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勝点1は「お互いにがんばったね」 ~いつも心にリスペクト Vol.55~
2017年12月20日
10月22日、台風21号の影響による雨の中、埼玉スタジアム2002で行われたJリーグの浦和レッズ対ガンバ大阪は、3-3の引き分けで終わりました。終始攻め続け、3点を奪った浦和。MF倉田秋とMF井手口陽介の献身的な動きでそのたびに同点に持ち込んだG大阪。見事な熱戦でしたが、試合が終わると両チームの選手たちは共に失望の表情を浮かべていました。順位を上げようと勝点3を目指した試合で、共に「負けに等しい勝点1」に終わってしまったからです。
勝てば3、負ければ0、引き分けなら共に1。リーグ戦で与えられる勝点は、いまでは誰も疑うことのない常識になっています。しかしこれは、150年を超えるサッカーの歴史の中では、比較的新しい制度といっていいものです。
1990年にイタリアで開催されたワールドカップは、「守備偏重でつまらない試合が多かった」と批判を受けました。全52試合で生まれたゴールは115。1試合平均2・21と史上最少記録でした。なんとか攻撃的な試合にしたいと苦慮した国際サッカー連盟(FIFA)のジョセフ・S・ブラッター事務総長(当時)が思いついたのが「勝点3制度」でした。それまでは、ワールドカップも「勝利に2、引き分けに1」というサッカーの伝統的な勝点制度で行われていました。狙いは的中し、4年後の1994年アメリカ大会では総ゴール数が23%増しの141(1試合平均2・71)となりました。
これに力を得たFIFAは、その秋、世界の全てのリーグ戦を「勝点3制度」で行うことを決めたのです。
私は、ワールドカップを筆頭にしたプロのサッカーでは勝点3制度は悪くないと考えています。しかし入場料を取って試合を見せることを目的にしているわけではないアマチュア、特に少年少女の試合では、「勝点2制度」の方が適しているのではないかと、ときどき考えます。
サッカー少年・少女はサッカーが大好きで、サッカーをすることが楽しいから、彼らは試合をしています。ゴールを決めれば天に昇るほどうれしいし、負けていればなんとか取り返そうとがんばります。
そして規定の時間が終了すると、勝敗がつきます。試合が終了したときに得点をより多く挙げたチームが勝ちになりますが、同点なら引き分けです。
「勝点3制度」だと、引き分けで勝点1は、「両方とも残念だった」というネガティブなニュアンスにならないでしょうか。それに対して「勝点2制度」では、勝ったときの勝点2を2チームで分け合う形になり、「両チームともよくがんばった」というポジティブな形になる気がします。
日本サッカー協会の主導で日本のサッカーに関係する全ての人がいま「リスペクト(大切に思うこと)プロジェクト」取り組んでいます。チームメートだけでなく相手チームやレフェリー、役員、用具・施設など、自分がサッカーを楽しむ中でかかわる全ての人やものを大切に思う心を育てようというものです。
「リスペクト」は、あらゆる年代、あらゆるジャンルのサッカーで必要とされていますが、中でも少年少女にこうした心を身につけてもらいたいと思っています。少年少女は日本のサッカー、日本社会の未来だからです。
試合は勝つために全力を尽くさなければなりません。しかし試合が終わったら、もう勝敗を争う必要はありません。両チームのプレーヤーがお互いに「よくがんばったね」と認め合い、心から「楽しい試合ができてありがとう」という気持ちを持つことができたら、勝利以上の価値があります。その気持ちからいろいろなものを大切にする心も生まれてきます。
もし引き分けたときに「お互いにがんばったね」と思えるきっかけになるのなら、グラスルーツのサッカーで「勝点2制度」に戻すことを考えてもいいのでないかと、私は思っています。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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