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キャプテンの役割 ~いつも心にリスペクト Vol.51~
2017年08月20日
6月13日にイランのテヘランで行われたアジア最終予選のイラク戦。長谷部誠が不在の中、キャプテンを表すアームバンドを巻いたのは本田圭佑でした。
試合をする上でキャプテンを決めなければならないのは常識です(キャプテンがいなければ試合前のコイントスができません)。しかし以前はずっと競技規則の中に「キャプテン」という言葉はありませんでした。昨年、競技規則の文言が大幅に書き換えられた中で、ようやく表れました。
「チームのキャプテンは、なんら特別な地位や特権を与えられているものではないが、そのチームの行動についてある程度の責任を有している」(競技規則第3条第10項)
現在はJリーグでもアームバンドが義務づけられています(「ユニホーム要項第7条」)が、この習慣が一般化したのはそう古い話ではなく、ワールドカップでもすべてのキャプテンがアームバンドを巻くようになったのは1974年の西ドイツ大会からのことだったと思います。
しかし、「キャプテン」の存在はサッカーが始まったころから重要でした。19世紀半ばにサッカーが生まれたころにはレフェリーはおらず、重大な反則があった場合には自チームのキャプテンがその選手を退場にする権限を持っていたほどでした。
さて、サッカーの競技規則を制定する国際サッカー評議会(IFAB)が昨年の競技規則書き換えでわざわざ「キャプテン」の項目を加えたのは、現在のサッカーに対する深刻な憂慮があったからにほかなりません。
判定に対する異議、あからさまな時間かせぎ、選手間、ときにはチームの多数の選手が入り乱れての対立…。現代のサッカーでは毎試合のように繰り広げられているこのような醜態が、サッカーのイメージを損ね、観戦の楽しさを奪い、ひいてはサッカーの価値を下げてしまうと、IFABは考えています。
その対策として、いろいろな競技規則の改正案を出すとともに、現行の競技規則のままでもできることを提示しました。その第一に挙げられたのが、「キャプテンの責任範囲を広げる」ということでした。
・キャプテンは、主審とチームとのコミュニケーションの主要な存在となる。
・キャプテンは、重大な論争になる状況において、主審と話すことができる唯一の存在となる。
・キャプテンは主審が混乱を鎮める手助けをする。
こうしたキャプテンの役割を明確にするために、IFABと国際サッカー連盟(FIFA)は「キャプテンの責任に関する規約」を作成すると約束しています。
1966年ワールドカップ決勝の延長戦、イングランドのハーストのシュートが西ドイツのバーをたたいてほぼ真下に落ちました。主審と副審が協議してゴールを認めると、何人もの西ドイツ選手が副審のところに寄ってきてののしり始めました。そこに割って入ったのがキャプテンのウーベ・ゼーラーでした。彼は選手たちにプレーに戻るように話し、それによって試合は再開されました。
Jリーグでも、ことし素晴らしいキャプテンの行動がありました。
5月20日の磐田×柏。後半9分、1-0でリードした柏が攻め込み、武富孝介がゴールに迫ったところに磐田のGKカミンスキーが飛び込み、武富が倒れます。主審はPKの判定。しかし副審との協議の結果、カミンスキーの手が先にボールに行っていたことが分かり、そのPKを取り消してドロップボールでの再開を指示しました。
当然、柏の選手たちは激怒して主審を取り囲みます。そこに入ってきたのが柏のキャプテン大谷秀和でした。彼は両手を広げながら主審の前に立って柏の選手たちが主審に近寄るのを止め、「プレーに戻ろう」と話しました。混乱はここで終わり、試合はドロップボールで再開されました。
キャプテンの役割―。これからみんなで考えるべきテーマかもしれません。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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