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ドイツの育成年代のプレー環境(JFAnews2019年2月情報号より転載)
2019年04月22日
日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年2月情報号(No.418)では、特別企画としてグラスルーツサッカー対談が紹介されました。
■JFAnews2019年2月情報号(No.418)より転載 ■情報提供:サカイク
日本サッカー協会(JFA)技術部の松田薫二グラスルーツ推進グループ長が、ドイツのフライブルガーFC U-16で監督を務める中野吉之伴さんにドイツの育成年代の現状について話を聞きました。(構成・文:鈴木智之/スポーツライター)
ドイツのU-13は9人制 その理由とは
松田:中野さんに伺いたいのが、ドイツのジュニア年代の試合環境です。日本はU-12以下で8人制サッカーが導入されていますが、ドイツでは、どのような試合環境でプレーしているのでしょうか。
中野:ドイツサッカー連盟(DFB)はU-13までは9人制で、U-9までは5人制サッカーを奨励しています。また、子どもたちの成長段階に応じて適切な試合環境をつくることができるように、例えば、5人制サッカーであれば、ピッチを4分割したサイズでやっています。これだと、ピッチ1面で同時に4試合行うことができます。ただし、あくまでも一つの基準であって、地域によっては、U-9でも7人制を採用している試合もあります。マニュアルがある一方で、それを状況に合わせて運用していくという流れになっています。
松田:年代によって、9人、7人、5人と奇数なんですね。
中野:11人のフォーメーションからセンターバック1人、ボランチ1人を減らすと、9人になりますよね。11人制のサッカーにつなげていくことを考えると、奇数の方が11人のサッカーに結びつけやすいのかなと思います。
松田薫二グラスルーツ推進グループ長は「カテゴリーが上がるにつれてサッカーをやめてしまう子どもが多い。その現状を何とかしたい」と話す
U-10年代で試合に出られず帰ることなどない
松田:U-10の大会形式は、どのような形ですか。
中野:リーグ形式ではなく、1DAYの総当たり戦が多いですね。1試合20分(前後半各10分)で、地域の5~6チームが集まって実施します。一つのクラブからU-8とU-9のチームが参加し、最初にU-9のチームが試合をして次にU-8のチームと、交互に行います。それぞれが試合の合間に休息を取ります。施設には、クラブハウスや客席に食事をする場所があるので、保護者がソーセージやポテトを焼いて売っていて、それを食べたりしていますね。一つのクラブから複数のチームが参加しますので、試合に出られずに帰ることはまずありません。
松田:お話を聞いていると、子どもたちの発達・発育に合った形でやっていて、ボールにたくさん触れるように工夫していますね。U-12年代のJFAの公式戦は8人制ですが、U-10以下や小学校低学年は小さなピッチで5人制にするなど、年齢に合ったサイズにした方が良いのではないかと思っています。日本は、U-12年代にリーグ戦が導入されて約4年です。次にすべきことはU-10などのプレー環境の整備だと思っています。適切な試合環境でプレーすることでサッカーの楽しさを感じ、もっとうまくなりたいという気持ちが湧いてきますよね。日本では、まだ試合数が少なく、試合に出られない子どもがいるのが現状です。低学年のサッカーについては、もっと皆で考えていかなければならないと思っています。
ドイツでは試合の合間の練習などありえない
松田:中野さんの著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社刊)にもありましたが、ドイツでは本当に審判員なしで試合をするのですか。
中野:大会運営はクラブの持ち回りで、審判員のある・なしは主催クラブに委ねられています。審判員がいた方が良いと判断した場合、小学生の試合であればそのクラブの中学生選手が担当することがあります。
松田:審判員がいない試合で、例えばタッチラインを割ったボールがどちらのチームかわからないときなどはどうしていますか。
中野:もちろん、両チームがマイボールと主張したり、あるいは、判断がつかなくて試合が止まってしまうこともあります。指導者が教えることもありますが、基本的には子どもたちのペースで進んでいき、勢いのある子どもが強引にスローインを始めるなんてこともあります。既にプレーが再開しているのだから「細かいことは言わずに、ボールを追いかけた方がいいんじゃないか」という感じですね。
松田:確かにその通りですね。
中野:日本の場合は、指導者が審判員をすることも多く、指導者が試合の合間に子どもたちを見ることができないという話を聞いたことがあります。また、日本では試合の合間に練習をしたりしますが、ドイツでは見かけない光景ですね。おそらく、ドイツでそんなことをしたら、新聞に載ると思いますよ(笑)。また、ドイツには指導者を注意することのできる「育成部長」という立場の人がいて、例えば、指導中に子どもたちに怒鳴るようなコーチがいたら、それがボランティアのコーチであってもきっぱり「やめてほしい」と言います。
松田:日本の場合、現場の指導を尊重する傾向が強いですね。
中野:保護者についても同様で、あるとき、保護者が客席から相手選手のプレーに文句を言っていたら、審判員をしていた中学生が「グラウンドから出て行ってほしい」とその保護者を退席処分にしました。そういったことには厳正に対処します。
「ドイツでは子どもたちの成長に合わせてサッカーが細分化されている」と話す中野吉之伴さん
サッカーを続けられる環境づくりの必要性
松田:ところで、日本の場合は少年団、中学校や高校、大学の部活動とさまざまなルートがありますが、ヨーロッパでは、選手はどのようにキャリアを積んでいくのでしょうか。
中野:上手な選手が目標にするのはブンデスリーガのアカデミーに入ることで、早い段階でプロになれるか否かということを突き付けられます。トレセンもありますが、主な役割としては、「現時点ではブンデスリーガのアカデミーに入るレベルにはないが、将来的に可能性がある」という、才能がある選手を引き上げるために実施されています。
松田:日本とは少し異なりますね。
中野:トレセンのチームで出場する大会もありますが、トレセンでは、クラブチームではできない要素をトレーニングに取り入れたり、上手な子たちと一緒にプレーをして刺激を与えることで成長につなげていくという考え方で実施されています。
松田:ドイツサッカー協会に登録している選手は700万人ほどで、その半数以上が大人ですよね。日本とは正反対の構造です。日本の場合は4種(小学生)の登録者が最も多く、年齢が上がるにつれてその数が減っていく構造になっていて、そこが日本サッカーの課題だと思っています。登録チームも、カテゴリーが上がるにつれて強いチームしか残らなくなっていて、そこで試合に出られなくなるとサッカーをやめてしまう。ヨーロッパのクラブのように、誰もがサッカーを続けていける土壌がまだないんですよね。
中野:日本の現状を見ていて残念だなと思うのは、本当はサッカーが好きで続けたいのに、高いレベルについていけないからやめてしまう子こどもが多いことですね。
松田:小学6年生では登録者数が9万人だったのに、高校卒業時には1万人を少し超えるくらいまで減ってしまう。それだけの選手が進学の節目でサッカーをやめていくんです。
中野:途中でサッカーをやめたとしても、また戻ってくることのできる場所が必要ですよね。
松田:おっしゃる通りです。そこをなんとか改善できないか、引き続き考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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