船出は順風満帆とはいかなかった。日本代表は6月16日に行われた2018FIFAワールドカップロシア アジア2次予選兼AFCアジアカップUAE2019予選の初戦シンガポール戦をスコアレスドローで終えた。当時のFIFAランキングで154位だったシンガポールと52位の日本との差、そしてホームゲームだったことを考えれば、勝ち点3が望まれる試合だった。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が就任してから4戦目の試合、日本は立ち上がりから主導権を握ってシンガポールを押し込んだ。しかし、攻めども攻めどもゴールが決まらない。自陣に引いて徹底的に守りを固める相手に対し、中央突破を繰り返してははね返された。
指揮官が新たに植え付けようとしていた「縦に早い攻撃」も攻め急ぎの傾向につながってしまった。結局、日本は相手GKのスーパーセーブ連発にも阻まれて最後までゴールを割れず、白星スタートを飾れなかった。一方的に攻め込みながらも点が取れなかったことにはハリルホジッチ監督も「長いサッカー人生の中でこのような試合を見たのは初めてだ」とショックを受けていた。指揮官はその後も度々、このシンガポール戦を引き合いに出してクオリティの向上を誓うことになる。
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ただ、初戦では思わぬ躓きにあったハリルジャパンだったが、その後は順調に突き進んでいく。ホームで行われた第2戦のカンボジア戦は本田圭佑選手の強烈なシュート、吉田麻也選手のミドル、香川真司選手のハリルホジッチ就任後の初ゴールで3─0の完勝。テヘランで行われたアフガニスタン戦(情勢不安による代替開催)も香川選手と岡崎慎司選手が2得点ずつ決めるなど大量得点で6─0と圧勝してみせた。
続く第4戦、予選の折り返し地点となる10月8日の一戦で激突したのはグループ最大のライバルと目されたシリアだった。シリアは前評判通りに3戦全勝で勝ち進んでおり、戦前には指揮官も「我々にとって一番難しい試合になると思っている」と警戒していた。
中立地マスカットで決戦に挑んだ日本は、立ち上がりに滑り出しの良さを窺わせたものの徐々にミスが目立ち始め、主導権を握りながらも攻めあぐねる時間が増えていく。一方のシリアは守勢に回る中でもフィジカルの強さを生かしたカウンターに勝機を見出し、数は少ないながらも決定機を作って日本を脅かした。
試合が動いたのは後半10分だった。長谷部誠選手のロングパスに反応した岡崎選手がペナルティエリア内で倒され、PKを獲得。キッカーを務めた本田選手が冷静に決め、日本が先制点を奪った。さらに同25分には香川選手の左サイド突破から岡崎選手が加点すると、終了間際には途中出場の宇佐美貴史選手が3点目を奪い、勝負を決めた。
この試合を落とせば早くも自力での首位通過の可能性が消滅するという大一番だったが、終わってみれば3─0の完勝でライバルを退け、シリアを抜いてグループ首位に浮上した。
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その後も日本の快進撃は止まらない。11月12日に行われたシンガポールとのアウェー戦はハリルホジッチ体制で初の招集となった金崎夢生選手の代表初ゴールなどで3─0で勝利すると、中3日で迎えたカンボジアとのアウェー戦も2─0で制した。アウェー2連戦を白星で乗り切って年内の活動を終えた日本は、翌年3月に行われたアフガニスタンとのホームゲームでも5─0の大勝を収め、連勝を築いていく。
そして迎えた2次予選最終戦、相手は日本の背中を追いかけていたシリア。日本はすでに最終予選進出を決めていたが、この試合にはグループ首位通過と完封記録の達成がかかっていた。
日本は前半17分に相手オウンゴールで先手を取って勢いに乗ると、後半に攻撃陣が爆発した。後半21分に香川選手が待望の追加点を奪うと、同41分に本田選手、45分に再び香川選手、そして終了間際には原口元気選手がネットを揺らし、5発快勝となった。
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SAMURAI BLUEは岡崎慎司選手が史上5人目の国際Aマッチ100試合出場を果たした記念すべき試合で2次予選全8戦完封という偉業を成し遂げた。初戦こそ思わぬ足踏みを強いられたものの、終わってみればハリルホジッチ監督の目指すサッカーを体現しての予選通過となった。