか、わかりにくい存在ではあります。
しかし両チーム11人ずつの選手、そして主審、2人副審、第4の審判員とともに、試合の重要な「キャスト」であることは間違いありません。当然、試合の公式なメンバー表、そして公式記録に、その名前を明確に記入しなければなりません。追加副審だけでなく、一昨年から世界各地で試験運用されている「ビデオ副審(VAR)」についても同じです。
かつて、日本のテレビ中継では、審判員は「刺身のツマ」のように扱われ、試合前には何も触れられず、イエローカードが出されたり、何か判定を巡るトラブルがあったときに、初めて、
「なお、本日の試合は、○○主審、△△副審、××副審の三氏審判員で行われています」などとアナウンサーが紹介するのが定番でした(驚くべきことに、いまでもときおりそうした放送に出くわします)。今回のAFC U-23選手権の放送では、試合前にフルネームで、しかもテロップ入りで4人の審判員を紹介していました。それがなぜ追加副審を紹介しなかったのか―。非常に残念と言わざるをえません。
テレビ中継では、試合開始前に両チームのメンバーとともに審判員をしっかりと(できれば映像を入れて)紹介するべきだと、私は考えています。
「自分たちは黒子だから目立つべきではない」―。審判員たちはよくそう話します。しかし勝敗を左右する重要な判定を下すのですから、「黒子」などではありません。映画にたとえれば立派な「登場人物」と言わなければなりません。
誰がどんな役割でこの試合の判定に関わっているのか、観客やテレビ視聴者に明確に伝え、審判員を見える存在にすることは、彼らへのリスペクトとして当然のことだと思います。「刺身のツマ」のように扱われてうれしい人がどこにいるでしょうか。名前さえ紹介しないというのは、言語道断です。
試合の主催者が、そして中継するテレビ局が審判員たちにリスペクトの姿勢を示すことは、観客や視聴者の審判員たちへのリスペクトにつながるはずです。そしてそれは、サッカーという競技のより深い理解につながるでしょう。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2018年2月号より転載しています。
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