選手・指導者向け情報
命を脅かす食物アレルギー・・・・アナフィラキシーショックについて知っていますか?
日本サッカー協会(JFA)スポーツ医学委員会では、食物アレルギーにおける悲しい事故をゼロにすることを目標に食物アレルギーに関する指針を出しました。
1)命を脅かす食物アレルギーって何ですか。
人間の身体はウイルスや細菌などの外敵を排除する働きを持っています。しかし、この働きが、排除する必要のない食べ物に対して誤って過剰に反応してしまうことを食物アレルギー反応といい、これが全身に起こり重症化して命を脅かすほどのショック症状がでることを「アナフィラキシーショック」と言います。蜂に刺されて死亡した人のニュースを聞いたことがあると思いますが、同じことが食べ物でも起きるのです。
「ぼく、卵アレルギーがあります。そんなに大きな症状は出ません。ちょっと喉がかゆくなるだけです。でも卵は食べないように言われているので、大丈夫です」という選手がいたとします。指導者は、喉がかゆくなるくらいなら大したことないなと、その話を聞き流していました。すると練習後の差し入れの卵を使ったケーキを食べて、その選手がいきなり意識不明のショック症状になってしまいました。このようなことが起こるのがアナフィラキシーショックです。この場合、適切な処置をしないと子どもが命を落とす事態になることもあります。万が一に備え、基本的な知識と対処法を知っていることがとても重要なのです。
アナフィラキシーによる死亡事故は、蜂によるものが年間20例程度であるのに対し、食物は3~5例程度です(厚生労働省統計資料より)。この死亡頻度は、熱中症の年間死亡数とほぼ同数ですので、熱中症と同様に子どもを預かる指導者の皆様は、この食物アレルギーにも十分気をつけなければならないことがわかります。
2)どんな症状がおきるのでしょうか。
食物アレルギーの症状としては、皮膚の蕁麻疹が有名だと思います。アナフィラキシーの症状はABCD+蕁麻疹と表現され、A:Airway(気道の異常), B:Breathing(呼吸の異常), C:Circulation(血圧の低下、意識低下), D:Diarrhea /Vomiting(腹部症状、下痢、嘔吐や腹痛)+皮膚症状(蕁麻疹)です。
A:かすれ声になり、呼吸が苦しくなります。B:喘息様の症状で、ゼイゼイヒューヒューが出てきます。C:末梢血管が広がり血圧が下がったり、それに伴い意識が低下したりします。D:原因の食物を身体の外に出すように、吐いたり、下痢になったりします。また、皮膚に赤い紅い蕁麻疹が出てきます。
アナフィラキシーショック症状とは、これらすべての症状が出るわけではありません。皮膚の蕁麻疹も20%の症例には出ないと言われていますので、蕁麻疹がないからアナフィラキシーではないとは言えません。しかし、皮膚の症状はとても重要なサインです。
意識状態が低下したり、呼吸器症状や消化器症状がでたりしたら、アナフィラキシーを疑いましょう。"食物アレルギーを持っている子どもが、食事後に吐いた" "突然、咳をし始めた" これらも呼吸器症状や消化器症状です。常に頭の片隅にアナフィラキシーを置いておきましょう。
3)アナフィラキシーショックの対応:救急車とアドレナリン注射
食べてから症状が出るまでの時間が短ければ短いほど重症になる可能性が高いと言われています。重症のアナフィラキシーショックは急に悪化し、心臓および呼吸が停止するまでの時間はおおよそ30分と言われています(Simons FER 2009)。対処できないまま、様子を見ていたとすると、あっという間に死に至ってしまいます。とにかく重症のアナフィラキシーショックを疑ったら、躊躇せずに適切な対応を開始しなければなりません。
重症のアナフィラキシーショックの応急処置は、<救急車を呼ぶこと>と、<自分でアドレナリンの注射(商品名:エピペン)を太ももに打つこと>です。いつ救急車を呼ぶのか、いつエピペン注射を打つのか、その判断が大変重要です。この判断については、JFAスポーツ医学委員会からの食物アレルギーの指針の資料に詳しく述べてあります。この機会に是非一度確認してください。重症アナフィラキシーショックでは、このエピペン注射を太ももの外側にぶすっと刺すことが、救命のカギとなります。注射をするという医療行為は、一般には医療従事者しか認められていません。しかし、この注射は別です。アナフィラキシーショックを起こす可能性がある人は、医師からエピペン注射を処方され携帯しています。本人が自分で注射を打てない状況の時には、医療従事者でなくとも救命のために注射することが認められています。
この注射を打つために資格が必要なわけではありませんが、突然の心停止に使用するAED(自動体外式除細動器)と同様にエピペンの使用方法について熟知している必要があります。指導者の方たちが、食物アレルギーのこと、アナフィラキシーショックのこと、注射であるエピペンのことについての知識を持つことは、万が一起こるアクシデントから選手を守るために非常に重要なことだと思います。
(エピペンの知識は、アナフィラキシーについての本や講習会から得ることができますが、エピペンのホームページからも得ることができます。http://www.epipen.jp/)
4)治療してアナフィラキシーショック症状が良くなっても油断は禁物!
アナフィラキシーショックは、症状が良くなればそれで安心できるのでしょうか。
症状が良くなっても決して安心してはいけません。アナフィラキシーの症状は、1~8時間後に再発する患者さんが20%も存在すると言われています。一度ショック症状を起こした選手は、症状が良くなっても病院を受診することが大切ですし、24時間は1人にしないことが大切です。
5)食後のスポーツ(運動)でアナフィラキシーが起こるの? ―運動誘発性アナフィラキシー―
アレルギーの原因となる食べ物を食べてから4~6時間以内に運動することによって、アナフィラキシーが起こることを「運動誘発性アナフィラキシー」と言います。この食べ物を食べても運動しなければアナフィラキシーは生じません。また、この運動誘発性アナフィラキシーは、痛み止めの内服、高温/寒冷環境、高湿度、花粉症、月経などがあると発症しやすいと言われています。
最初に起こる症状は、全身の熱感、蕁麻疹、身体のだるさなどです。悪化すると、手足(特に上肢)が腫れる(浮腫)、嘔気、腹痛、下痢、のどの腫れ、血圧低下などの症状がでてきます。発症後、直ちに運動を中止することが大切です。
「食事+運動=アナフィラキシー」という病気があることを知っておいてください。
6)まとめ
食物アレルギー=蕁麻疹という知識しか持っていないのでしたら、是非これを機会に食物アレルギー、アナフィラキシーショック、エピペン注射についての知識を追加してください。JFAスポーツ医学委員会からの食物アレルギーに関する指針をもう一度確認して頂き、万が一でもサッカーを愛する仲間たちの命が失われないように、十分な準備をお願いいたします。
参考資料
- 救急・集中治療 アナフィラキシーQ&A 箕輪良行 総合医学社
- ファイザー エピペンホームページ http://www.epipen.jp/
- 日本小児アレルギー学会ホームページ http://www.jspaci.jp/