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上川徹JFAリスペクト・フェアプレー委員会委員長が語るリスペクト精神とは ~いつも心にリスペクトVol.2~
2013年07月03日
選手とのコミュニケーションでリスペクトを実感
審判員時代、選手とのコミュニケーションを通じてリスペクト精神を実感することが多々ありました。中でも思い出深いのは、2006年FIFAワールドカップドイツ大会の3位決定戦、ドイツ対ポルトガル戦でのエピソードです。
試合序盤、ドイツのベルント・シュナイダー選手が私のジャッジに対して執拗に不満を示してきました。そこでアウト・オブ・プレー時に試合を止めて、「落ち着いてプレーしよう。このような行為を続けるのであれば警告を出さなければならない」と話したところ、前半終了間際に彼の方から、「さっきは悪かった。ナーバスになり過ぎていたが、もう大丈夫だ」と声を掛けてくれたのです。選手からそのような言葉を掛けられたのは初めてだったので、驚いたと同時にとてもすがすがしい気持ちになりました。試合終了後も、「今日あなたとこの試合をできたことを誇りに思う」と言ってくれて、互いの健闘をたたえる握手を交わしました。
Jリーグでは、判定に納得できなかった選手から、「今の判定が正しかったかどうか、映像で確認しておいてください」と言われたことがあります。試合後にその場面を確認したところ、私の判断は間違っていませんでした。その後、試合で再会したとき、その選手が真っ先に駆け寄ってきて、「私が間違えていました。ごめんなさい」と素直に謝ってくれました。選手自身も映像をしっかりと確認してくれていたのです。逆に私がミスジャッジをしたときには、選手に謝ることもありました。
試合中、選手の表情が曇っていたり、プレーが荒くなっているときには審判員がミスジャッジをしている可能性があります。そうした場合は選手に対し、「しっかりプレーを見るように努力するから、落ち着いてやりましょう」と声を掛けるようにしていました。ただし、選手の要求を全て受け入れるということではありません。異議を繰り返す、どう喝するといった審判員を尊重しない行為に対しては毅然(きぜん)とした態度で臨みました。選手とコミュニケーションを図りつつも、“ここを越えることは許さない”という一線を保つ。選手と共に良い試合をつくり上げるため、私自身が常に心掛けていたことです。
より長くサッカーを楽しむために、異議は必要ない
昨年新設した「リスペクト・アワード2012」(※1)は、SAGAWA SHIGA FC(昨年度で活動停止)が受賞しました。2007年シーズンから6年間、日本フットボールリーグ(JFL)で異議による警告ゼロを達成しています。SAGAWAでは指導者が選手に対し、「サッカーを心から楽しむために、異議を唱えている時間は有意義な時間だろうか?」と絶えず問い掛けていたと聞いています。異議を唱えても判定は決して覆りません。大好きなサッカーを一秒でも長く楽しむために、決して無駄な時間は費やさない。こうした本質を理解し、異議の撲滅に取り組んだ姿勢が評価のポイントとなりました。
選手は勝利を目指して懸命にプレーしていますから、時に判定に対して不満を持つこともあるでしょう。選手が自分の感情を爆発させてしまう気持ちも理解できます。しかし、不満をいつまでも引きずり、大きなジェスチャーで異議を唱えるのは見苦しい行為であり、JFAの目指す「スピーディー、タフ、フェアなサッカー」に反します。納得はいかなくとも、判定は判定として受け入れ、すぐに気持ちを切り替えて次のプレーに移る。こうした姿勢が、見る人の感動を呼ぶサッカーを生み出すのです。
近年、各地域でユース年代のリーグ戦化が進み、試合数の増加に伴って、選手自身が審判を務めるケースが増えてきています。競技規則を学び、審判を経験することで、選手は自身のサッカー観を広げることができます。こうした試みが日本サッカーのさらなるレベルアップにつながることを期待しています。
リスペクト・フェアプレー委員会では「、リスペクトF.C.JAPAN」の公式ホームページを通じて、今後も“リスペクト精神溢れる取り組み”のエピソードを募集します。どんなささいなことでもかまいません。読者の皆さんが、普段のサッカー活動で当たり前のように行っていることの中にも、リスペクト精神溢れる行為がきっと見つかるはずです。こうしたエピソードを読んだ人が、「リスペクトって何だろう」と興味を持ち、さらに輪が広がっていく。スポーツを愛する多くの人々が、「Handshake for peace」(※2)、腕を上げて、お互いの顔の前で目を合わせて握手を交わすことができれば、より幸せな社会になるはずです。
(※1)リスペクト・アワード2012:リスペクト・フェアプレー委員会は昨年、「Respect Award 2012 リスペクトアワード/リスペクトのある風景」を設置。サッカー・スポーツに携わる人たちのリスペクト精神溢れる取り組みのレポートを募集した。36の応募の中から、2012年度はSAGAWA SHIGA FCが受賞した。
(※2)Handshake for peace:FIFA(国際サッカー連盟)は昨年5月の総会で、ノーベル平和センターとともに「Handshake for peace」活動を行っていくことを決定。サッカーを通じて平和な社会づくりに貢献することを目的としている。試合の前後に選手同士が腕を上げて、お互いの顔の前で目を合わせて握手を交わし、フェアプレーとリスペクトの精神を広めていく。昨年から全てのFIFA主催大会で実施されている。
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