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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第39回 埴田淳 ブルネイ・ダルサラームユース育成担当コーチ
2019年12月26日
ブルネイの印象
ブルネイの正式名称である「ブルネイ・ダルサラーム」とは、「永遠に平和な国」という意味を持ち、日本人にはあまりなじみのない遠い国かもしれません。日本の三重県とほぼ同じ面積で東南アジアのボルネオ島北部に位置しています。豊富な原油と天然ガスによる資源と国土の7割を占める熱帯雨林が象徴的な自然に囲まれた、ゆったりと時間が流れる常夏の国です。
忘れてはならないのは、国教であるイスラム教と人々の生活の密接な関わりです。1日5回の礼拝(スンバヤン)の時間があり、イスラム教徒への礼拝を呼びかける合図であるアザーンが鳴り始めると練習や試合がストップします。FIFAワールドカップカタール2022アジア1次予選ホームでのセカンドレグであるモンゴル戦のウォーミングアップ中にアザーンが鳴り始め、ウォーミングアップが中断した際には、サッカーよりも宗教ということをまざまざと実感させられました。「時間がないよ」と心の中ではハラハラでした。
普段は時間にゆったりなブルネイ人も、金曜日の正午礼拝には時間通りにモスクに集まり一斉に礼拝を行います。そのためすべてのお店が12時から14時まで閉まる光景には大変驚かせられました。
ブルネイ人の優先順位は、宗教と家族になります。サッカーは、娯楽・趣味の感覚が大きいです。皇太子がオーナーを務めるDPMM FC(シンガポールリーグ所属)の結果が常にラジオで流れてきたり、毎週のプレミアリーグのお気に入りのチームの結果で盛り上がったり、熱い日中を避けて夕方から大人たちが試合をしたりとサッカー人気は上昇していますが、子供たちが外で遊んでいる風景を見かけることは滅多にありません。
日々の活動
私がブルネイに赴任してから8か月が過ぎようとしています。Technical Development Departmentに所属し、主にU-15チームの監督をサポートしながらGKコーチをしています。日中は首都であるバンダルスリブガワンのブルネイ・ダルサラームサッカー協会のオフィスで日々の練習や試合から課題を抽出しトレーニングプランを作成したり、国際大会から得た課題克服のための様々な議論をしたりしています。
選手は学校を終えた夕方もしくは日没直後の礼拝終了後に、協会に隣接した人工芝のグラウンドで約2時間の練習を行います。選手たちは寮住まいではなく、各々の家庭からそれぞれの学校に通いながらアカデミー活動に参加します。また、ブルネイには電車がなく、主な交通手段は車になります。公共のバスもありますが、ほとんどの保護者が選手の送り迎えをするのが通例になっています。そのため、交通手段がないと言って練習に遅れたり欠席したりする選手もしばしば見受けられます。ブルネイでは、金曜日と日曜日が休日になるため、そこでリーグ戦が行われています。U-15チームは同年代のカテゴリーリーグ(全11チーム、ホーム&アウェイ方式)に所属しているため、対戦相手として十分ではありません。
また、練習試合などでは1部リーグに所属している社会人チームにも勝ってしまうこともしばしばあります。日本でいえばJ1のチームに勝ってしまうということです。ブルネイサッカーの現状がご理解いただけるでしょうか。
2019年を振り返って
日々のU-15の活動と並行し、5月からはFIFAワールドカップカタール2022アジア1次予選の代表チームのGKコーチも兼任しました。初めての断食月(ラマダーン)を経験しました。ヒジュラ(イスラム)暦で9月を意味するラマダーンはイスラム教徒にとって「聖なる月」として、日の出から日没にかけて一切の飲食を断って空腹や自己犠牲を経験し、飢えた人や平等への共感を育むことや全ての欲を断つことにより、自身を清めてイスラム教の信仰心を強めることが目的になります。そんな中での代表チームの活動は大変困難をきわめました。栄養、摂取水分量の不足、夜9時からの練習による睡眠不足。
そしてイスラム教徒にとっての断食月後は、日本人にとってのお正月やヨーロッパでのクリスマスと同じ意味合いを持つそうです。そのため、家族との時間を優先したいということから代表招集選手の9名が代表活動を辞退することになるとは想像もできませんでした。結果は2試合トータル2-3でモンゴルに敗れました。ここでも宗教と家族への深い信仰心を感じさせられました。
FIFAワールドカップ2022アジア1次予選終了後、AFF U-15選手権、AFC U-16 選手権1次予選、AFC U-19選手権1次予選も経験させてもらいました。いずれの大会も満足のいく結果ではありませんでしたが、この4つの国際大会を通して、育成システムの構築、リーグ戦環境の整備、グラスルーツ、指導者養成、取り組むべき課題が明確になり、ブルネイ人コーチとも共有ができました。ブルネイの文化、風習、宗教、家族との繋がりを大切にしながらもブルネイ人にあった短・中・長期のプランニングを持ち、現状でできることから少しずつ取り組んでいき、ブルネイサッカーの発展の手助けができるよう、そう強く感じさせられた年でありました。
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